国民民主党は18日、YouTubeに新たな党公式チャンネルを立ち上げた。それは「就職氷河期チャンネル」だ。チャンネルに掲載された動画の中で、玉木代表は次のように訴えた。
「これまでの取り組みと今後どうしていくのか、また当事者の皆さんの不安の声をもっともっとしっかりと聞いて、私たちの政策に反映させていきたい」
就職氷河期世代は、主に1993年から2004年頃にかけて、新卒で就職活動を行った世代を指し、現在、おおむね30代後半から50代前半とされる。バブル崩壊後の景気低迷を受けて、企業の新卒採用が大幅に減少したため、厳しい就職活動に直面。非正規雇用を余儀なくされた人も多く、収入面などで影響を受けたとも指摘されている。
この氷河期世代は約1700万人とも言われるが、国民民主党に加え、石破首相も就職氷河期世代も念頭に、就業に不安を持つ人への対策に関する閣僚会議を設置することを表明するなど、夏に参院選を控えた与野党各党で「就職氷河期世代対策」のアピールがにわかに活発化している。
退職金税制に立憲「拙速な見直し避けて」氷河期世代への影響指摘
3月5日、参院予算委員会で質問に立ったのは立憲民主党の吉川沙織議員だ。自らも1976年生まれの就職氷河期世代で、長年この問題に取り組んできた。委員会で吉川氏は閣僚に対し、問題への認識などを質すと共に、転職などを阻害しているとして見直しの必要性が指摘されている退職金税制に関して追及した。吉川氏は石破首相に対し、次のように迫った。
「自民党の税調会長は、この見直しについて猶予期間が10年から15年必要と明らかにしている。この発言に従えば、就職氷河期世代で偶然に運良く、職に就けて働けている人はちょうど見直しの施行時期に当たる。著しく控除額が減るようなことがあれば、退職後の生活や人生設計に影響は甚大だ。拙速な見直しは避けるべきではないか」
これに対し、石破首相は「もちろん拙速な見直しは避けていかなければならないが、これから先、雇用の流動化というものは、賃金の上昇というものと合わせて図っていかねばならないことだと思っている。拙速な見直しはしないが、慎重な上に適切な見直しをすべきだ」と強調した。
就職氷河期世代は、初任給のアップなど賃上げが進む現在の若年層などと比べて、賃金の伸びが小さく、賃上げの恩恵にあずかれておらず、非正規雇用の期間が長期にわたった人などは、年金の受給額が少なくなるとも指摘されている。それにも関わらず、今度は退職金にも影響が出かねなくなる状況に対し、ネット上では「どれだけ氷河期世代から搾取する気だ」など反発の声が相次いだ。さらに、4月に入って、今度は国民民主党のある法案に批判が噴出した。
国民民主が「若者減税法案」提出 対象が「30歳未満」に批判噴出
国民民主党が10日、衆院に提出したのが「若者減税法案」だ。法案では、若者の社会保険料や所得税の負担が重くなっている現状を指摘し、負担軽減のため、所得減税など政府が講じるべき措置を定めている。30歳未満を対象に、労働者1人あたりの平均給与額を基礎に算定した所得額までは所得税がかからないよう、控除を拡充することが盛り込まれている。ただ、具体的な金額は明記せず、政府が別途、法制上の措置を講じるとしている。
法案を提出した後、玉木代表は記者団の取材に対し、「若者を応援することが日本全体の元気につながる。頑張っている若い人を応援したい」と語った。
背景には年金などで若者ほど負担が大きくなる世代間格差がある。玉木氏は法案提出から2日後、東京都内で大学生に向けて講演した際に、次のように提出の理由を話している。
「日本の社会保障制度は、少子高齢化になっているので下ほど少なく、一人当たりの負担が、どんどんどんどん大きくなっていく。世代間の格差は、分かりにくいが強烈な格差だ。この若い世代を、ある意味、強制的に応援しないと、世代間のバランスが取れない」
こうした考えのもと、国民民主党は「若者減税法案」を2023年にも参院に提出したが、廃案となっている。その後、2024年の衆院選でも、公約として「若者減税」を掲げたため、今回は衆院で提出した。しかし、減税の対象を「30歳未満」としたことについて、ネット上では、「就職氷河期世代を見捨てるのか」などといった厳しい批判が急速に広がったのである。
これに対し、ある幹部は「党としてずっと就職氷河期世代の問題には取り組んできた。全体のパッケージで見てもらえれば分かる」と戸惑いを隠せず、別の幹部は「若者減税は選挙公約でも掲げているので、法案を提出するのが筋だ。ただ、今回の件で対応を間違えれば党の勢いは止まるかもしれない」と危機感を示した。
法案提出の翌日、榛葉幹事長は記者会見で、「ネットで炎上していた」と言及した上で、「勘違いされるといけないのは、就職氷河期にターゲットを当てた政策で、本気になってやると言ったのは国民民主党が最初だった」と強調した。
国民民主党は2024年6月、就職氷河期世代をサポートする政策提言を取りまとめ、9月には当時の武見厚労相に提言の申し入れを行っている。そのきっかけについて、プロジェクトチームの座長を務める伊藤孝恵参院議員は先述の党公式チャンネルの動画の中で、次のように語っている。
「思い起こせば、2024年3月28日の参院本会議で、私が『100社もの会社に落ちた1997年』と言ったところ、議場から笑い声が起きたり、『俺は全部受かった』という冷やかす声が聞こえたりして、それをSNSに愚痴ったところ、たくさんのまさに当事者の方々からエールの声、『そういう人たちには分からない。就職氷河期政策をぜひ作ってくれ』という声がたくさん届いて、今、国民民主党にはプロジェクトチームが立ち上がっている」
こうした取り組みを踏まえ、榛葉氏は、就職氷河期世代に対する政策が、「我が党の一丁目一番地だったが、それだけでは足りないから、その後輩たち、頑張っている学生や若者も支援しようと、これは両方マニフェストに書いてある」と強調した上で、こう言い切った。
「国民民主党、就職氷河期を切り捨てるのかと言うけど、切り捨てない」
さらに、党の代議士会では、玉木氏が法案は過去にも参院に提出していると指摘し、その時と比べた世間からの反応の違いに言及した。
「ほぼ注目されなかった1年半前と比べて、それだけ国民民主党に対する注目と期待が集まっているということだ。趣旨を丁寧に説明していかないといけない。就職氷河期世代のみならず、対象から外れていると感じられる人に対して、誤ったメッセージを与えてはならない。改めて我々としては、就職氷河期世代についてはしっかり取り組んでいく」
そして、玉木氏は「全ての現役世代に対して、しっかりと実際に目配り、気配りをして、誰一人取り残さないといった思いで取り組んでいきたい」と述べ、党所属議員に情報発信への協力を呼びかけた。
就職氷河期世代からの反発に対し、ある幹部は「それだけ厳しい人生を送ってきたということだ。今回のことで改めて痛感した。党としてはさらに寄り添って取り組んでいくべきだ」と自戒の念を示す。
氷河期世代への発信強化 国民民主がYouTubeに専用チャンネル開設
依然、反発がくすぶる中、玉木氏は15日の記者会見で、情報発信の強化に向けて、新たな取り組みを発表した。
「我々の就職氷河期世代に対する取り組みが、伝わってなかった面もたくさんあったのだろうという反省のもとに、サブチャンネルを立ち上げ、より強力、そしてより就職氷河期世代の皆さんに寄り添った発信を強化していきたい」
そして、玉木氏は、「当然コメント欄も開くので、そういったところで意見を寄せていただきたい」と呼びかけ、「双方向のやり取りを強化していきたい」との考えを示し、3日後の18日に「就職氷河期チャンネル」を開設した。
こうした就職氷河期世代に向けた動きは、国民民主党のみならず、与野党各党にも広がりつつある。
19日、石破首相は東京都内の就労支援施設を訪れ、セミナーの様子などを視察し、就職氷河期世代など就業に不安を抱えている人を支援するための閣僚会議を設置することを表明した。
さらに、翌20日には、立憲の野田代表が記者団から、各党が就職氷河期世代に向けた支援に力を入れ始めていると問われ、「就職氷河期世代対策という言い方はしていないが、該当の政策はいっぱいある。そこはよく整理して打ち出していきたい」との考えを示した。
FNNが4月19日、20日に実施した世論調査では、自民党の支持率が22.9%だったのに対し、国民民主党は野党トップの11.4%。そして、国民民主党は18歳~30代では自民党を上回り、与野党でトップとなっている。一方で、40代、50代では自民党を下回り、60代以上では大きく水を開けられる結果となった。国民民主党としては、若年層からの支持を固めつつ、就職氷河期世代に支持を広げられれば、さらなる飛躍が見込まれる状況だと言える。
玉木氏は1月6日、BSフジの「プライムニュース」に出演した際、参院選に向けて、「ポスト103万円の壁」について問われると、「就職氷河期対策」を挙げて、次のように強調した。
「学校を出て就職する時に、どうしても景気が悪くて、政治が作り出した一つの世代だと思っている。だから政治が責任を取らないといけない。若い頃に保険料を十分納められなかった彼らの年金をどうするのか。直面する世代になってきている親の介護をどうするのか。こういうところについては、現役世代の問題であると同時に、親世代の高齢者の問題でもある。そういったところにしっかりアプローチする政策を出していきたい」
雇用環境が厳しい時代に就職活動で苦しんだ就職氷河期世代。現在も賃金や年金、そして親世代の介護など様々な問題に直面している。それに備えた対策が急務となる中、各党が今後どのような政策を提示するか、そして支持を得られるかどうか、その行方に注目が集まりそうだ。
(フジテレビ政治部 木村大久)