米国のトランプ政権の高官たちは、欧州の同盟国に対して敵意にも似た不信感を抱いていることが、誤ってマスコミに漏れたSNSで明らかにされてしまった。
フーシ派攻撃計画を記者に誤共有
米誌アトランティックは24日と25日、米軍がイエメンの親イラン武装組織フーシを武力攻撃した際にトランプ政権の限られた高官の間で情報を共有したグループチャットに、同誌のジェフリー・ゴールドバーグ編集長が誤って加えられ、攻撃の詳細について情報を得ていたことを明らかにする記事を掲載した。

グループチャットにはバンス副大統領、ヘグセス国防長官、ルビオ国務長官、ラトクリフCIA(中央情報局)長官、ギャバード国家情報長官など政権の高官が入っており、ホワイトハウスのウォルツ国家安全保障担当補佐官を中心に作戦をめぐる情報が共有された。

攻撃が実施された15日にはフーシ攻撃の2時間前に使用される武器や標的など詳細が伝えられ、第1波の攻撃後、ウォルツ補佐官は次のように絵文字も使ってチャットしている。

ウォルツ補佐官:
事態の進展が早すぎてタイプするのが追いつかない。最初の標的ーミサイルの最高指揮官だー彼がガールフレンドの建物に歩いて入って行ったのを確認していたが、その建物は今や崩壊した。
バンス副大統領:
素晴らしい。
ウォルツ補佐官:
(拳と星条旗と炎の絵文字)
「またヨーロッパの尻拭い」「ヨーロッパの寄生虫に嫌気」
しかし、外交関係者が注目したのは、攻撃決定の前にバンス副大統領とヘグセス国防長官が交わした次のようなチャットだった。

バンス副大統領:
@Pete Hegseth もし君がやるべきだと思うなら、やろう。ただ、またヨーロッパの尻拭いをするのは本当にうんざりだ。こちらのメッセージがしっかりしていることは確認しておきたい。それに、サウジの石油施設へのリスクを最小限に抑えるために事前にできることがあるなら、やっておくべきだ。
ヘグセス国防長官:
VP(副大統領):ヨーロッパの寄生虫には心の底から嫌気がさしている。まったく情けない。
でもマイク(ウォルツ補佐官)の言うとおり、我々側の陣営でこれができるのは米国だけだ。他にはやれる国なんてどこにもいないから仕方がない。
問題はタイミングだ。今こそが絶好のタイミングだと思う。大統領が航路再開を指示したこともあるし、俺はやるべきだと思うが、大統領にはまだ24時間の判断猶予がある。
SM(スティーブン・ミラー次席補佐官か?):
私が聞いた限りでは、大統領の指示は明確だった。「ゴーサイン」だ。ただし、エジプトとヨーロッパには、我々が見返りとして何を期待しているかをはっきりと伝える必要がある。
また、そうした要求をどうやって実行させるかも考えねばならない。
たとえば、ヨーロッパが報酬を払わなかった場合、どうするのか?
米国が多大なコストをかけて航行の自由を回復するなら、その見返りとして何らかの経済的利益を得る必要がある。
ヘグセス国防長官:
その通りだ。
フーシ武装組織の攻撃で、紅海からスエズ運河を経由して航行する船舶は半数近くに減ったとされ、欧州特に西欧諸国が最も損失を被っているとされる。その航路の安全を回復しようという今回のフーシ攻撃は西欧諸国のために他らないのに、米国が危険を冒してでも遂行するのは「尻拭い」であり、西欧諸国は「寄生虫」のようなものだというのだ。

トランプ大統領のとなえる「アメリカ・ファースト(米国第一)」主義から見て受け入れられないだけでなく、それ以上に欧州に対する嫌悪感さえ覚える反応だ。これには欧州も驚いたようだ。
「米高官のチャットの欧州蔑視はEU(欧州連合)を恐怖に陥れる」(BBCニュース26日)
「トランプのホワイトハウスはなぜこうも欧州を憎むのか」(英ザ・テレグラフ電子版26日)
Wednesday's front page: Is this the most dangerous man in the world?#TomorrowsPapersTodayhttps://t.co/djGdSXPhCj pic.twitter.com/yCrUFfJQAk
— Daily Star (@dailystar) March 25, 2025
英国の大衆紙「デイリースター」は、26日の一面にバンス副大統領の顔写真と「これが世界で最も危険な男か」という大見出しを掲げた。加えて次のような副見出しを添えた。
「J.D.バンスは英国を憎み、欧州を憎み、ウクライナを憎んでいる。そしてこの男が今にも米国の大統領になり得るのだ」

バンス副大統領は2025年2月、独ミュンヘンで開かれた安全保障会議で演説し、欧州が直面する最大の脅威はロシアや中国ではなく、進歩派の価値観に毒された欧州の民主主義に他ならないと痛烈に批判していたので、次期米大統領に下馬票の高い人物の欧州嫌悪の念を改めて認識させることにもなった。
今回の高官のチャットの漏えい問題は、米本国では機密保護の手落ちとして追求されているが、大局的には欧米間の亀裂の深さを示したものとしてより深刻なのかもしれない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】