東日本大震災特別企画「ともに」。今回はこの春、定年退職を迎えた元警察官の物語です。震災後、初めての被災地勤務として赴任した宮城県山元町に魅せられ、4月ついに移住まで果たしました。山元町で再就職も決めた元警察官。選んだ第2の就職先は、まったく畑の違う障害者の就労支援などを行うNPO法人でした。
宮城県警察本部で3月31日に行われた退職者壮行式。この春、およそ70人の警察官が退職しました。
その一人、警部補の西川英雄さん。
39年間の在職中は交通部門が長かった一方、交番や駐在所などでの勤務も多かったという西川さん。
山元町の山下駐在所勤務時代には、趣味で作る消しゴム版画が話題を呼び、新聞記事として取り上げられたこともあります。
元宮城県警警部補 西川英雄さん(Q.山下駐在所は久しぶり?)
「ホントに久しぶり。離れてからこの敷地に入ったことはなかったです」
西川さんにとっては震災後、初めての被災地勤務となった山下駐在所での日々。当時、意識していたことがあったそうです。
元宮城県警警部補 西川英雄さん
「こちらは仕事でも遊びでも誠心誠意対応しようというふうには考えてましたけども、ホント皆さんにかわいがっていただいて、予想以上に」
冬のイルミネーションイベント「コダナリエ」では、警察官として警備に駆けつけつつ、休日にはボランティアとして設営にかかわるなど、気が付けば、山元町にどっぷりとハマっていたという西川さん。
元宮城県警警部補 西川英雄さん
「後になってみれば、自分の人生が変わるような最高の異動でした。人生変わりました、劇的に」
西川さんはこの春、泉区にあった自宅を売り払い、山元町へ移住しました。
元宮城県警警部補 西川英雄さん
「定年退職を機会にこちらに来るのがいいのかな、そういう思いが日々募ってきて、ついに決行いたしました」
駐在所勤務時代からの住民に、早速声をかけられます。
住民「お帰りなさーい」
西川さん「お世話になりまーす、よろしくお願いします」
住民「あ~うれしい、うれしい、万全ですね、防犯上」
住民「万全だ、派出所作るから」
住民「あ!私設派出所?」
西川さん「ははは!マジっすか?(笑)」
移住を機に、西川さんは新たな仕事に就きました。障がい者の就労支援などを行う、NPO法人の職員です。
元宮城県警警部補 西川英雄さん
「仕事はなんでもよかった。山元町に移住して山元町の人たちを相手に仕事がしたいと考えていて。具体的に最初に声をかけてくれたのが、ポラリス」
代表理事の田口ひろみさんは、山下駐在所時代の西川さんの姿が印象的だったと話します。
NPO法人ポラリス 田口ひろみ代表理事
「障がいのある方を前からやさしく理解して応援してくれているし、今回引越してくるということで、うちがちょうど職員に欠員が出たというのが、すごくタイムリーで、こっちは一か八かオファー」
田口さん「西川さん行ってらっしゃい!」
西川さん「はい、いってきます」
初日から早速、新しい仕事の現場へ出ることになった西川さん。
西川さん「シートベルト締めてください」
さすがは、元警察官です。
訪れたのは山元町内のイチゴ農園。一角にある従業員用のスペースの掃除などを請け負っています。先輩職員が、掃除の手順を説明していきます。
先輩職員「みんな分担ですけど窓ガラスと入口のサッシ、あと溝」
西川さん「あ、溝も」
先輩職員「溝も、やります」
61歳の新人職員・西川さんには、覚えるべきことがたくさんあります。
先輩職員「水をこのまま残すとどうしてもウロコになっちゃう。ここ拭きとってもらって、そして最後にこの・・・」
西川さん「あ、そっちも。家ではやったことないです、ここまで」
先輩職員「それが仕事なんですよ、家では適当でいいけどね」
Q.やってみてどうですか?
西川さん「大変、こんな掃除やったことない。自分の身の回りで。今までは『とりあえずやればいいかな?』みたいな。これでお金もらっているから。『ええ?そんなトコまで?』みたいなのはありましたね、ビックリです」
Q.なかなか戸惑ってるなと
西川さん「戸惑います(笑)」
西川さん、山下駐在所に勤務していたころから続けていることがあります。町内の和太鼓グループ「風雲乱打舞(ふううんらんだむ)」での活動です。
元宮城県警警部補 西川英雄さん
「町内イベントにあっちこっち首突っ込んで、大抵が『オープニングは風雲乱打舞、和太鼓演奏からスタートです!』って。それで見ているうちに『かっこいいな、自分もやってみたいな』って思うようになってきて」
太鼓を格好よく見せるため、時にはこんな無理な体勢で叩くこともあります。
西川さん「(演奏終わりで大の字に)は~っ、きっつぅ。はぁ~」
和太鼓の演奏はハードですが、もう10年も続けています。
風雲乱打舞 伊藤宏之代表
「勤務先が仙台に変わっても週2回、水・金で練習しているんですけど、西川さんは仕事の都合が合う限りは仙台から通ってきてたんで、それはすごいなと思うし、太鼓もそうだけど、山元町に対しての愛情というか、それは感じますね」
西川さん「(キツそうに)は~っ」
一同「(笑)」
新生活が始まって3週間。西川さんの仕事場を、再び訪ねました。
西川さん「ここ掃きます。こっちOK?もう壁拭き始まってるの?」
利用者男性「手伝ってました」
元宮城県警警部補 西川英雄さん
「毎日が新鮮ですね、毎日が新しい発見。幸せですね。仕事させてもらえるのも本当に幸せ、ありがたいことだと思っています」
西川さん「シートベルトね。こんなにうるさく言うスタッフいなかったよね、たぶん」
西川英雄さん、61歳からの第2の人生は、まだ始まったばかりです。