人気芸人のネタ動画かと思ったら、実は高校の教科書に載る教材。
“教科書にお笑い”という、異例のコラボを仕掛けたのは、「M-1グランプリ」の元プロデューサー。教育界の常識を覆す。

■高校生が「重たい」「難しい」という教科書に革命
街で高校生に教科書のイメージを聞いてみた。
男子高校生3人組:紙です/重たいです/難しい本やと思います。
女子高校生2人組:字がいっぱいある。
女子高校生2人組:長いな~/もっと要約してほしい。
「学び」が詰まった教科書だが、ワクワクしながらページをめくる生徒は少ないようだ。

そんな中、文部科学省は3月25日、2026年度から全国の高校で使われる教科書の検定結果を発表。
さまざまな教科で生成AIに関する記述が増え、闇バイトへの注意を促すものも。時代に合わせた中身の変化が見える。

そのひとつに、異色の教科書があった。
仕掛けたのは人気漫才番組「M-1グランプリ」の元プロデューサー森本茂樹さんだ。
(Q.検定合格を受けて自信はどうですか?)
森本茂樹さん:自信満々ですよそんなん。めちゃくちゃ自信ありますよ。
森本さんが手掛けたのは、教育図書から出版される高校の「政治・経済」と「公共」の教科書。記載されたQRコードを読み取ると動画が再生される。
サンドウィッチマンの動画:公共の教科書でそんなことしていいんのか?
教科書の各テーマをネタにした人気芸人の動画を見ることができる。

■「漫才」が流れてくる教科書
無縁だった教科書作りの世界に森本さんを誘いこんだのは、御年78歳の高校時代の恩師でした。
森本茂樹さん:びっくりしましたよ、そんなん。僕は教育者でもなく、お笑いプロデューサーなので、教科書のメンバーに僕入っても役に立ちませんよと。
恩師からの依頼に悩みながらも「M-1グランプリ」での経験を活かせる「漫才」を提案してみると…
森本茂樹さん:『はあ?漫才?』いやそうなんですよ。そのインパクトが高校生が食いつくんじゃないかなと思うんですよ。
初めは困惑する人もいたが、何とか始まったプロジェクト。
ただ、「教科書」はあくまでも勉強に使うもの。いろいろと気を使うこともあったそうだ。
あぁ~しらきの動画:そんなに簡単に教えませんよ~。
森本茂樹さん:あぁ~しらきさんっていう女性のピン芸人の人がいるんですよ。『男かな女かな』って、教科書で大丈夫かなって思ったけど、OK出たんで。
あぁ~しらきの動画:男かな、女かな…学校の先生は男と女、どっちが多いと思いますか?うふふ~、あっそれ、男かな、女かな。
ちなみに、このネタは「女性の賃金がなぜ低いか」という授業の導入になるということだ。

■教育的視点に配慮しつつ、芸人の個性を最大限に生かしたネタ
ほかにも…
【森本茂樹さん】「(カミキリの動画を指して)ほんまやったらここで頭はたくんですよ。バーンって。2パターン撮ったんですよ。頭はたくやつと、はたかないやつ。みんなで散々悩んで、はたかないほうでいこうかと」
大事にしたのは教育的な視点に配慮しつつ、芸人の個性を最大限に生かせるネタ作り。完成まで1年ほどかかったということです。

お見送り芸人しんいちの動画(テーマ:選挙と政治参加):選挙の投票に行って~。
ティモンディの動画(テーマ:国際経済):まさにリサイクルだ/それはリサイクルとは言わない。
東京ホテイソンの動画(テーマ:国際社会):いや~、(SDGsならぬ)SDジジイーズ。
教科書とお笑いの異色のコラボ。

これまでにない取り組みに出版社の担当は…。
教育図書編集部 堀内綾子さん:遊びっぽさが前面に出ちゃったら、そういう意味でのリスクはあるのかな。逆に言えばそこが新しく始まった公共の楽しみでもあるかなと思うので。

■「笑いだけで終わってはよくない」という先生も
教える側はどう見るのか、大阪と奈良の私立高校の先生に見てもらうと、教える立場としての冷静な意見があった。
桃山学院 地歴公民科 小山創教諭:特にお笑いというのは風刺的な意味合いもありますので、社会に対して疑問を持ったりするという部分では、いろんなものの見方をすることは、面白いきっかけになるのではないかなと思います。笑ってはいけない問題というのもありますので、笑いだけで終わってしまうのはよくないと感じました。
別の先生は…。
西大和学園 社会科主任 苧野瑞生教諭:まだ子供たちが経験していないような社会で必要なことが多いので、なかなかイメージをつかみにくいというところがあると思うんです。そうなったときにこういった漫才を用いる手法というのは、かなり子供たちのイメージづけにとって効果的なんじゃないかと、率直に感じました。
イマドキの高校生たちの心をつかみ、学びにつなげる。教科書も変化のときを迎えている。

■「入口が面白ければ興味持つ」安藤優子さんが新しい教科書に期待
「newsランナー」コメンテーターの安藤優子さんは、高校時代の教科書を思い出し、新しい教科書に期待を寄せた。
安藤優子さん:この教科書面白いなと思ったことは一度もないから、同感します。やっぱり入口が面白ければ、興味は持ちますよね。そういう意味じゃ導入成功なのかもしれないと思いました。
安藤優子さん:先生もおっしゃっていましたけれども、決してお笑いにしてはならない部分もあるわけじゃないですか。そこら辺のメリハリはきちんとつけて、人間としての尊厳とか、きちんと教えて守っていくというのも、すごく大切。絶対両立はできると思いますよ。
新しい教科書の形になるのだろうか。2026年度から使用されるということだ。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年3月26日放送)
