元部下に性的暴行を加えた罪に問われている大阪地検元トップの男の裁判をめぐり、ジャーナリストの浜田敬子さんが被害を訴える女性検事に話を聞いた。

■【動画で見る】被害訴える女性検事の激白 元地検トップによる『性被害』 「本当に許せない」被告の姿勢を「検事の鎧(よろい)」着て最後まで戦う

浜田さんは新聞記者出身で、国内外の現場に自ら出向いて取材活動をしているが、今回この取材をした問題意識について次のように話した。

ジャーナリスト 浜田敬子さん
ジャーナリスト 浜田敬子さん
この記事の画像(13枚)

浜田敬子さん:最初に女性検事の会見を見たときに、現職の検事が元上司の検事正からの被害を訴えたという、内容の衝撃が非常にありました。法を司る立場の検察が事件の舞台になったということも非常に驚いたんです。

浜田敬子さん:もちろん私だけじゃなくて、周りの多くの女性から、あの会見を見て非常にショックを受けたと。彼女のために何かできることはないかという声を結構かけられたんです。その背景に何があるのかと考えた時に、やはり少なくない女性たちが職場とかいろんなところでこういった性被害に遭っていて、声を上げられずに悩んでるんじゃないか。この事件の本質は何なのかということで、取材を続けていきました。

■「検事としての尊厳を踏みにじられ、身も心もボロボロにされた」

浜田敬子さん:今回の事件を聞いた時に、非常に多くの女性たちから私の元にも『本当にひどい』『私にも何かできないか』という声が非常にたくさん寄せられたんです。

被害を訴える女性検事:ありがとうございます。

世間の注目を浴びた大阪地方検察庁のトップだった北川健太郎被告(65)が逮捕・起訴された、準強制性交等事件。 北川被告は検事正就任祝いの飲み会の後、酒に酔って抵抗できない部下の女性検事を、自分の官舎に連れ込み、性的暴行を加えた罪に問われている。

被害を訴える女性検事(去年10月の会見):上司として尊敬していた検事正の被告人から性交されているという予想外の事態に直面して、恐怖して、驚愕して、絶望して、凍り付きました。

被害を訴える女性検事(去年10月の会見):女性として、妻として、母としての私の尊厳、そして検事としての尊厳を踏みにじられ、身も心もボロボロにされ、家族との平穏な生活も大切な仕事も全て壊されました。

勇気を振り絞り、被害を訴えた記者会見からおよそ2カ月。女性検事には多くの支援の声が届いている。

被害を訴える女性検事:1回目の会見をした後に、(支援者を通じ)200人弱の方が『with you=あなたとともにいる』というメッセージを送っていただきました。性犯罪被害を受けた当事者からもたくさん声をいただいていて、声を上げられない人、声を上げても苦しんでいる人たちの戦いでもあるから支えていくと。

浜田敬子さん:それだけ声なき声というか、『代弁してくれてありがとう』といった方も多かったということなのでしょうね。

被害を訴える女性検事:そうですね。本当に私だけの戦いじゃないと。自分もメッセージをいただいて実感しています。

■認識を二転三転させ、裁判で争う姿勢を見せる北川被告 

一方で、北川被告は、事件に対する認識を二転三転させている。

事件の1年後に、定年を待たずに退官する際には直筆の文書では…。
北川被告が女性検事に宛てた直筆文書の内容:事件までは尊敬の対象であった私からの加害行為であり、そのこと自体、赤の他人よりも大きなショックを受けていると思っています。全部私の責任です。本当にごめんなさい。

 “加害行為”と認め謝罪するも、逮捕されたときには容疑を否認。 裁判が始まると、公開の法廷で今度は「争わない」と述べた。

北川被告(初公判での罪状認否):公訴事実を認め、争いません。

しかし、初公判の後に、新たに選任された弁護人が会見を開き、北川被告は「同意があると思っていた」などと、一転して無罪を主張する方針を表明。 裁判は、同意の認識などを争点に進むとみられる。

■性犯罪被害者の気持ち「自分が被害を受けて実感した」女性検事

浜田敬子さん:元検事正という立場にも関わらず彼は『同意があると思っていた』ということを言ったわけですね。そういう(犯罪成立の構成)要件も当然、精通しているわけですよね。

被害を訴える女性検事:こんな元検事正までがそんなことを言うのだから、そういう(「同意があると思っていた」と)主張をすれば無罪が得られるんじゃないかと思う犯罪者もたくさんいるだろうし、逆に被害者はそういう主張をされたら無罪になるんだって思ったら、怖くて(被害を)言い出せなくなる。

被害を訴える女性検事:そういう悪影響をもたらすことを北川被告自身分かっているのに、それをしている罪深さっていうのを、本当に許せない気持ちです。

以前から性犯罪事件では特に被害者の心情に寄り添ってきたつもりの女性検事だったが、その本当の恐ろしさを、身をもって知った。

被害を訴える女性検事:私自身は、幼少期から性犯罪を含む被害に何度か遭ったことがあったのですけど、レイプされた被害者がどういう気持ちであったかとか、どういう気持ちで今いるのかとかは、まだ十分に分かっていなかったのだなということを、自分が被害を受けて実感しました。

被害を訴える女性検事:被害を受けている最中というのは、こんなにも何もできないし、最後に起きるのは迎合反応といって、『殺されないようにしたい』。被害を受けた後も証拠を保全しなきゃいけないということは、検事として分かっていても、全ての証拠を洗い流している状態ですから、そういう冷静な判断がつかない。

■身をもって知った苦しみ 被害者心理を伝える講習を警察官らへ行う

検事である自分が身をもって知ってしまった被害者の苦しみ。事件後は、気丈にも被害経験は伏せたまま、捜査現場の警察官や検察官に、被害者心理を伝える講習も行った。

被害を訴える女性検事:こういったこと(被害者心理など)を理解してもらわないと、声を上げた被害者を救っていくことができないので、皆さん(捜査機関)に客観的な資料を用いてお伝えして、『多くの被害者を救ってあげて欲しい』ということをお願いしてきました。

浜田敬子さん:ご自身が当事者だったつらさもありながら、これを生かすというのは非常に困難だと思うのです。

被害を訴える女性検事:私自身は決して強い人間では全くなくて、普通の人間で、だけど誰かを守りたいって思ったら、検事っていう鎧(よろい)を着て、守りたい誰かのために全力で最後まで戦うことができます。

被害を訴える女性検事:私は検事のよろいを着ればどこまでも強くあります。そのよろいを着て『泣き寝入りしている人たちが山のようにいるから、被害を訴えてきた人は大事にしてあげて欲しい。一緒に戦って欲しい』ということを訴えてきました。

その圧倒的な熱意は、確かに捜査現場の人々に響いていた。講習を受けた人の中には、女性検事が被害者だと知り、支援する会を立ち上げた人もいる。

講義を受けた元警察官:最新の捜査手法だけではなく、心構え的なものとかもありましたし、中身の濃い講義でしたので胸に響くものがありました。今になって思ったら、ご自身がそういう経験をされていたので、だからこそのリアルで魂のこもった講義だったんだなと。被害者の無念をはらすだけではなくて、その心までも救おうとしていた。そんな姿勢を見てきたので、こんな人を辞めさせてはいけないと強く思います。

■「率直な気持ちとしては怖くて戻れない」「被害者の回復に力を添えることができるのは検事の仕事だけ」

被害の苦しみと闘い続けてきた女性検事だったが、北川被告の退官後も検察庁に影響力が残る現実に心身をむしばまれ、PTSDを発症。休職を余儀なくされた。

自らを守るために被害申告をしたが、検察庁内での誹謗中傷などもあり、復職できていない。

浜田敬子さん:現場に復帰して検事の仕事を続けるためには、今どういうことが一番望んでいらっしゃるのか。

被害を訴える女性検事:今、検察庁の中にしかハラスメントを訴えるものがないんです。検察庁内で起きたことをいくら検察庁内で言っても、上の人たちの意識が変わらない限りは適切に対応してもらえないし、だから外部にそういう相談窓口が必要だと思う。

浜田敬子さん:最後に私からお聞きしたいのですが、それでもやっぱり検事の仕事に戻りたいっていうふうに思ってらっしゃるのはなぜなのでしょう。

被害を訴える女性検事:率直な気持ちとしては、怖くて戻れないです。戻りたかったけど、今のままでは本当に戻れないし、あの建物(検察庁)に行くことすら怖いです。

被害を訴える女性検事:だけど、皆さんが検事の仕事に戻れるようにするために応援してくださっているという気持ちもすごいありがたいし、適切に加害者を処罰して、被害者の回復に力を添えることができるのは検事の仕事だけなので、だから検事の仕事にやっぱり未練があるんです。

女性検事は、二度と同じような被害が起きないようにと「職員を守って欲しい」といった思いを記した上申書を検察庁に送っている。 今後、裁判で北川被告は何を語るのか。

次回の裁判の日程は、まだ決まっていない。

■「検事の鎧(よろい)」女性検事が語ったプロ意識とつらさ

これから裁判の中で真相が明らかになっていくことになる。

ジャーナリスト 鈴木哲夫さん:『自分は普通の人間』『検事という鎧(よろい)』そのギャップの中で、本当に苦しいのでしょうね。やはり彼女を応援するのは、外側にいる私たちしかいないんだろうなと思うので、何か力になれるよう運動も含めて、やれるなら回りの僕らが彼女を助けなきゃ、応援しなきゃと思いました。

今もPTSDに苦しんでいる中で、「検事としての鎧(よろい)を着て」という言葉もあった。

浜田敬子さん:例えば法律のことを聞いた時には、法律のプロとして理路整然と話されるんですけれども、ご自身の気持ちとか事件のことをお聞きすると、本当にポロポロ涙を流されるんです。もう事件から5年ぐらいたっているんですけども、それでもやっぱり本当につらいことを体験されて、それが今でもやっぱり感情として出てくるんだなということが改めて思いました。

浜田敬子さん:やっぱり時間がたってもそれは薄れることがない。一方で彼女はその経験を生かして講習の資料を作っているんです。プロフェッショナルとしての自分の使命感を持っている。ここがすごく印象的だったんです。

浜田敬子さん:自身が検事として事件に関わっている時に分からなかったことがある。例えば証拠を残しておかなきゃいけないというんですけど、ご自身はシャワーで洗い流しちゃっているわけです。当事者になったらやっぱりできないんだと。それを理解してあげるのは捜査する側なんだということで、警察や検察の方に講習を重ねているんです。私はその話を初めて聞いたので、とてもプロ意識を感じました。

■「使命感と精神的なつらさ…非常に葛藤しているのではないか」

浜田さんが取材する中で、女性検事が一番訴えたいことというのは、どういうことだったのだろうか。

浜田敬子さん:もちろん事件のことについてもそうなんですけど、それ以降の職場における二次被害のこと、さらに検察における再発防止策を作ってほしいということだと思います。

浜田敬子さん:彼女が復職する職場で、彼女が告発している副検事と一緒の職場になるわけです。それは普通の企業だったらものすごい配慮することなんです。例えばハラスメントを受けた人が、ハラスメントした人と同じ職場にならないようにするという、安全配慮義務が職場にあると言われていますが、そういったことがなぜなされなかったのか。 (※被害を訴える女性検事は同僚の副検事から「虚偽告訴」など誹謗中傷され、捜査妨害が疑われる行為があったと主張している)

浜田敬子さん:さらに、例えばいろんな暴力を受けたり、ハラスメントを受けた時に訴える機関が、外部じゃなくて内部にしかない。これは非常に問題が大きいなと思いました。

関西テレビ 吉原功兼キャスター:女性検事の方は、『検事に戻りたい』という思いをおっしゃっていましたけれども、PTSDにも苦しんでいらっしゃいます。そして裁判もこれから長い戦いになると思います。私は話を聞いていて、これからの女性検事の方の精神面が大変心配になりました。

浜田敬子さん:私は最初の会見の後にずっと、性暴力の被害者を支援していたり一緒に戦っている弁護士の方とかに取材をしました。その方たちが言うには、性暴力に遭ってる女性たちにとって、彼女のような検事は『希望なんだ』と。性暴力被害というのは非常に立証が困難で、有罪にもって行くまで非常に難しいんだと。彼女のように使命感を持って、捜査手法も突き詰めている人というのは、本当に一人でも多くいて欲しいっと言われた。

浜田敬子さん:その言葉をそのまま伝えたんです。そうしたら彼女は、『ありがとうございます』と言いながらも、そこで涙ぐまれて、やはり使命感と自分の精神的なつらさで、非常に葛藤していらっしゃるんじゃないかなと感じました。

(関西テレビ「newsランナー」 2025年1月8日放送)

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。