好きなモノや自分の作品、思い出のひとときなどを冊子で表現する『ZINE(ジン)』をご存じでしょうか。誰もが気軽に作ることができ、人気が高まっています。
5月3日、宇城市にある不知火美術館・図書館で、ZINEのイベント『Uki(ウキ)ZINE(ジン)Market(マーケット)』が開催されました。
『ZINE』とは、個人やグループが自主的に好きなモノや作品などをまとめた冊子を意味します。日本では以前から「同人誌」「リトルプレス」などと呼ばれ、2010年代から「ZINE」という呼び名が広がったといいます。
不知火美術館・図書館で、ZINEのポップアップショップ『人と息のZINE屋さん』を5月15日まで開いている、デザイナーの河島 綾香さんはZINEの魅力をこう語ります。
【デザイナー 河島 綾香さん】
「自由に好きに作れる、自分の好きに気づけるところが魅力になります。自分が好きと思ったり、記録したいとか、誰かに知ってほしい、そういうものがZINEになるのかなと思います」この日のイベントではイラストレーターやデザイナーなどが自分の作品とそれらをまとめたZINEを展示販売しました。
【イラストレーター 五百田(いおた)ギラさん】
「かわいくて憎めない、生き生きとした顔をしているので、一人一人違った表情をしている女の子たちを見て、癒やされてほしいと思います」
4月からフリーのイラストレーターとして活動している五百田ギラさん。去年夏からアクリル絵の具でキャンバスに描く、原画の制作を始めました。
【イラストレーター 五百田 ギラ さん】
「デジタルからアナログに移るという自分の変化をイラスト集にも載せて、題名も『アナログかけるデジタル』としました。直接、キャンバスに描く、そのままのものが評価される世界なので」
(今回のこのZINEは決意表明みたいな?)
「そうですね。変化が表れた一冊です」
【デザイナー 梛木 竜斗(なぎ・りゅうと)さん】
「クライアントワークでイラストを描けるシーンが少なくて、〈こういうのを描いてみたい〉というのを出す場所としてZINEだったりとか作ったという感じです。達成感すごかったですね。リソグラフ印刷とか、自分がやったことのない新しいことに挑戦した本であるので、〈何か新しいことやってみようかな〉みたいな(読んだ人の)チャレンジ心みたいなのをくすぐれたらうれしいなと思います」
こちらのイラストは以前、ペットとして飼っていたウサギとヒヨコの交流を描いたものです。並べると出会いから別れまでの物語になっています。
【デザイナー 俵 優花 さん】
「ZINEを作る機会があると自分のモチベーションにもなりますし、日頃、仕事でしない自由なイラストを描いて、それを実際、お客さんに見てもらって、いろいろなお話を聞けて、とても楽しいと思います」
【チヨミ編集事務所 中川 千代美さん】
「私はライターなので、普段は仕事で受けたものを書くことが多いですけど、そういうことを全部忘れて自分の好きなことだけを1冊の本にしているのがその人の個性が見えて面白いので、そういうのも意図して探すのではなくて、偶然、出合えるのがいいなと思います」
美術作家の原口 勉 さんは、20年にわたって制作を続ける一つの作品をZINEにまとめました。
【美術作家 原口 勉さん】
「紹介しやすいという、誰にでも。美術館やギャラリーはそんなに毎月、展示ができるわけではないので、これだとすぐこのままたくさんの内容を伝えることができるので便利ですよね」
好きなモノを詰め込むZINE。こちらはさまざまな器(うつわ)の絵を集めたものです。
【勝田 桃菜 さん】
「ブラシの形だけを集めたZINEになっています」
(ブラシの形だけ・・・)
「コアなZINEになっています(笑)物をまとめている本とかが好きで、結構、集めていたので、〈自分で作っちゃおう〉と思って、遊び心があって楽しいです」
作品もさることながら、アーティストたちの懐事情を訴えるちょっと変わったZINEもあります。
【アーティスト 脇田 あおい さん】
「〈絵を描きたいけど、ちょっと明日のご飯どうしよう、ちょっと節約したらいいキャンバス買えるよな〉とか、そういうこととか、それぞれの思いをつづっているZINEになります。自分の創作活動と生活はやっぱり切り離せないので、結構リアルなことを書ける場所、それを書ける機会としても面白いなと思います」
このイベント、ガリ版印刷で作ったZINEなどを販売するブースでは、自分で描いた絵を紙や布にガリ版印刷できる体験会が開かれました。
ZINEの案内役であるデザイナーの河島 綾香さんは、ZINEづくりの体験会を開きました。
【河島 綾香さん】
「ZINEというと〈すごく難しそう〉〈センスがいるんじゃないか〉と思われるんですけど、紙とペンさえあって、それをとじればZINEになるんだよと捉えてもらえればいいのかなと思います」
【参加者】
「台湾旅行に行って、それを記録として残そうと思っています」
【参加者】
「最近食べたおいしいもので、誰と食べたかとか、その食べたもののイラストを描いていこうかなと思って」
【参加者】
「手相が好きなので」
(手相を見るんですか?)
「見ます。子どもでも分かるようなものを作れたらいいなと思って」
ZINEは以前からあった文化でしたが、SNSなどで個人が発信する今、その思いを冊子として表現したい人たちの間で、じわじわとブームが広がりつつあるといいます。
【河島 綾香さん】
「すぐ作れるので、興味がある人はZINEのワークショップとかに来て、きっかけをつかんでもらえたらいいかなと思います」
(自分でも作ってみようかなと?)
【水俣・写真家の眼プロジェクト コーディネーター 奥羽 香織 さん】
「水俣の写真集の編集をやっていて、『ZINEの形はどうだろう』と話しながら、出版社に縛られず、流通にも縛られず、新しい形で発信できないかなと」
〈知ってほしい〉という作り手、そして〈知りたい〉〈好きなモノに気づきたい〉という読者。
ZINEという文化は、ますます広がりを見せそうです。