ウクライナ紛争の停戦協議は、最終的にはサウジアラビアでトランプ米大統領とプーチン露大統領の首脳会談で決着をみる第一歩になるのだろうか?

この問題をめぐる米国とウクライナの高官協議は、11日からサウジアラビアで始まると発表された。米国からはルビオ国務長官、ウォルツ大統領補佐官が、ウクライナ側からはシビハ外相、ウメロフ国防相らが参加するが、ゼレンスキー大統領は出席しないと見られている。

口論となり決裂した米ウ首脳会談(2月28日)
口論となり決裂した米ウ首脳会談(2月28日)
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先のホワイトハウスでのトランプ大統領とゼレンスキー大統領との罵り合いで決裂した休戦協議を仕切り直しする目的だろうが、分からないのはなぜサウジアラビアで行うのかということだ。

前回見送られたレアアース共同開発の合意書に署名するのであれば、キーウでも良いわけだし、通信など協議をめぐる環境を考えれば欧州連合の本部のあるブリュッセルやパリの方が好都合なはずだ。それをあえてサウジアラビアにしたのには、協議の進展によって新展開を図るのに都合が良いからなのかもしれないと、次の3つの可能性を考えた。

可能性①ロシアが参加する

ロシアと米国は、2月18日にサウジアラビアのリヤドでウクライナ紛争終結の枠組みを協議していた。

米露高官協議(リヤド・2月18日)
米露高官協議(リヤド・2月18日)

この会議にはロシアからラブロフ外相が出席し、米国からはルビオ国務長官ら今回のウクライナとの協議に参加する顔ぶれが出席していた。ウクライナとの協議の成り行きによってはロシアが参加して話し合いを一気に加速させることはないだろうか。

可能性②トランプ大統領が飛び入り参加

トランプ大統領は、ウクライナの和平プロセスに積極的に関与することを望んでいると伝えられており、サウジアラビアでの協議の進捗状況を見て、直接交渉に飛び入り参加することは十分考えられることだ。

米国の同業の友人に聞くと、米国のマスコミもその機会をスクープするのを手ぐすねひいて待ち構えているというが、たまりかねたのか次のような記事を掲載した大衆紙もある。

「トランプ、サウジアラビアに飛び、ウクライナとの交渉を『軌道に戻したい』と言う。また『プーチンはゼレンスキーよりも対処しやすい』とも」(The US Sun電子版・7日)。

「サウジを訪問つもり。彼らとは素晴らしい関係を築いている」などと述べたトランプ大統領(3月6日)
「サウジを訪問つもり。彼らとは素晴らしい関係を築いている」などと述べたトランプ大統領(3月6日)

確たる裏付けのある話ではなさそうだが、トランプ大統領はサウジアラビアが1兆ドル(約150兆円)の対米投資に同意したことで、向う1カ月半以内にサウジアラビアを訪問すると6日記者団に語ったばかりで、すでに足はサウジアラビア側に向いていると言えそうだ。

可能性③プーチン大統領も参加して米露首脳会談

国際刑事裁判所(ICC)は2年前、ロシアが占領したウクライナ地域から子供たちを不法にロシアに移送したことなど、戦争犯罪を犯したとしてプーチン大統領に逮捕状を出している。しかし、サウジアラビアはICCを締約していない数少ない国で、プーチン大統領が入国しても逮捕される恐れはない。

そこで、米露首脳会談があればその舞台と考えられており、もしトランプ大統領がサウジアラビアを訪問するのであれば、その機会に会談を行なってウクライナ紛争に終止符を打つことも十分考えられるシナリオだ。

このように、米国とウクライナが休戦を協議する場所としてサウジアラビアを選んだ先には様々な展開が予想できるわけだが、いずれにしてもまず11日から始まる協議が順調に進捗することにかかっていることは言うまでもない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】 

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。