2024年のプロ野球、セ・リーグは巨人が4年ぶりに優勝し、パ・リーグはソフトバンクが4年ぶりに制覇、日本シリーズでは、リーグ3位から勝ち上がったDeNAが26年ぶりに日本一の栄冠を勝ち取った。
フジテレビ系列12球団担当記者が、そんな2024年シーズンを独自の目線で球団別に振り返り、来たる2025年シーズンを展望する。
第7弾は、福岡ソフトバンクホークス。

正捕手・甲斐がFA移籍

FAで巨人に移籍した甲斐拓也
FAで巨人に移籍した甲斐拓也
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4年ぶりにパ・リーグを制したホークスが、転換期を迎えることになった。

甲斐拓也:
「今回、新たな経験をすることで野球選手としての自分をもっと高めたいという心境に至り、移籍することを決めました」

FAで巨人に移籍した甲斐拓也
FAで巨人に移籍した甲斐拓也

2017年から8年続けて100試合以上、扇の要を守り続けたてきた甲斐拓也(32)が国内FA権を行使して巨人移籍を決断した。レギュラー獲得後、チームを4度日本一に導き、侍ジャパンの常連にもなった正捕手は、まさに替えのきかない存在だった。

小久保監督が求めた「プロフェッショナル」

小久保裕紀監督
小久保裕紀監督

常勝軍団再建へ―。2軍を2年間率いた小久保裕紀監督(53)が、2024年に満を持して1軍監督に就任した。
その指揮官が開幕戦で選手、スタッフを集めたミーティングで訴えかけたのは、プロフェッショナルとしてのあり方だった。

小久保裕紀監督:
「目の前の仕事に対して、情熱を燃やして誇りとプライドを懸けて自分の仕事をやり抜くということと、替えのきかない人材になること。替えのきかない人材がそろうと、我々がうたうパ・リーグ優勝、日本一に繋がる」

その言葉でスイッチが入ったチームは、開幕直後から柳田悠岐(36)、山川穂高(33)、近藤健介(31)の強力クリーンアップが機能する。

勢いを加速させたのは4月27日からの西武3連戦(みずほPayPayドーム)。2試合続けてサヨナラ勝ちを収めると、同29日の3戦目は2点ビハインドの場面で柳田が逆転サヨナラ3ランを放ち球団では63年ぶりとなる3戦連続の劇勝を飾った。
この時には早くも、パ・リーグの首位が定位置になっていた。

一方でシーズン序盤、捕手のスタメンは甲斐1人が務めるのではなく、定期的に5年目の海野隆司(27)が起用された。甲斐の負担軽減とともに、次なる捕手の台頭を求めるチームの意志もにじんでいた。

盤石のチーム運びをする中で、5月31日の広島戦(同)で柳田が右太もも裏を負傷し長期離脱を余儀なくされた。
その翌日、小久保監督は開幕戦以来に選手を集め言葉に熱を込めた。

小久保裕紀監督:
「柳田の穴を埋めようとは考えなくていい。個々がプロフェッショナルとして、替えのきかない選手になりなさい」。

主砲が戦列を離れながらも、チームは6月11日のヤクルト戦(同)まで、主催ゲームで13連勝をマークするなど圧倒的な力を見せつけた。

4年ぶりにパ・リーグを制したホークス
4年ぶりにパ・リーグを制したホークス

終わってみれば、最長の連敗は「4」で、それも一度きり。
9月23日のオリックス戦(京セラドーム大阪)で宙を舞った小久保監督は、新人監督としては歴代最多の91勝を積み上げた。

しかし、日本シリーズではDeNAに2連勝した後に4連敗を喫し、日本一を逃した。
日本シリーズでの敗退を初めて経験した甲斐は横浜スタジアムを後にする際、多くの報道陣に囲まれながら「負けて悔しいの一言です」と絞り出した。
激戦を終えた後、申請期日が迫った11月13日に「自分の野球人生においてもこのタイミングだけだと思っていた」と国内FA権を行使した。

国内FA権を行使した甲斐拓也(11月13日)
国内FA権を行使した甲斐拓也(11月13日)

2010年の育成ドラフト6位でホークスに入団した甲斐は、肩の強さには自信を持ち「誰かが見てくれているはず」とイニング間の二塁送球も常に全力で投げ続けていた。
2018年の日本シリーズで最高殊勲選手に選ばれ一躍「甲斐キャノン」を全国区にすると、これまで3度のベストナイン、7度のゴールデン・グラブ賞に輝いた。
不動の正捕手はターニングポイントを迎え、1カ月以上悩み抜いた末に新天地を選んだ。ホークスが3軍制を導入した初年度に育成選手としてからサクセスロードを駆け上がった「モデルケース」の流失は球団としても痛手になった。

「ポスト甲斐」のダークホースは育成捕手

リーグ連覇を目指すチームとして来季は、甲斐の穴をいかにして埋めるかが最大のテーマになる。

海野隆司(左)と谷川原健太(右)
海野隆司(左)と谷川原健太(右)

こうした事態を見越した上で、海野は自己最多の51試合に出場し、2024年から捕手専念となった谷川原健太(27)は2軍の主戦捕手として起用された。

渡邉陸(左)と盛島稜大(右)
渡邉陸(左)と盛島稜大(右)

ベテランとなる嶺井博希(33)や、育成出身の大型捕手・渡邉陸(24)、さらに状況次第では城島健司CBO(48)が「将来的にはメジャーでプレーできるくらい、スケールのでかいキャッチャーになってほしい」と才能にほれ込む育成の盛島稜大(20)にもチャンスが巡る可能性もある。
「育成のホークス」を掲げる球団の腕の見せどころでもある。 

ただ、大きな期待をかけられながらも育成選手が1軍の舞台で活躍するチャンスを手にすることはたやすくない。
ホークスは12球団唯一の4軍制を敷き、育成選手だけでも50人規模の戦力を抱えている。
育成選手は1軍での出場はかなわないのは当然ながら、2軍戦でも1試合で5人までの出場に限られている。支配下登録への道を拓く前に、2軍でアピールする場をつかむための競争もし烈を極める。

このオフは、その過酷さがあらわになることもあった。
激しいサバイバルを勝ち抜き初めて2桁の背番号を背負った仲田慶介(25)、三浦瑞樹(25)が戦力外通告を受けた。2人はホークスから再び育成契約での打診を受けたものの仲田は西武で、三浦は中日で新たなスタートを切る道を選んだ。
また、ドラフトで育成指名した高校生が入団を辞退するケースも生じ球団内外に衝撃を与えた。

つきまとう「常勝」と「育成」の葛藤

「常勝」と「育成」を追い求める球団は補強の手を緩めることもしない。
このオフは、石川柊太(33)も国内FA権を行使してロッテに移籍し先発陣が手薄になる中で、レッドソックス傘下3AからFAになった上沢直之(30)を獲得した。
投打の戦力の充実ぶりは、来季も球界屈指であることに違いない。

こうした状況下において、若手選手はポジションを争うタイミングに巡り合えるかどうかが、キャリアを大きく分かつことも事実だ。
ただ、球団はこれまでも育成選手が支配下登録される条件として「1軍で戦力になると判断し場合」と一貫した基準を示している。プロ野球の世界で生き抜くには、1軍の舞台でいかに実力を発揮できるかが勝負でもある。

育成入団選手として初のメジャーリーガーとなったメッツの千賀滉大(31)が、かつて語っていた言葉が思い出される。

千賀滉大:
「入った時に、このチームで活躍するには日本代表クラスにならないといけないと思った。目標設定が分かりやすかった」

同期入団である甲斐もまた、肩の強さを印象付け第3捕手から出場機会を増やしていった。
「常勝」を宿命づけられた球団で、ポジションをつかみとるには突き抜けるほかない。大舞台でマスクをかぶり続けた絶対的な存在が抜けた今、捕手陣にとってはもちろん、ホークスにとっても大きな分岐点となりそうだ。

(文・鎌田真一郎)

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