東京大学と三菱商事が、東大発のスタートアップを支援する新プロジェクトを発表した。三菱商事は6億円を寄付し、技術発掘や事業化に向けたノウハウを提供する。専門家は「スピード感が鍵。文化の違いを乗り越えられるかが成否を分ける」と指摘する。

東大に三菱商事が6億円寄付でスタートアップ支援強化

三菱商事と東京大学がスタートアップを支援する。6億円の寄付で後押しする。

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東京大学と三菱商事は、東大発のスタートアップを支援するプロジェクト「Tech Incubation Palette(テック・インキュベーション・パレット)」の設立を発表した。

東京大学・藤井輝夫総長:
東京大学は、ご存知のように長年にわたり多様な領域で、世界トップレベルの研究に取り組んできたわけですが、いざ社会実装に具体的に踏み出そうとすると、なかなかやはり起業いうものに対する経験ですとか知見あるいは、そのマーケットニーズがどのようなものであるか、このあたりは、まだまだ不足をしているところがある。

三菱商事・中西勝也社長:
日本の技術は素晴らしいと広く評価されていますが、海外の国々が研究と社会実装の両輪で、新しい産業を創出し成長を続ける一方、日本はその点で少し遅れをとっているとの問題意識があります。

有望な研究や技術が多数ある東京大学では、今後10年間でスタートアップ支援を10倍にすることを目指しているが、一方で、社会実装と事業化への支援に課題を抱えている。

そこに三菱商事が、6億円の寄付と市場ニーズの高い技術を発掘する知見やネットワークを提供することで、スタートアップ創出を後押しする。

日本を代表する大学と商社の強力タッグについて、会見後、三菱商事の中西社長がFNNの単独インタビューに応じた。

三菱商事・中西勝也社長:
時間軸の長い取り組みもやっておかないと、将来の変化に対応できないと思うので、そういうことはやっていきたいという風に思っています。

今回、「寄付」という形を取ったことについては、次のように話す。

三菱商事・中西勝也社長:
ビジネスのリターンを求めると、時間軸が長いことに対しては、なかなか答えが出せない。そんなことは前提にするのではなくて、やっぱりピュアに日本の技術の力強さをもう一回復活して欲しいという事で、微力ながらサポートとしていきたい。

背景に激化する国際競争と社会実装の遅れ

「Live News α」では、データサイエンスの専門家である西内啓さんに話を聞いた。

海老原優香キャスター:
日本を代表する企業と、大学のコラボレーションですが、両者にはどんな狙いがあるとお考えですか。

西内啓さん:
まず三菱商事の方なんですが、皆さんもご存じの通り、日本最大の総合商社というところで、単に貿易といったところだけではなく、資源の投資もするし、物流や流通といった領域についても事業投資をするといった強みによって、現在の立ち位置というのを保っています。

しかしながら、最近、競合相手が従来の貿易や事業の投資が、国内外のアメリカだったり中国のITスタートアップとの競争というのはだいぶ増えてきています。なので、今回、テクノロジー面でも、事業開発を進めていくパートナーとして、東京大学との提携を強化したのではないかと思います。

海老原キャスター:
一方で、東大側の狙いについてはどのようにお考えですか。

西内啓さん:
実は東大は、産学共創やスタートアップ推進に近年かなり力を入れているんですが、一部成功事例は出ているものの、スタンフォード大学などと比べると、まだまだ企業の件数や、成功しても事業規模というのはかなり小さいです。

何より重視されているのは、グローバルに展開できるようなビジネスというのが全然生み出せていないところです。なので、三菱商事の「事業化してグローバルに伸ばしていく」というところが、今、東大の中に足りないノウハウを補う上で、かなり魅力的なパートナーシップとして見えているのではないかと思います。

成功にはスピード感と文化のすり合わせが重要

海老原キャスター:
そういった中で、今回の競合を成功させるためには、どういったことが必要になるんでしょうか。

西内啓さん:
今後、最大の課題というのが、この協業を推進していく上で、おそらくタイムスパン、つまりスピード感というのがどれぐらいスタートアップ側の文化に合わせられるかどうかというところだと思います。

やはり、東大がアカデミックな研究をしたり、三菱商事が資源開発を進めるというところとは、テクノロジースタートアップは、桁違いのスピード感で動かなければいけないです。

そのようなところを上手くアジャストしていければ、どんどん新しいビジネスを排出し続けられるんじゃないかなと、個人的にも期待しています。

海老原キャスター: 
東京大学は10年で年間300件のスタートアップ創出を目指す中で、2028年度まで技術の発掘から事業化までを、三菱商事とともに支援する予定だということです。
(「Live News α」3月28日放送分より)

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