知床で26人が乗った観光船が沈没した事故で、乗客の家族らが運航会社の桂田精一社長らに損害賠償を求めた裁判が始まった。
桂田精一社長らに損害賠償を求める裁判始まる
カメラを避け、タクシーの座席で身をかがめた知床遊覧船の桂田精一社長。
法廷がある「本館」ではなく、裏側の「別館」から札幌地裁に入り、人目を避けるように渡り廊下を使って本館に入った。

2022年4月に起きた観光船沈没事故をめぐり、乗客の家族から約15億円の損害賠償を求められている。

遺族は悲痛な胸の内語る
沈没事故の前、観光地・網走刑務所を訪れた当時7歳の男の子。
船に乗る前、知床のゴジラ岩の前でカメラに笑顔を見せていた。

お母さんと一緒に乗った船。
この日は悪天候が予想されていたにもかかわらず、船は出航した。
20人が死亡、6人が行方不明。

悪天候でも出航― 桂田社長は謝罪
「この度はお騒がせして大変申し訳ございませんでした」(知床遊覧船 桂田 精一 社長)
事故から4日後、桂田社長は会見で謝罪した。
悪天候でも客を納得させるために出航することは以前からあったと話した。
「船が揺れれば”もう帰ってくれ”と納得してもらう方法をとっていました」(桂田社長)

もう息子とは会えない― “苦渋の決断”息子と母の死亡認定
「お誕生日おめでとう」(乗客家族提供の動画)
船に乗ったまま行方不明となった男の子。
これは事故前年の誕生日の様子だ。
いま、誕生日を一緒にお祝いすることはできない。
「息子の誕生日は自分にとっても大事な日なので。誕生日おめでとうって。8歳おめでとうって。本当だったら2人と一緒に誕生日のお祝いをしていたと思う」(乗客の家族)
2024年の春、行方不明の息子とその母親、2人の死亡認定を自治体に申請した。

運航会社と桂田社長を訴えるためには、遺族となる必要があった。
苦渋の決断だった。
男性を含む乗客14人の家族など29人は、運航会社の知床遊覧船と桂田精一社長に、あわせて約15億円の損害賠償を求める訴えを起こした。
「桂田社長に直接意見できる数少ない機会ですので。会社としての責任はある程度認めているが、個人には認めておらず、亡くなった船長のせいにしている」(乗客の家族)

3月13日の初弁論 遺族は悲痛な胸の内語る
そして迎えた3月13日の初弁論。
桂田社長は上下黒のスーツにマスクを着用して入廷した。
法廷では乗客の家族らが意見陳述し、悲痛な胸の内を明かした。
「桂田社長には事件の被害にあったのと同じくらいの子どもがいます。桂田社長は自分の子どもと接しているときに、自分の会社のせいで被害にあった子どもたちのことを考えないのでしょうか。私はどんなに子どもを抱きしめたい、子どもと手をつなぎたいと思ってもできません。いまは夢で会うことしかできません」(意見陳述・男性)
桂田社長はこの意見陳述に対し、3回ほど頭を下げた。
時折、椅子にもたれ、目を閉じて話を聞いていた。

最大の争点は、悪天候が予想される中で出航を判断したことの過失を問えるかどうか。
訴状によると、事故当日、気象庁の予報は風速15メートル、波高2メートルから2.5メートル。
一方、自社の運航基準では「風速8メートル以上、波高1メートル以上」になる恐れがある場合、中止しなければならないと定められていたという。

「『運が良かった今回は…』で済ませていたから、このような大惨事に至ってしまったのではないでしょうか」(意見陳述・男性)

主張は対立 責任の所在は―?
原告側は「出航を中止すべき天候が予想されていたにもかかわらず出航した」などと主張。
一方、被告側は「海が荒れたら引き返す条件付き運航に従い、適切に運航することで回避は可能だった」として、過失は認められないと主張している。
事故からまもなく3年。
責任の所在はどこにあるのか。
裁判の行方が注目される。
