第2次世界大戦の終結から2025年で80年です。
北欧の国は今、ロシアの脅威を受け、有事に対する大きな転換点に立たされています。
現地を取材しました。
取材班が向かったのは北欧の国、デンマーク。
今から80年前の1945年5月5日、この国は第2次世界大戦でのナチス・ドイツの占領から解放されました。
以来デンマークは、“平和な国”としての道を歩み続けてきました。
そのデンマークは今大きく変わりつつあります。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻で、デンマークの平和の前提は大きく揺らぎました。
デンマークの防衛情報局は2025年2月、「ロシアがNATO(北大西洋条約機構)との対決に備えて軍備拡張を進めている」と警告。
さらに、今後5年以内にヨーロッパ全体を巻き込む戦争のリスクがあるとの分析を出したのです。
こうした脅威を受け、デンマーク政府は防衛費の大幅な増額を決定。
国防予算に日本円で約1000億円以上を追加し、GDP(国内総生産)比3%以上を目指す方針を打ち出しました。
さらに政府は2024年3月、男性だけでなく18歳以上の女性も2026年から徴兵の対象に加え、兵役期間を現在の4カ月から11カ月に延長することを決めました。
国会議員、サイモン・コレラップ氏は「デンマークで私たちが目指していることの1つは、軍隊にもっと多くの男性と女性を参加させることです。そのため今後は、女性にも徴兵制を導入します」と説明します。
デンマークの軍は、どう変わりつつあるのでしょうか。
われわれは首都コペンハーゲンから車で5時間ほどにある、軍の訓練施設の取材を許可されました。
この日は約20人の兵士たちが軍事訓練を行っていました。
その中には女性たちの姿も。
この日、行われたのは、前線での戦闘を想定した訓練です。
塹壕(ざんごう)に入っての実弾射撃や、軍用車両からの機関砲射撃など実戦さながらです。
建物での戦闘を想定した訓練も行われ、そこに男女の区別はありません。
「安全管理も徹底されていて、怖さはありません」と語るのは、兵士になって5年のトリーンさん。
女性の徴兵制度について聞いてみると、「女性の徴兵義務化はいいことだと思います。もっと女性兵士が増えれば、環境もさらによくなるでしょう」と話しました。
国防への強い意識を持つ女性の兵士たち。
将来、ウクライナへの派遣を命じられたとしても迷いはないといいます。
20歳のフレーヤさんも、「徴兵される女性に“まず試してみて”と伝えたいです。仲間との絆がとても強い場所です」と女性の徴兵について前向きです。
ではデンマークの市民は、女性の兵役についてどう考えているのでしょうか。
首都コペンハーゲンで出会った16歳の少女に聞いてみると、「女性を軍隊に含めるのはいいことだと思います。男性と同じように女性もすべきだからだと思います。(徴兵への)準備はできています。できるかぎりの準備はできています」と答えました。
一方、13歳の少女は「確かに男女平等に向けた大きな一歩だと思います。でも、個人的には兵役に自分が行きたいとは思いませんが、公平だというのは理解できます」と話しました。
賛否が分かれる女性の徴兵。
家族連れで公園に来ていた母親は…。
母親:
女性が軍に行くなんて、正直考えたこともなかった。娘が行きたければ応援するけど、基本的には行かせたくない。
子を持つ親からは心配する声も聞かれました。
一方で今回の取材で、市民のほとんどは戦争への備えを進める政府の方針を支持していました。
背景にあるのは、この国を占領したナチスの記憶です。
首都コペンハーゲンにある博物館。
館内には多くの親子連れの姿がありました。
11歳の息子を連れてきていた母親は、歴史の教師だといいます。
歴史の教師・息子(11)と訪れた母親:
歴史を忘れることは許されません。だから息子たちは何が起こっていたのかを学ばなければならないし、影響を及ぼしていることを理解しなければならないです。
11歳の息子に、ウクライナで起きているロシアによる侵攻について聞いてみると…。
11歳の息子:
戦争は昔も今も変わらない。人々はただ世界を支配したいだけで、そのために人を殺したり、街を破壊したりといった最大の代償を払いたがる。
80年前、ナチスの占領から解放されたデンマーク。
再び自由を守る覚悟が求められる中、国は有事への備えを進めつつあります。