兵庫県稲美町の自宅に火を付け、おい2人を殺害した罪に問われ、1審で死刑を求刑されたものの、懲役30年の判決を言い渡された男の控訴審で、大阪高等裁判所は1審の判決を不服とした検察側の控訴を退ける判決を言い渡した。

1審の懲役30年の判決が維持される形だ。

送検される松尾留与被告
送検される松尾留与被告
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1審の神戸地方裁判所姫路支部は、犯行について「軽度知的障害や家庭環境の影響を受けていると認められる」などと判断していた。

大阪高裁は判決理由で「妹夫婦の被告人に対する行きすぎた行動などから、相当追い込まれた状態だった。軽度知的障がいが軽微ながら影響した。動機に身勝手な面があるが、動機の形成に関して、妹夫婦に憎しみなどを抱いたのは無理からぬ面がある。量刑が軽すぎて不当であるとは言えない」などと指摘している。

1審公判での松尾被告(法廷内イラスト)
1審公判での松尾被告(法廷内イラスト)

■同居していた当時12歳と7歳のおいを自宅に放火して殺害した罪に問われる

松尾留与被告(54)は2021年11月、兵庫県稲美町の自宅に火をつけて、この家に同居していた妹夫婦の息子・侑城くん(当時12歳)と眞輝くん(当時7歳)の2人を殺害した罪に問われている。

罪名:現住建造物等放火、殺人

亡くなった2人
亡くなった2人

■1審で妹夫婦との「トラブルから犯行に及んだ」認定

1審では、松尾被告が殺害した2人の両親(=妹夫婦)とトラブルを抱え、恨みなどを晴らすために犯行に及んだことが認定されている。

犯行に至るまで経緯は以下の通り。

▼2009年12月ごろ松尾被告は、妹の夫から生活態度について叱責されたこときっかけに、自宅を離れて大阪で生活を始める。

▼2015年8月ごろ体に痛みが生じるなどし、治療に専念するため、生活保護を受給して生活する。

▼2018年12月ごろ松尾被告が自宅などを亡くなった父親から相続されていたことが担当のケースワーカーに知られてしまい、生活保護の支給が取り止めとなる。帰宅したくなかった松尾被告は、薬や酒を大量に摂取して自殺を図る。

▼2019年1月ごろ松尾被告は稲美町の自宅へ戻り、その際、1階の一部屋を割り当てられる。

また、松尾被告は、自宅の土地を放棄する旨の書面を2通作成し、うち1通は妹に渡す。自分名義の不動産が無くなることで再び生活保護を受給し、自宅とは別の場所で生活ができると思ったが、名義が松尾被告から別の人物に変更されることはなかった。

事件の現場となった家
事件の現場となった家

■妹夫婦やおいと疎遠に

▼2019年5月ごろ自宅へ戻ってしばらくは妹夫婦やおいらと良好な関係を築いていたが、この頃を境に、妹夫婦と言葉を交わすことが全くなくなる。おいらともその後、疎遠になっていく。

▼2021年3月ごろ妹の夫が、松尾被告を監視するため2階廊下に防犯カメラを設置する。

▼2021年9月ごろ2階廊下の防犯カメラを1階台所に移設。

この時に初めて松尾被告は防犯カメラの存在に気付き、妹夫婦の様子を伺うためにわざと冷蔵庫の近くに茶葉を捨ててみると、妹の夫の笑い声と「そんなところに捨てるな」というおいの声が防犯カメラから発せられそれを耳にする。

松尾被告は「子供をダシにするな」と言い、一連の行為に強い怒りや悲しみを募らせる。

この頃から、「このままでは自分が窃盗や傷害に及ぶかもしれないが、母の気持ちや周りの目を考えるとできない。妹夫婦が喜ぶだけなので自殺もできない」などとして、妹夫婦を苦しめる方法を考えるようになる。

亡くなった2人
亡くなった2人

▼2021年11月6日か7日ごろ「あいつら(妹夫婦)の大切なものを奪えば俺の苦しみが分かるんじゃないか」としておいらの殺害を考え始める。

▼犯行の数日前、おいの死ぬ可能性が最も高く、同時に2人を殺害できるという考えから、放火殺人での犯行を決める。

▼2021年11月19日(犯行当日)「これで全て終わらす。あいつら(妹夫婦)の人生も俺の人生もこれで終わり。俺が娑婆に出ることはもうない」などと思い、計画を実行に移す。

事件の現場
事件の現場

■1審検察側が死刑を求刑 判決は「軽度知的障害や家庭環境の影響を受けている」懲役30年言い渡す

1審(神戸地裁姫路支部)で検察側は、「残虐な対応で、計画性も認められる。『間接的に殺したのはお前ら(妹夫婦)だ』などと言って遺族の感情を逆撫でしている」などとして死刑を求刑していた。

神戸地裁姫路支部(佐藤洋幸裁判長)は、「妹夫婦への恨みを晴らすためだけに二つの尊い命を奪った。両親との対面が叶わないほどに子供たちの遺体は炎に焼かれて痛ましく損傷していて、本件犯行態様は残酷との評価を免れない」と指摘。

一方で、「単に私利私欲目的等からくる犯行でないというだけでなく、妹夫婦を苦しめて恨みを晴らそうとしたという動機の形成に関して、そのような恨みを抱くのにも無理からぬ面がある」また、「軽度知的障害や家庭環境の影響を受けていると認められる」などとして、有期懲役刑の上限である懲役30年の判決を言い渡した。

閉廷後、両親は取材に対し、「何の落ち度もない2人を放火という残虐な手段で殺害したにも関わらず、30年という有期刑は本当に納得いかない。子どもたちに対しての報告はできない」などと話していた。

神戸地裁姫路支部
神戸地裁姫路支部

■検察側が1審判決を不服として控訴 改めて死刑求刑

死刑を求刑していた検察側は、この判決を不服として控訴していた。

大阪高等裁判所で去年12月に開かれた控訴審の初公判でも検察側は「1審は悪質性を正しく判断していない」などと主張し、改めて死刑を求刑。

一方、弁護側は控訴の棄却を求め、結審していた。

(関西テレビ 2025年3月14日)

3月14日 大阪高裁の法廷
3月14日 大阪高裁の法廷
関西テレビ
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