長野市のJR長野駅前で男女3人が襲われ1人が死亡、2人が重軽傷を負った事件から1週間が経過した。逮捕された容疑者は、自宅の電気と水道が止められるなど生活が困窮していたとみられる。専門家は、社会から孤立し生活が困窮することで自暴自棄になって凶行を起こす「ローンオフェンダー」の特徴があると指摘。社会的孤立を生まない社会づくりの重要性を強調している。
無言で背後から襲撃
1月22日夜、JR長野駅前で発生した3人殺傷事件。男女3人が刃物で次々と刺され、いずれも長野市に住む会社員の49歳の男性が死亡、37歳の男性が重傷、46歳の女性が軽傷を負った。
事件から4日後の1月26日、女性に対しての殺人未遂の疑いで無職・矢口雄資容疑者(46)が逮捕された。

これまでの調べでバスを待っていた3人を無言で背後から次々に刺したという。
警察は「被害者3人と面識はなく通り魔的な犯行」とみている。
「自暴自棄型」の特徴
テロ犯罪などを研究する日本大学危機管理学部の福田充教授は、組織に属さない個人が単独でテロ行為などに及ぶ「ローンオフェンダー」の特徴があると言う。

ローンオフェンダーは、政治的思想が動機になる「テロリズム型」、差別的思想を持つ「ヘイトクライム型」、生活に行き詰まるなどして他者を攻撃する「自暴自棄型」の3つに分類されるという。
福田教授は「昨今増えているのは社会から引きこもって社会不適応になり、そして生活が困窮したり行き詰って自暴自棄になるケース、今回の事件も(「ローンオフェンダー」の)自暴自棄型の犯罪に当てはまる可能性が高い」と指摘する。

2022年の安倍元首相銃撃事件は「テロリズム型」。
2016年に神奈川県の障害者施設で入所者19人が殺害された事件は「ヘイトクライム型」。
2023年長野県中野市で住民と警察官合わせて4人が殺害された事件は「自暴自棄型」に分類されるとしている。
挫折による社会的孤立
福田教授は今回の事件は中野市の事件と「共通点があるのでは」と指摘する。
「2つの事件では挫折による社会的な孤立という共通点がある。その結果、自暴自棄になって厳しい苦しい状況に陥っているのは、社会や家族、他人のせいだと思い込むことで復讐を社会にしてやろうと」
中野市の事件で逮捕・起訴された青木政憲被告は成績もよく東京の大学に進学したものの、中退して地元に戻ってきた。

「大学でいじめに遭い人間関係が苦手になった」と話していて、近所づきあいはほとんどなかった。
独りぼっちを意味する「ぼっち」という言葉に過剰に反応していて、面識のない住民2人が自分を「ぼっち」と呼んでいると一方的に思い込み犯行に及んだとされている。
「ひきこもりがち」 生活に困窮か
今回の事件の容疑者については、同級生や実家近くの住民によると、高校までは成績が良く部活に打ち込んでいたという。

その後、首都圏の大学に進学するが、10年程前に実家に戻って来て「引きこもりがちだった」という。

現在は無職で長野市内のアパートに一人で暮らしていた。捜査関係者によると、自宅は電気と水道が止められており、生活保護を受給していたという。生活に困窮していたとみられる。
社会的孤立防止が重要
福田教授は、「なんらかの予兆というかシグナルが地域や家族の中で確認されている事例はある。そういった段階で社会で対応する、警察や役所に相談する。社会から取り残され働けなくなったり、引きこもりになってしまうような個人をなるべく生み出さないような社会制度づくりが求められる」と話し、社会的孤立を生まない社会づくりの重要性を強調している。

警察も対策を強化しており、警視庁は2025年度、専門の部署をつくり犯行を未然に防ぐための体制を整える予定だ。
社会全体で孤立を防ぐ取り組みが求められている。
(長野放送)