甲子園中止やインターハイの中止、全国の高校生にとって前例無き夏となった2020年。

男子球児のみならず、野球に青春を捧げた女子高生たちにも大きな影響を与えていた。

栃木県の作新学院。

男子が所属する硬式野球部は、春夏合わせて25回の甲子園出場と3度の優勝を誇り、軟式野球部も全国高校最多となる17回の全国タイトルを獲得している野球の名門だ。

女子硬式野球部も例にもれず、2013年創部ながら昨年日本一に輝いている。

全国大会が無くなった高校球児たちは、“最後の夏”に何を目指し、何を思うのか。

女子球児たちのリアルに迫った。
 

【男子球児たちの活躍も!「2020夏 これが、僕らの甲子園。」連載はこちらから

夏の大会が無くなり、進学と部活で揺れる野球部

2019年、初の日本一に輝いた作新学院女子硬式野球部。

甲子園出場25回を誇る男子硬式野球部がグラウンドを使用するため、彼女達の練習場所は室内練習場が中心だ。

創部8年目となる女子野球部は、6人の3年生を中心に部員38人で全国大会連覇に向け、日々汗を流し続けていた。

その野球部でキャプテンを務めているのは、篠原優華選手。

7歳から野球を始めた篠原選手は、中学卒業後、日本一を目指し作新学院に入学し、埼玉県の実家を離れて寮生活をしながら野球に打ち込んできた。

全体練習の後には、必ず3時間の自主練を入学当初から欠かさず続けてきたという。

キャプテンとして、前年に続く全国大会優勝を目指し、チームをまとめ上げてきた篠原選手だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、5月29日に全国大会は中止が決定。

その救済措置として10月に代替大会が開催されることとなった。

その日の篠原選手の日記には、

まだ3年内でも課題があるし、改善していって、1つのチームを作り上げていきたい。やるからには最後までしっかりやりきる。

そんな決意が書き込まれていた。

しかし、同じく3年生のチームメートは、複雑な思いを抱いていた。

「受験が心配です…」と正直な思いを漏らした川村果穂選手。

本来であれば8月の全国大会を持って引退するはずだった3年生だが、代替大会が行われる10月まで野球を続けるとなると、受験勉強と部活を両立できるかが問題になってくる。

川村選手と金田萌依選手に野球と受験勉強のどちらを取るか尋ねると、2人とも「受験です」と答え、金田選手は「最後までやりきれなかったのは悔しいけど、次の目標が決まったので気持ちは切り替えて次に行こうとは思っています」と、引退の道を選ぶ事にした。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で歯車が狂い、野球に100%集中できなくなるチームメートたち。

「受験とかもあるけど、野球の練習に来ているからには、怠けるとか中途半端にはやってほしくない」

篠原選手はそう話していたが、実際にはその思いを、大切な仲間だからこそ伝えられずにいた。

毎日連絡をとっていた母・明美さんは「自分の気持ちを人に伝えるのがうまい子じゃないから、『自分が思っていることは飲み込まないで言った方が良いと思うよ』と伝えました」とアドバイスしたが、それでも口には出せず心の内にしまい込んでしまっていた篠原選手。

「チームメイトに、指摘とか厳しい事を言えないので、もっと自分がキャプテンということを自覚してやらなくちゃいけないというのはあります」と、キャプテンとして想いを伝えられないことを悩みながら、練習に打ち込むことしかできなかった。
 

敗北を糧に成長を見せたキャプテンだったが…

8月、新チームの初めての実戦の場として、関東女子硬式野球連盟が主催する高等学校女子硬式野球大会が開催された。

しかし、去年の全国王者は3試合で一勝すら挙げることができなかった。

「やばいよ」と悔し涙を流す篠原選手に、「泣かないでください、大丈夫ですよ、まだ先はあるんで…」と声をかける後輩。

試合後、篠原選手は「2、3年。来て」と厳しい顔でチームメイトに声をかけた。

『1つのチームを作り上げていきたい』と野球ノートに書いていた篠原選手。

これまで仲間とぶつかることを恐れていた彼女が、大きな一歩を踏み出した。

「みんなが『勝ちたい』という強い思いがないと勝てないし、誰か1人でも『自分が試合に出てないからいいかな』とかそういう思いを持っていたら絶対ダメだから。
練習からしっかりやって『みんなで勝とう』っていう気持ちを強く持っていきましょう」

そう厳しい声を投げかけた。

学校へ戻ると、試合後の疲労があるにも関わらず、すぐに練習に精を出すチームメイトたち。

キャプテンの思いが徐々に届き始めていた。

しかしその2週間後、田代恭規監督の口から無情とも思える通知が伝えられた。

「本当に残念なのですが、代替大会が中止という結果がメールで届きました」

全国大会に続いて、代替大会も中止。引退試合はあるものの、目指していた舞台はなくなり、涙をこぼす選手たち。

監督は、未だ現実を受け入れられないような表情の3年生だけを集め、「本当に残念。その頑張りはその後の人生に活かして頑張れるようにしてください」と声をかけるしか無かった。

これまでどんなときであっても自主練を欠かさなかった篠原選手だったが、この日だけは、誰よりも早く練習場を後にした。
 

集大成の舞台で輝きを見せるチーム

引退試合まで残り2週間となった作新学院女子野球部。

そこには、チームを盛り上げ、積極的に声かけをする篠原選手がいた

「あと2週間しかないけど、聞きたいことがあれば、3年生がいるうちに聞いておいた方が良いと思うから。いつでも聞いて。そうしないと自分たちが困るだけだと思うから」

ミーティングでそう話した篠原選手。

3年生たちは残されたわずかな時間で、後輩たちの指導にあたる。

そこには、度重なる試練を乗り越え心ひとつに戦う、そんな彼女たちの姿があった。

「練習を積み重ねてきてやってきたということには間違いはないので、1年生から3年生が全員ひとつになって、勝ちたいです」

そんな特別な思いで迎えた9月12日。

様々な困難を乗り越え白球を追いかけてきた女子球児たちが集大成となる、一戦に臨んだ。

対戦相手は女子硬式野球選手権大会で優勝2回、準優勝6回の強豪・花咲徳栄だ。

一足先に受験勉強のため引退を決断した金田さんも、この日は応援に駆けつけた。

母・明美さんもスタンドで見守る中、初回、先頭バッターの篠原選手が気迫のヘッドスライディングを見せ、3ベースヒット。

その後先制のホームを踏み、自らのプレーでチームを引っ張る。

さらに他の3年生のバットからも、これまでの苦悩を吹き飛ばすかのように快音が続き、マウンドではつらつとしたプレーを見せる。

どんな困難にも立ち向かい、心を一つに駆け抜けてきた3年間。

最後は10−0(5回コールド)で、笑顔で引退試合を締めくくった作新学院。

激動の高校野球生活の幕を閉じた。

「自分がキャプテンになって、プレッシャーとか色々な不安な事があって、その中で春と夏の大会が無くなって、『今まで何やってきたんだろう』と不安とかしか無かったけど、最後こうやって終われたのは田代監督がいたり、一緒にやって来れた仲間がいたり、頼もしい後輩がいたから、ここまで来ることができました。
来年、再来年、全国大会で絶対に優勝してください」

試合後、最後のミーティングで涙を見せずに笑顔で締めくくった篠原選手。

「この3年間、どこの高校球児よりも一番いい経験ができたんじゃないかなと思います」と満足そうに話す彼女に、キャプテンとして自分に何点をつけるか聞くと、照れくさそうに「100点です」とはにかんだ。

(ディレクター: 野崎舞夏星、歳内彩文)

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フジテレビのスポーツニュース番組『S-PARK』(スパーク)は、8月2日(日)~30日(日)の5週に渡り 日曜S-PARK特別企画「2020夏 これが、僕らの甲子園。」を放送した。 
新型コロナウイルス感染拡大の影響で「春のセンバツ」と「夏の全国高校野球選手権」が中止になり、まさに夢を失ってしまった高校球児たち。
3年間、これまでの野球人生をかけて甲子園を目指してきた彼らは、「最後の夏」に何を目指し、何を思うのか…?

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