自然環境が変化する中、希少な動物の命を守る「種の保存」の取り組みが世界中で行われている。鹿児島市の動物園、水族館でも、関係者が動物たちの命のバトンを未来へつなぐ課題に向き合っていた。その裏側には、私たちが知らない物語があった。
動物たちの引っ越し物語
九州で唯一コアラに会える人気の自然動物公園・平川動物公園(鹿児島市)。ボルネオオランウータンやカリフォルニアアシカなど、迎え入れる動物がいる一方で、病気や高齢でいなくなってしまう動物もいる。平川動物公園では、他の動物園との間で、「ブリーディングローン」と呼ばれる動物の貸し借りが進められている。

2023年に和歌山からやってきたオスのホッキョクグマ・ライトは2025年、新たな繁殖を目指し、若いメスが飼育されている札幌市円山動物園に引っ越した。平川動物公園・福守朗園長は、「2年前、3年前の状況と比べると、高齢の個体が死んだりした。ライトの一番良い選択を皆さんが考えた結果」と語る。

一方、コアラ館では2024年も複数の赤ちゃんが誕生し、現在、国内最多の20匹が暮らしている。順調な繁殖により、ここ5年間で6匹が県外の動物園に貸し出された。2018年に名古屋の動物園に貸し出されたオスのイシンは、2025年3月までに5匹の子の“父親”となり、命のバトンをつなぐ役割を担っている。


水中の世界でも命をつなぐ
かごしま水族館(鹿児島市)でも、種の保存活動が行われている。人気者バンドウイルカも対象動物だ。2015年に日本動物園水族館協会が野生のイルカの捕獲を禁止して以来、加盟する水族館は「繁殖で増やす」しか選択肢がなくなった。
実際、2015年に約280頭いた国内のイルカは、捕獲が禁止されて、現在では約200頭(血統登録上)にまで減っている。そんな中、かごしま水族館では2022年、初めてイルカのブリーディングローンが行われた。ここで生まれ、当時5歳だったメスのイブが福岡のマリンワールド海の中道に移されたのだ。

かごしま水族館 海獣展示係・大瀬智尋さんは「血がやっぱり濃くなってしまうので、イブと当館にいるオスのイルカたちで交尾できない状況」と語る。マリンワールド海の中道のイルカ飼育担当・田中夏澄さんは、「今はショーに出ているメンバーの中では一番高いジャンプを飛んでくれています」と、イブの成長を喜んでいる。

環境にも慣れ、これからイブには新たな命を宿すことが期待されている。田中さんは、「先輩のイルカみたいにもう少し大きな体になって、繁殖に参加してもらえたら。イブの子孫を残してもらえたら」と期待を寄せる。

種の保存、誰のため?
全国各地で進む種の保存だが、それは私たち人間の「動物を見たい」というエゴではないのか? そんな疑問を、日本動物園水族館協会で種の保存の取り組みに関わる岩田知彦さんにぶつけてみた。岩田さんは、「正直にいうと、動物園・水族館はまさに"人間のエゴ"でできている。いろんな生き物が見たいという欲求から生まれてきている施設」と率直に語った。
しかし岩田さんは「今は自然環境に直に触れる機会が少なくなってきている人たちもいる。そういった人たちに『こういう動物もいるんだ』『こういう環境もあるんだ』というのを知ってもらうことに非常に意義がある」と強調した。

地域に根ざした施設の役割
かごしま水族館の佐々木章館長は、「鹿児島は南北600キロという広い海を持っている。そこにはたくさんの生き物がいる。それを伝えるのがかごしま水族館として大切。"鹿児島の海を伝える""鹿児島の今を伝える"」と、地域に根ざした施設としての役割を強調する。

平川動物公園の福守朗園長も、「シンプルに楽しく家族でくつろぐ場。それでいて何かひとつでもふたつでも動物の真の姿を知るきっかけになる」と、動物園の存在意義を語る。

命のバトンを未来へ
2025年2月、かごしま水族館ではイルカの赤ちゃんが誕生した。一方で、平川動物公園では3月、メスのシロサイ「シノ」が死んだ。生と死が日々繰り返される中、10年後、20年後、当たり前に見ていた動物が見られなくなる日が来るかもしれない。
鹿児島の動物園と水族館は、種の保存という大きな課題に向き合いながら、私たちに癒しと学びを届け続けている。そこには、命のバトンを未来へつなぐ、静かな闘いがある。
(鹿児島テレビ)