冬のひだまりで輝くスタッフの笑顔。
あるキッチンカーを取材すると、「外部と接点のある職場」という障害者雇用の目指す姿が見えてきた。

障害者が調理・接客するキッチンカー

12月、北風が吹く埼玉県戸田市の倉庫街の一角に、障害者が調理と接客をするキッチンカーが営業していた。

「いらっしゃいませ」
接客しているのは知的障害がある男性スタッフ。

調理をする男性スタッフ
調理をする男性スタッフ
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冬の陽光に照らされながら、笑顔で客を出迎える。
客がメニューを見始めると、自然な流れで商品の説明を行っていた。

ここを運営しているのは、JR東日本の特例子会社「JR東日本グリーンパートナーズ」だ。

キッチンカーのある事務所では、10名の障がい者がそれぞれ別の事業を展開し、あわせて45名が働いている。

「自分が成長するために」接客に名乗り出た男性

障がいのある人たちの雇用を促進するなかで気づいたのは、外部との接点の無い職場が多いことだった。

そこで2023年夏から、キッチンカーでの接客を障害者に担ってもらうことにしたのだが、からかわれたり、きつく当たられたりした経験があったり、初対面の人と接することへの抵抗感や不安などから、当初はなかなか手を挙げる人が居なかったという。

キッチンカーで働く男性スタッフ
キッチンカーで働く男性スタッフ

そんなとき、本当はやりたくないが自分が成長するためにやってみる、と1人が名乗り出た。

それが、冒頭に出てきたキッチンカーで働く知的障害があるの男性だった。

男性は「お客様の笑顔を見る時が一番楽しい」とうれしそうに話した。

「本当に接客をやらせてもらってよかった」

この男性が楽しそうに接客する姿を見て、自分にもできるのではないか、と少しずつ輪が広がっていき、今では9名が接客の仕事を担っている。

取材当日に働いていた精神に障害がある若者は、「小さいお子さんからお年寄りまでお客様として来る。良い経験になり本当に接客をやらせてもらってよかったと思います。会社からシフトに入っていない日に働けないかと電話をもらって仕事をしました。そのとき過去最高の売り上げを出したのでうれしかった」と語ってくれた。

地元の食材を使用したスイーツを販売
地元の食材を使用したスイーツを販売

キッチンカーでは、地元産のいちごや芋を使ったスイーツを販売していて、商品開発にも障害者たちのアイディアが活かされている。

メレンゲの作り方でふわふわにする食感を工夫したり、ホイップクリームの量を調整して味にこだわったり、開発の過程にも積極的に携わっている。

売り上げは順調で、ランチタイムの時間帯がピーク。
常連客は女性より男性のほうが多いそうだ。

民間企業の障害者雇用“過去最高”に

厚生労働省東京労働局が12月、障害者雇用状況の集計結果を公表した。

民間企業で雇用されている障害者は、25万1901人(前年比5.3%増)で過去最高となった。

民間企業での障害者雇用は伸びている(イメージ)
民間企業での障害者雇用は伸びている(イメージ)

一方で、法定雇用率が未達成の企業は都内に17369社もあり、このうち障害者を1人も雇用していない企業は9785社だった。

障がい者をサポートする「JR東日本グリーンパートナーズ」の伊藤佳克・総務部長、杉原かおり・創造事業部長、相馬美香・総務部副課長は、「接客することで社会的規範やコミュニケーション能力が高まり、将来の生活にも役に立つ。外の社会と関わりのある環境を作っていくことが、これからの障害者雇用の目指すべき姿だ」と話している。
【取材・執筆:フジテレビ社会部 大塚隆広】

大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局社会部
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長、国際取材部デスクなどを歴任。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。