アメリカの首都ワシントン近郊にある空港近くで1月29日、旅客機と訓練中の軍用ヘリが空中で衝突して墜落し、旅客機と軍用ヘリに乗っていた合わせて67人全員が死亡した。
Mr.サンデーは、この事故をパイロット・管制官それぞれの視点から検証。2つの謎が浮かび上がってきた。
旅客機と米軍ヘリの衝突“2つの謎”
アメリカの「アースカム」が捉えた映像、そして、事故直前の交信記録から浮かび上がったのは2つの謎。

管制官:
PAT25(軍用ヘリ)、CRJ(旅客機)が見えますか?CRJ(旅客機)の後方を通過して。
軍用ヘリ:
機体は見えている。
乗客乗員64人を乗せたアメリカン航空5342便の旅客機に近づく米軍のヘリコプター「ブラックホーク」は、旅客機を「見えている」と答えていた。にも関わらず…。
管制官:
オーマイゴッド!
別の航空機:
管制塔、今の見たか?
管制官:
我々も見た。

米軍ヘリが旅客機を確認していたのならば、なぜそのまま突っ込んだのか。そして、どちらの機体も緊急回避の動きが見られないのはなぜだったのか?
旅客機とヘリ、合わせて67人の生存が絶望的とみられる中、Mrサンデーは、「旅客機」「米軍ヘリ」「管制官」の3つの視点から、残された謎に迫った。
周辺にも飛行場点在「上空はいつも混雑」
墜落現場は首都・ワシントンの南、ポトマック川。旅客機は、そのそばにあるレーガン・ナショナル空港に着陸予定だった。
45年以上航空機事故調査に携わる、元国家運輸安全委員会のグレッグ・フェイス氏は…。

元国家運輸安全委員会 グレッグ・フェイス氏:
この空港の周辺には、民間と軍を合わせて8カ所ほどの飛行場があります。そのため、上空はいつも混雑しています。だからこそ、米軍ヘリと旅客機両方のパイロットが、安全手順から逸脱せず、絶対的に従うことが非常に重要なのです。

レーガン空港は滑走路が短い上、約1分ごとに離着陸がある過密ダイヤで知られているという。しかも、周辺には米軍の飛行場も点在。日々、軍用機が行き交うため、旅客機の運行にはひときわ神経を使うエリアだ。
旅客機パイロットの視界にヘリはいなかった?
そこで私たちは、元日本航空機長でSRC研究所所長の塚原利夫氏とともに、事故当時の状況を検証した。
フライトシミュレーターを使い、旅客機と同じ時間、同じルートでレーガン空港へ向かう。
元日本航空機長 塚原利夫氏:
この辺でですね、管制塔から今見えている右側の(第33)滑走路に着陸をしてくれということで指示されます。
地上には空港や周辺の街に広がる灯りが見える。旅客機が管制官から着陸を指示されていたのは、この第33番滑走路。ポトマック川沿いに、空港まで約2.5kmのあたりで左に旋回し、そのまま滑走路へ降下する。
旅客機が下降し着陸態勢に入っていた時の映像を見ると、滑走路に降り立とうとする旅客機の右側に米軍ヘリが衝突。旅客機からはどう見えていたのか。改めて、フライトシミュレーターでパイロットの視点から見てみると…。
元日本航空機長 塚原利夫氏:
(米軍)ヘリはですね、川岸沿いです。この辺見えているかもしれません。
そもそも、米軍ヘリは北から南下。旅客機は北上し、正面に向いていた。そのため、旅客機からは、前方に米軍ヘリが見えていた可能性がある。しかし、ここから滑走路へ向け、左に旋回。すると、米軍ヘリが右手に消えた。さらに降下すると…。

元日本航空機長 塚原利夫氏:
この時にパイロットは滑走路を集中して見ていますので、この辺ではヘリは見えないし、回避するというのは非常に難しいと思います。
米軍ヘリが突っ込んできたのはまさにこのタイミングだった。旅客機のパイロットから見れば、ヘリは視界にいなかったと考えられる。
米軍ヘリ“制限高度超過”か
しかも…。

元日本航空機長 塚原利夫氏:
この位置、これが衝突した高度になります。(米軍ヘリが)自分たちの高度の下を飛んいでると思ってますから、(ヘリが)着陸する飛行機と同じ高度になってしまったというのは、最大の問題だろうと思います。

実は、アメリカの航空法では、事故現場周辺でヘリが飛べる高さは200フィート(約60m)までと定められている。確かに普段、この付近を飛ぶ米軍ヘリの映像を見ると、地上が近くに見える。

しかし今回、衝突が起きたのは、上空約320フィート(約100m)だとみられている。つまり米軍ヘリは、規定を大幅に超える高度で衝突したことになる。
「ミス」「技能テスト中」ブラックホーク元パイロットが可能性を指摘
米軍ヘリ「ブラックホーク」のパイロットを8年間務めたエリザベス・マコーミック氏はその原因をこう推察する。

「ブラックホーク」元パイロット エリザベス・マコーミック氏:
高度が高すぎるのは、通常、パイロットのミスだと思います。何らかの機材トラブルであれば、普通は上昇せず、下降するからです。
さらに…。
「ブラックホーク」元パイロット エリザベス・マコーミック氏:
私たちはチェックフライトと呼んでいるのですが、年に1度のパイロットの技能テストだった可能性があります。

米軍ヘリは訓練飛行中だったと発表されているが、エリザベス氏は、パイロットのミスと、技能テストの最中だった可能性を指摘した。
一方、衝突直前に残された謎がある。管制官とのやりとりで、米軍ヘリは旅客機が「見えている」と報告していたが、実際はそのまま突っ込んでしまった。
マコーミック氏によると、空域では何があろうとも軍用ヘリより旅客機に優先権があるという。そのため、米軍ヘリが旅客機と距離を取る必要があった。
だが、衝突を捉えた映像には、事故原因につながる大きな手掛かりが見て取れるという。

「ブラックホーク」元パイロット エリザベス・マコーミック氏:
管制官は「旅客機が見えているか?」と言っています。(管制官の思う旅客機は)1つですね。しかし、米軍ヘリの視界には2つの旅客機があったんです。

改めて映像をよく見ると、米軍ヘリが接近し旅客機の光へ向かって行く。実はこの時、離陸する飛行機も映っていた。フライトレーダーを見ても、米軍ヘリが向かう先に離陸する飛行機が確認できる。しかも、夜の飛行で「暗視ゴーグル」を着用していたため、視界も限定されていた可能性があるという。

「ブラックホーク」元パイロット エリザベス・マコーミック氏:
暗視ゴーグルは、トイレットペーパーの芯とか、そういったものから見ているようなものです。視界はとても限定されます。
ヘリのパイロットは別の旅客機を見ていた可能性があります。
つまり、米軍ヘリは、管制官からの指示とは別の機体を確認し、衝突する機体は見えていなかった可能性が考えられるというのだ。

「ブラックホーク」元パイロット エリザベス・マコーミック氏:
これは管制官のミスです。管制官は見るべき旅客機の方向を伝えて、「下降している旅客機が見えるか?」と明確に言うべきでした。
管制官の人手不足…「特殊技能が必要な空港」
管制官のミスだとすれば、なぜ…?

元管制官 マイケル・ピアソン氏:
あの空港の管制官は、疲労によってミスをした可能性があります。
管制官の疲労の要因は人手不足にあるという。
ワシントン・ポスト紙は、管制官が通常4人で行う業務を当時、2人で担当していたと指摘。
元管制官 マイケル・ピアソン氏:
管制官は約20~25%の人員不足です。アメリカ国内であと3000人は必要とされています。1日に6時間から10時間働いて、週の休みは1日だけという状態なのです。
さらに別の問題を指摘したのは、元アメリカン航空パイロットのチャド・ケンドール氏。

元アメリカン航空パイロットのチャド・ケンドール氏:
この空域は非常に複雑で、航空業界では通常訓練を超えた特殊技能を必要とする空港と呼ばれています。レーガン空港では、ここ数年、ニアミスなどが数回発生しています。私も経験したことがあります。
以前から、米軍ヘリと旅客機のニアミスがたびたび起きていたという。しかも、地元メディアによると、レーガン空港の便数は2024年から1日10便増えたという。そうした状況が事故の遠因となったのか。
捜査当局は、新たに米軍ヘリのブラックボックスを回収。原因究明へ調査を進めている。
(「Mr.サンデー」2月2日放送より)