表紙には強い日差しのなか、一点を見つめる女性の姿が写っている。
写真は沖縄戦のさなか、80年前の1945年4月9日に撮影されたもので白黒写真をAIなどを使って彩色したものだ。カラー化により母親の背で2人の兄弟が手を握りあった細かな状況が浮かび上がってくる。

人工知能・AIを使った写真のカラー化は沖縄戦の歴史に触れる現代の新たな取り組みとして注目されている。
2025年2月に出版された『カラー化写真で見る沖縄』には戦前・戦中・戦後と沖縄の在りし日が記録された白黒写真に色を加えた写真が収められている。

1945年の沖縄戦で焼け野原となった街や収容所の様子を記録したものなど、色が施された写真には今と変わらない沖縄の日差しやそこに生きる人びとの姿が浮かび上がってくる。


写真のカラー化に取り組んだのは大阪在住のホリーニョさん。この日訪れたのは那覇市の住宅地。

ホリーニョさん:
今の那覇は国際通りとか繁華街になっていて人が集まりますけど。写真からは当時の沖縄はこの場所がまさに一番賑わっていて沖縄の中心地だったんだなとわかります

那覇市の東町郵便局があるエリアは、戦前には那覇市役所や銀行などがあり街の中心として栄えていた場所だ。いまの郵便局と同じ場所には当時も郵便局があった。モダンな建築物の前を頭に荷物を載せた女性が歩く姿が写っている。


ホリーニョさん:
白黒写真だとどこか遠い世界に感じてしまう。色をつけていくなかで情報量が増えて当時の暮らしや細かい部分に気付けるのかなと感じます
その景色が一変させたのが沖縄戦だった。
ホリーニョさん:
街並みが豊かだと色がつきます。一方で廃墟になっていくと建物などもすべて色が失われていきます。当時の沖縄の地上戦で失ったものは色だったのです。

「街が灰燼に帰す…」兵庫県出身、ホリーニョさんの記憶にも悲惨な体験が残っている。
ホリーニョさん:
自分の人生を振り返ってみると関西の皆さんは多くの方がご経験されたと思いますが、阪神大震災があったのが自分が高校1年生くらいの時でした

震災の光景と沖縄戦の記録がホリーニョさんの中で重なる。
ホリーニョさん:
日本の本土では地上戦が行われませんでした。沖縄では実際に地上で戦い、人々が巻き込まれていった。沖縄県外の人たちがこの過酷な歴史をすべて知るのはとても大変かもしれませんが、知ることでいろいろ変わってくるのかなと思います
ホリーニョさんが1枚の写真を示しながら続ける。

ホリーニョさん:
これは1945年首里で沖縄戦の地上戦が行われているなかで逃げている親子の姿なんです。この画面の向こう側にこの方々が今もいて、単純に時間と空間がずれているだけだと思います。まずはそういう“地続き”というか80年経っても人間は人間としてまったく変わっていないと感じます

書籍化にあたっては歴史研究者が監修に入り、撮影の日時や解説も掲載されている。

2019年から続けてきた活動でカラー化した写真は300枚以上に上る。
多くの人の目に触れることを意識していると話すホリーニョさんは、白黒写真で記録されたなかに写る悲惨な戦争の光景から現代の私たちとのつながりを探し続けてきた。
ホリーニョさん:
残されている戦時中の写真はすごく残虐で見るのが苦しいです。だからこそ入り口として女性や子ども、駅の風景など自分たちの生活とどこかでつながっているようなものを探しているんです
カラー化した写真を目にすることで沖縄戦の実相に触れるきっかけとなってほしいと話す。
ホリーニョさん:
色というものが人と人とを遠い時間軸でもつなぐ可能性があるものだと感じていました。沖縄の歴史にどこか当事者として向き合いながら、歴史を追体験するようなことができたらいいなと思っています。そういうイメージを一つ持っています

カラー化された写真は、いまを生きる私たちに歴史の当事者として、沖縄戦とのつながりを気付かせてくれる。
(沖縄テレビ)