訪日外国人の増加に伴い、日本の接客業では言語の壁が課題となっている。
英語力向上のため、新宿プリンスホテルではAI英会話アプリ「スピークバディ」を導入。従業員はスキマ時間を活用し、実践的な英会話を習得している。AIの活用により、外国語学習のコストが下がり、効率的に習得可能に。一方で専門家は、AI翻訳の進化により、外国語学習の意義が問われる時代となり、専門知識やスキルの重要性を指摘する。

訪日外国人急増で言語の壁…AIが接客英語をサポート

おもてなしの「接客英語」の強化は、AIアプリにお任せ。

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年々、増え続けている訪日外国人。政府観光局の推計などによると、1月、日本を訪れた外国人旅行者は、ひと月としては過去最多の約378万人。2024年の同じ月と比べても100万人以上増えた。

日本の“おもてなし”も、その対応に迫られている。

「部屋には歯ブラシと水しか置いていないので、もし他のアメニティーが必要であれば、こちらにお電話ください」

東京・新宿区にある新宿プリンスホテルでも、宿泊客の約8割が外国人で年々増加傾向に。

そこで課題となっているのが「言語」の壁。イー・エフ・エデュケーションの調査によると、日本の英語力は過去最低で、アジアの中でも低く16位。

さらに、訪日外国人に日本の旅行で困ったことを聞いたところ、最も多く挙がったのが「言語」の壁で43.0%だった。次いで「予約」が19.0%で、「交通機関」が18.0%となった。(Fast Train Media調べ)

そこで、従業員の英語力の強化を図るために始めたのが――。

AI:
“Hi, is this the Starlight Hotel? I'd like to check in, please. ”
(こんにちは、ここはスターライトホテルですか?チェックインお願いします)

従業員:
“Yes, it is. Welcome to the Starlight Hotel Tokyo. Do you have a reservation with us?”
 (はいそうです。スターライトホテル東京へようこそ。ご予約はお済みですか?)

こちらは音声認識や生成AIを活用し、キャラクターと会話しながら実践的な英会話を学習できるアプリ「スピークバディ」。シーンや相手を選ぶことができ、今回、新たなコンテンツとして「接客英語」の提供を始めた。

こちらの従業員は2024年11月頃からこのアプリを始め、スキマ時間にやっているそう。

従業員:
始める前はけっこう翻訳機を使っていたんですが、使わなくなってスムーズにコミュニケーションが取れるようになってるので、感謝の言葉は結構多く貰えるようになりました。自分の言葉で伝えられるのがすごく嬉しいです。

このアプリの担当者は――。

スピークバディ・椿遼CMO:
英会話をするにあたって必要な学習、インプットをすべてアプリの中でオールインワンで学習できることが大きな違いになっております。

AIとたくさん話すことによって英語をしゃべることの恥ずかしさとか慣れとかがついてきます。英語をしゃべることで、それぞれの方の人生をより良くなるような支援ができればと考えています。

AI活用で低コスト&効率的に外国語習得 意欲向上にも期待

「Live News α」では、哲学者で津田塾大学教授の萱野稔人さんに話を聞いた。

堤礼実キャスター:
AIによる英会話の学習、萱野さんはどうご覧になりますか。

津田塾大学教授・萱野稔人さん:
実は外国語の習得は、他の勉強に比べると、もともとコストパフォーマンスがあまり良くないです。外国語の習得には時間も労力もかかりますよね。

時間をかけて頑張って外国語の勉強をしても、なかなか高い語学力は身につかないこともあります。外国語の勉強に充てる時間を別の勉強に使えば、いくつもの資格を取得できるという指摘もあるぐらいです。

そのため、英語学習へのモチベーションがなかなか湧かないという人も少なくないでしょう。ただ、こうしたコスパの悪さがAIの活用によって変わろうとしているんですね。

堤キャスター:
その点、AIアプリなら、学ぶ場所・時間帯も自由がききますよね。

津田塾大学教授・萱野稔人さん:
AIの活用によって外国語習得のためのコストを下げられるのであれば、それは多くの人たちにとって、外国語の勉強への意欲を高めてくれるものになるかもしれません。

あまりお金をかけずに、スキマ時間を活用しながら、効率よく語学力をアップできる方法は、今後ますます求められていくと思います。

AI翻訳が進化し外国語学習の意義が再定義される時代へ

堤キャスター:
テクノロジーの進化によって、外国語との向き合い方も変わっていくようですね。

津田塾大学教授・萱野稔人さん:
今、AIによる音声認識や翻訳はますます精度が高くなっています。特に英語は、人間による翻訳と同等か、それ以上のレベルに達していると言われています。

そうなると、人間が英語を学習するよりも、AIを使って通訳や翻訳をしてもらう方がコスパが良い、ということになってきますよね。なぜ外国語を学ぶのか、それを再定義する必要が今後出てくると思います。

堤キャスター:
言葉を学んだ先に何ができるのか、これが問われていくということですね。

津田塾大学教授・萱野稔人さん:
仕事と外国語ということで言うと、英語が話せるだけでは、そもそもネイティブの人には勝てません。仕事において価値を生み出してくれるのはやはり専門知識であったり、専門的スキルであったり、アイデアであったりします。

そうした価値を生み出す仕事の本質があるからこそ、英語を話すということも意味を持つ、ということは忘れてはいけませんね。

堤キャスター:
コミュニケーションを図る上で言葉の役割は大きいです。グローバル化が進む時代だからこそ、翻訳アプリなどのツールにも頼りながら、生きた言葉で話す便利さや楽しさもあるように思います。
(「Live News α」2月19日放送分より)