30年前の震災で相次いだ「建物の倒壊」。今でも、耐震性が不足している建物は多く残されている。 耐震化が進まない現実と街が抱える倒壊だけでは済まない思わぬリスクとは。
■「道路の寸断」を引き起こす建物の倒壊

30年前の阪神淡路大震災の揺れで、倒れたビル。 建物の倒壊は多くの命を奪っただけではなく、救助活動の大きな障壁となる「道路の寸断」を引き起こした。 当時救助活動にあたっていた神戸市消防局の上村さんは、こう証言する。
神戸市消防局 上村雄二消防司令:道に消防車で侵入しようとしたとき崩れて入れなかったですね。もう(車を降りて)自分の力で行かないとしゃあないですよね。そういう現場ばっかりやったんちゃいますか。
1つでも多くの命を守るためには、救急車などの緊急車両が通れる道を確保しておくことが重要。
■大阪市内の建物のうち7割近くで耐震性が十分でないという結果

そんな中で現在、大阪で定められているのが「広域緊急交通路」。 主要な国道などが対象で災害時に緊急車両が通ることが想定されているため、道路の寸断を引き起こさないよう、沿道の建物には耐震診断が義務づけられている。
記者リポート:御堂筋も緊急交通路の1つです。一方で、そうした道の沿道に建つ建物。耐震性に問題がないのかといわれると、必ずしもそうではないようです。
関西テレビは大阪市に情報公開請求を行い、耐震診断の結果を調査。すると驚きの結果が…。
記者リポート:こちら診断結果のリストですが、見てみると『倒壊のリスクが高い』や『ある』といった診断結果が目立ちます。
なんと該当する大阪市内の建物のうち、7割近くで耐震性が十分ではないという結果になっていた。
■独自アンケートの回答は「費用面で問題がある」「お金がなくて何もできない」

一体なぜなのか。番組は大阪府内にある広域緊急交通路沿いの建物の所有者に、独自にアンケートを実施。 所有者の回答からは、道路の寸断を引き起こすリスクを認識していても、簡単に耐震化を進めることができない、苦しい実情が浮かび上がってきた。
テナントビルの所有者:費用面で問題がある。現状満室で補償の問題がある。
事業所の所有者:お金がなくて何もできません。
テナントビルの所有者:テナント物件のため、こちらから退去を促すと退去費用が膨大になる可能性があります。貸主は決して強者ではありません。
去年発生した能登半島地震でも、5階建てのビルが倒壊。今後の巨大地震でも、大惨事は起きてしまうのか。
■特に耐震化が困難なマンション

専門家は「阪神・淡路大震災」や「能登半島地震」と同じ状況になることは十分ありうると指摘する。
マンション管理コンサルタントさくら事務所 土屋輝之さん:(同じことが)起こりうると考えざるを得ないですね。起こりにくいと判断する材料が全くない。ビルのオーナーが耐震補強のステップにたどりついていなければ、あの時と何ら変わりはない。
建物の中でも特に耐震化が困難なのがマンション。
この日、30代の夫婦は、宝塚市で中古の分譲マンションの購入を検討していた。
ウィル不動産販売 加藤健太さん:1900万円で(部屋を)購入されて、リフォーム1522万円かけてこの状態に。
この日見学したのは、購入後にリフォームが行われた部屋。同条件の新築物件は6000万円近くする中で、割安感のあるこうした中古物件には人気が集まっている。

しかし…。
客:もともと築46年?
ウィル不動産販売 加藤健太さん:そうですね。全然私たちより年上の。築46年(1978年築)ともなると多少の弊害はありまして。
建築基準法では、1981年以前に建てられた「旧耐震基準」のマンションが耐えられると想定されるのは震度5強程度の揺れまで。 それ以上の激しい揺れだと、損壊や倒壊のおそれもある。
■いまも全国で103万戸のマンションが旧耐震基準のまま

客:リノベをしても旧耐震っていうのは変わらない?
ウィル不動産販売 加藤健太さん:そうですね。ガワ(構造)の条件は変わらないので。
ウィル不動産販売 加藤健太さん:旧耐震多いですね。確率的には最初にいい土地を広く抑えているマンションが多いので。私もそこは頭ごなしに大丈夫ですとは言わないように気を付けていまして。
実はいまも全国で103万戸のマンションが旧耐震基準のままとなっている。一体なぜなのか。
住民:はがれている。
記者:はがれているから貼っている?
住民:そうですね。腐食しているので。
大阪府内にある、およそ50年前に建てられたマンション。管理組合の一員である男性は、耐震化を進めようとしていた。
■工事は億単位の費用が必要 「ぶっちゃけ反対の方が多い」

しかし…。
住民:耐震工事に関しては、ぶっちゃけ反対の方が多いんです。やっぱりお金ですよね、費用ですよね。
マンションで耐震工事を進めるには、原則、住民などからなる管理組合の4分の3の同意が必要だが、工事には億単位の費用が必要で、同意を取り付けるのは困難。 まずは耐震診断を行おうとしているが、それすら簡単ではない。
住民:築50年ほどたっているマンションですから、評価としては一番ランクが悪い部類になる。耐震診断をすることによってマンションの評価が下がってしまう。

専門家は多くの旧耐震基準のマンションが陥る状況について、次のように指摘する。
マンション管理コンサルタントさくら事務所 土屋輝之さん:(例えるならば)病院に行って、病気だって通知を受けるのが嫌だからあえて病院に行かない。そういう行動に走っている管理組合が実は相当数ある。(災害が)激甚化しているという傾向を考えると、30年前よりも発生する場所によっては、(倒壊、損壊の)危険性は増している。
■10年以上の取り組みを経て耐震化を実現

ともに暮らす人と、どうすれば意見を合わせられるのか。 神戸市のポートアイランドでは、地区内のマンションの住民などが集まり、月に1度のミーティングが行われていた。 この日の議題は「耐震化」です。
参加者:入居するときには、みんな同じような年代で同じ条件じゃないですか。40年たつとそれぞれの人の暮らしが変貌しちゃう。もう高齢者になってこのままなくなってもいいやという判断をする人もいる。
耐震化の難しさが語られる中で参加者の1人、高柳さんがある報告をした。
ポートアイランド住宅管理組合 高柳章二さん:私どものマンションでは、この12月で2年半にわたる工事が完了してですね…
10年以上の取り組みを経て、耐震化を実現したというのだ。
■7、8年住民からの反対があった耐震化

取材班は後日、高柳さんを訪ねた。
ポートアイランド住宅管理組合 高柳章二さん:これです。これがずっと上に(伸びている)。これを新しくつけたんです。
工事により柱の部分が鉄骨で強化されていました。かかった費用は9棟でおよそ19億円と決して安くはない。
ポートアイランド住宅管理組合 高柳章二さん:7、8年ありましたかね、(住民からの)反対は。
それでも高柳さんは「旧耐震基準のままではマンションの価値を守れない」と耐震化実現のため粘り強く訴えたという。
ポートアイランド住宅管理組合 高柳章二さん:工事する前の(耐震診断の)資料です。0.6が基準値なんですが、それより低い数字がある。ひどいのは0.22とか。旧耐震基準の中古マンションは(いずれ)見放される。新耐震基準にもっていっておければ、高齢者の方が(施設に入るなど)転身をはかるときにいい値段ですぐ売れて対応できる。そういうことを強く訴えたらやっと理解してもらえて。
■地域の交流で課題解決の糸口に

高柳さんは現在、地区のほかの住民にも自らの経験を共有している。 ミーティングにも参加する専門家は、こうした地域の交流が課題解決の糸口になるのでは、と話す。
兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科 澤田雅浩准教授:ここに来れば先行的にやっている人がどういう工夫をしているか分かったりする。同じような環境だからこそ意味のあるまねっこになって、ほかのマンションに伝播していく。
阪神・淡路大震災から30年がたっても、いまだ進まない耐震化。 同じ悲劇を繰り返さないためにも、解決策を探る必要がある。
(関西テレビ「newsランナー」2025年1月22日放送)