鉄道の魅力を熱くお伝えする野川キャスターの「てつたま」です。
野川さんお願いします。
【野川キャスター】
前回に引き続き、この春、導入された新しい特急列車が広島に“キター!”ということで取材をしております。それでは…
【JR西日本鉄道マーケティング部 松田大祐 広島営業部長・野川キャスター】
「あれ?これ、松田さん。ろくぱーさん、ですよね?683系ですよね」
「はい、そうですね」
「これは?」
「この列車は大阪と奈良を結ぶ『特急まほろば』うめきたの地下から新大阪を通ってそのまま奈良にダイレクトに結ぶ列車です」
『特急まほろば』は、この春のダイヤ改正から大阪(うめきた)と奈良駅間を定期運行することになった列車です。
『まほろば』は日本の古語で素晴らしい場所という意味…奈良は古事記で日本の『まほろば』と謳われ、まさに奈良に向かう列車にふさわしい名前です。
683系をリニューアルし、専用車両としてデザインされたこの列車には、安寧編成という名前がつけられました。
デザインを担当したのが佐藤さんで、実は広島の建築事務所の方なんです。
【GKデザイン総研広島 佐藤伸矢 取締役・野川キャスター】
「近くに来ると改めて圧倒されるようなところもありながら、でもよく見ると、このマークも色々かわいい要素がたくさん入っているので」
「そうですね。実は大きく縁取りの部分。これ、当時の奈良のお寺とかについている瓦の先っぽにですね、蓮の花の花弁が装飾で入ってるんですけども、その花弁の輪郭をまずプロポーションとしてとりあげて、中の色々書いてあるところですけれども、実はそこに奈良らしい、当時の柄であったり、
プラス『花喰鳥』っていうような、そういうものであったりですね。鹿とかですね。そういうのをちりばめつつも、さらに現代の奈良の魅力として、金魚とかですね。で。奈良って日本の国家がやっぱり最初にできたところなんで…」
「大和朝廷とか」
「そうそう、そうです。日本初っていうようなものが色々ある中に、日本酒っていうものも含まれています。で、米と水と瓢箪が日本酒を表現するのに使ったモチーフになっている」
「はい」
「で、あとは大和野菜と言って、ちょっとカブみたいなものがありますけれども、そういうものを魅力の一つとして、うまくエンブレムとして凝縮するようなことで…」
「これだけの要素をこのマークの中にしっかりまとめるっていうのは、『デザイナーさんってすごいのだな』って思いますよね。威厳も感じながらも、可愛らしさもある」
金色の車体は生命感や豊穣を…蘇芳色のグラデーションは万物の安寧をあまねく照らす『楽園の陽光感』を表現しています。
奈良の町を下見し、専用車両のコンセプトが決まるまでには、こんなエピソードがあったそうなんです。
【GKデザイン総研広島 佐藤伸矢取締役・野川キャスター】
「あるお寺の当主さんから、海外から来た外国の方たちが、お寺の建物から奈良の大地の風景をぼーっと見ている人がたくさんいたと。で、その人に『今、この風景に対して、何を感じてるの』って言うことを聞いたときに、実は『beautiful』という言葉ではなくて『Peaceful』っていう言葉が帰ってきたんだと。で、そこが『ああ、なるほど』という風に僕も思いまして。奈良の大地の空気感というのが、瀬戸内とかちょっと違った。何とかいうかな。穏やかな空気が流れるような、すごく大らかな空気感が流れてて。そういうものもそうですし、大陸から伝わったそういう大らかでダイナミックな表現もそうですし。非常にそこが『奈良らしいな』という風に、僕も感じまして『安寧』という所を一つ、やっぱりコンセプトの中心に据えようということで、掲げることにしました」
「ここのグラデーション美しいですね」
「ヘッドの部分って、ちょっと暗い赤色なんですけど、当時、大陸から伝わった染料に基づく色として、蘇芳色(すおういろ)というのがありまして、もう一つ、その安寧とか平和に包まれた感じっていうのを穏やかに表現しようということで、金色と蘇芳色の間に『時の重ね』とか『穏やかさ』を表現するのに、グラデーションをあえて挟むというふうなことを意図してデザインをしております」
「窓枠、あの辺りの模様もまた凝っていますね」
「ここも奈良らしさと万物の平和感みたいなところで、実はヘッドマークで表現していたいくつかの要素。それを側面にも。大和野菜が実はここにたくさん出ていたり…」
「本当だ」
「まあこれ、花喰鳥があったりとか、大和郡山市の金魚とか、そういうものを散りばめて、奈良らしい雰囲気と穏やかな安寧感というのを表現しようとしたグラフィックになってます」
「なんかちょっと、お召列車なんじゃないかというような、そんな色使いですけどね。この先進むと階段です。階段があの先ございます。今日は中に入ってもよろしいですか?」
「あ、大丈夫です」
「あらー」
そして車内も、安寧編成は元の車両を大きくリニューアルし、随所に奈良らしさが加えられていました。
【GKデザイン総研広島 佐藤伸矢 取締役・野川キャスター】
「一つは、その当時の本当に色んな物に使われていた柄として、『宝相華』という柄があります。そのパターンをちょっと大きく、シートの柄としてデザインをちょっとアレンジしてみました。で、このシートの塊で、すごく奈良らしい雰囲気を感じてもらいつつも、床とかカーテン、天井とかは割と最近のモダンなインテリアにみられるような、落ち着いたものを対比として素材を選んでいる。その新旧の対比みたいなところで、実はすごく当時の奈良の文化というものが、いいものだなということを改めて感じてもらうというふうなことを意図しました」
「ですから、昔の奈良のシンボリックなデザインも取り入れつつ、現代的なデザインもしっかり調和させている」
「空間としてそうですね」
「座席を見た時にとても強い印象を残しますよね。温故知新とは本当によく言ったものだなという感じで。本当にデザインとして美しいですね」
「1300年経っても、いいものはいいなぁっていう風なそういう感じがしますね」
「だから本当に行く前から奈良に向かう気分といいますかね?醸成される感じが」
「今からね、1300年前に…古都にちょっと行くぞっていう雰囲気をちょっと感じてもらいながら、乗っていただけるといいなというふうに思います」
今回の車両のリニューアルに伴って車いす用のスペースもしっかり確保され、さらに…
【GKデザイン総研広島 佐藤伸矢 取締役・野川キャスター】
「ここは大きな荷物を置くコーナーもちゃんとあるということで、特に新大阪から乗れるっていうことになりますと、外国人の方もね。かなり奈良に乗って行かれると思いますから。しっかり置ける広いスペースもあるということで」
そして、この先1号車には、電車とは思えない一画が!
【GKデザイン総研広島 佐藤伸矢 取締役・野川キャスター】
「あるんですか?」
「そうです」
「ここにあるんですね」
1号車のデッキに展示されていたのは、国宝に指定された仏像の右手部分。
原寸大レプリカです。
【GKデザイン総研広島 佐藤伸矢 取締役・野川キャスター】
「より奈良らしさというものを感じてもらおうということで、展示スペースを・・・もともと電話ボックスがあった場所ですね、ここは」
「十一面観音立像ですか?」
「国宝になるんですけど、それの右手部分。そのレプリカを展示しているという…」
「ふと『ちょっと、お手洗行こうかしら』と立ち上がって、突然、来るわけじゃないですか。『おおー!』と。これは行く前から奈良気分といいますかね。気持ちが高まりますよね。これがあの、北陸特急『サンダーバード』だったとは、ちょっと中々か考えられない位のね」
特急列車『まほろば』は、秋にも専用デザイン第2弾、『悠久』編成が導入され、2編成で運行されます。
奈良の観光気分をさらに高めてくれそうです。