タクシードライバーの高齢化や時間外労働の制限などで深刻化する担い手不足解消の一手として期待されているのが、2024年4月にスタートした「日本版ライドシェア」だ。
地方でも運転手不足が続く中、島根・松江市でも、2025年2月から実証実験としてスタートした。
一般のドライバーが旅客を運ぶこの新たな仕組みが「地域の足」、地方の交通を守る”救世主”になるのだろうか。
「ライドシェア」ドライバーに密着

「本日はよろしくお願いします。ライドシェアの大塚と申します」
はつらつとしたあいさつで乗客を迎えたのは、松江一畑交通(松江市)の新入社員、大塚嗣士さん。2025年2月から「日本版ライドシェア」のドライバーを務めている。

予約を受け、向かった先で乗り込んだのは80代の女性。
自宅から約2キロ離れた病院に通うため、日ごろからタクシーを利用しているそうだが、この日、乗車したのは大塚さんが乗務する「ライドシェア」の車両だった。

大塚さんが乗務する「ライドシェア」は電話での予約が可能で、料金はタクシーと同等。乗車場所から目的地までの距離に基づいて、あらかじめ決められる。
「もうメーターを動かさずに行きます。920円で決まっているので」と、大塚さんは改めて女性に説明した。

この日が10回目の乗務という大塚さん、「やはりタクシー(ドライバー)は気持ちが良いものですよ。直接、人の役に立っているという、何かダイレクトにくる感じがあります、やりがいが」と明るい表情で教えてくれた。
導入可能性を探る 松江では平日午前に運行

2024年4月にスタートした「日本版ライドシェア」。
担い手の高齢化や時間外労働の制限強化に加え、外国人観光客の急増などによる需要増加で一層深刻化するドライバー不足の解消につなげようと導入された。
松江市では2025年3月、導入の可能性を探る実証実験としてスタートした。

3大都市圏などでは、ドライバー不足が特に深刻な週末や深夜から早朝にかけての時間帯に運行されているが、松江市では、平日午前に導入された。
その背景にあったのが、通院のためのタクシーがなかなかつかまらない状況だ。
ライドシェアを利用した先ほどの女性も「普段は午前9時から9時半、10時くらいまでは(タクシーの予約が)いっぱい。前日か前々日に頼んでおかないと」と昨今のタクシー事情を嘆いた。

こうした地域の事情に合わせて、松江市では、ライドシェアを月曜から金曜の午前7時から11時台に導入。松江一畑交通、第一交通、水都タクシーの3社がそれぞれ3台ずつ運行している。
海外で普及「ライドシェア」日本では「安全最優先」

海外で普及が進むライドシェアでは、一般ドライバーがマイカーを使い、配車アプリでマッチングされた乗客を運ぶのが一般的だ。一方、「日本版」では、乗客の安全を確保するため、タクシー事業者の管理の下で運行される。
日本版ライドシェアの場合、ドライバーは、バスやタクシーの運転に必要な「二種免許」を取得する必要はない。代わりに事業者が研修などを行って、タクシーと同等のサービスや安全性を確保することになっている。

ライドシェアドライバーの大塚さんも出社後、点呼を受け、出発前には車両の整備、点検を行う。乗務前の準備は、タクシーのドライバーと変わるところはない。
松江市も、安全運行のため、実証実験期間中はドライバーの採用や研修、車両の整備にかかる経費を1社あたり最大約100万円、助成している。
「ライドシェア」入り口にドライバー育成へ

今はライドシェアでドライバーを務める大塚さん、実は、いずれ、タクシーに乗務したいそうだ。
「今、第2種免許の取得に向けて頑張っている。旅客のプロとして勉強しなくてはならないので、責任もあるし、必要な知識を身に着けていかないといけない」と意気込む。
ライドシェアを入り口にドライバーの経験を積み、将来、二種免許を取得してタクシーに乗務したいと考えている。

松江一畑交通の立脇 等社長も「ライドシェアである程度勉強すると、タクシーにスムーズに乗れると思う」と歓迎、「二種免許」不要のライドシェアが採用の門戸を広げ、新たな人材の確保につながればと期待している。
普及のカギは「利便性」と「安全性」のバランス

新しい交通の仕組み「ライドシェア」、利用者にとっては、車両の台数が増え、必要な時に確保しやすくなる。乗車距離によって料金が決まる定額制で、あらかじめ料金を知ることができ、安心して利用できるのがメリットだ。
一方、事業者にとってのメリットは、何といってもドライバーの確保につながること。
ドライバーが足りない時間帯の人手を確保できるほか、シェアドライバーの乗務でねん出された人手で、深夜や早朝など人手が足りない時間帯を補うことができれば、効率的な勤務シフトを組むこともできる。
ただ、その一方で、交通事故対策など安全をどう確保するか、また乗客サービスのレベルをどう保つかが課題となっている。
「ライドシェア」地方の交通体系にどう組み込むか

地方でのライドシェア導入について、公共交通に詳しい島根大学法文学部の飯野公央教授は「どういう移動ニーズがあるのかを、もっと詳細に検討する必要がある。
地域の交通の実態に合わせた交通政策の中に、ライドシェアという仕組みをどう落とし込んでいくのか、考える必要がある」と話し、ライドシェアを鉄道やバス、タクシーなど既存の交通機関と組み合わせることで、地域全体の移動の利便性向上につながる可能性があると指摘した。
交通の担い手を確保…地域課題解決の糸口に

また、「ライドシェアでドライバーになり、そこで適性を見極めるのは非常に面白い取り組み」だと指摘、ドライバーの「お試し」体験ができれば、長期的な人材の確保にもつながると評価している。ライドシェアでドライバーを確保できれば、地域の足を守ることにもつながるというわけだ。

日本の交通事情や社会のニーズにあわせる形でスタートしたライドシェア。
さらに「山陰版」として、地域に合った形で広がれば、交通の維持、人手不足の解消といった地域課題を解決する糸口になるかもしれない。
(TSKさんいん中央テレビ)