東京オリンピック・パラリンピックを担当した東京都の職員が、その経験を生かし、2025年11月15日~26日に日本で初めて開催される聴覚障害者オリンピック「東京デフリンピック」の準備を進めている。エンブレム選定におけるトラブルなど、東京オリパラでの苦い経験を踏まえ、無駄なコストをかけないことを目標に、自分たちでスポンサー企業探しなどする職員たちを取材した。

東京大会の経験を糧に

大会のスポンサーや協賛をしてくれる企業を探すために、日々都内各地で営業回りをしている2人の若い男性。

2025年11月に東京都で初めて開催されるデフリンピック準備運営本部の石井正俊さん(39)と新垣文貴(31)さんだ。

東京都の職員として東京オリンピック・パラリンピックを担当、その経験がかわれて聴覚障害者のオリンピック「東京デフリンピック」の運営を担当することになった。

2人が目指すのはコスト。
都民の大切なお金はなるべく使わず自分たちでできることは自分たちでやる、というものだ。

東京五輪では、コロナ禍での開催にもかかわらず頑張ったと評価される一方、費用面やエンブレムの選定などで度重なるトラブルが発生した。

この苦い経験を活かし、デフリンピックではスポンサーや協賛企業、支援してくれる団体やボランティア全員に迷惑をかけない大会にすることが2人の目標だ。

全てが自前…涙がこぼれる時も

スポンサー企業探しも自分たちでやっていて代理店などを通さないため、協賛金は100%大会のために使われる。

慣れない飛び込み営業だが、着実に成果をあげているという。
現在17社(12月16日時点)が協賛契約を締結しており、スポーツ備品、飲料水など大会で使用する物品についても支援の輪が広がっている。

「お金や物品を無償で提供してくれるのに、頑張ってください、お声がけありがとうございます、と言われ、涙が自然にこぼれ落ちるときがある」と石井さんは語る。

東京2025デフリンピック開幕まで1年セレモニー で発表されたメダルデザイン
東京2025デフリンピック開幕まで1年セレモニー で発表されたメダルデザイン
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大会をPRするイベントも、自分でできることは全部自前。
進行台本や、司会進行、準備作業などはすべて職員で対応した。

大会エンブレムにも”手作り感”

東京大会で問題が起きたエンブレムについては、都庁の担当部局が石井さんたちと同様、手作り感のある形での製作を実現させた。

担当したのは西口彩乃広報戦略課長と金澤聖訓大会広報担当課長。

エンブレムは、特別なデザイナーに発注せず、筑波技術大学の耳の聞こえない学生がデザインし、都内の中高生による投票で決定した。

そうすることで当事者、こどもたちにかかわってもらう機会、接点を増やすことを意識した。

また、キックオフイベントや途中の制作過程もメディアオープンとすることで、エンブレム完成までの過程の広報も大切にした。

現地の茨城県庁までいき、現地の記者にも取材を呼び掛けた。

デフリンピックに向けたSNSアカウントの開設も外部に発注せず、職員の日々の投稿を綴り、現在、フォロアー数が1万人を超えている。

大会本番に向け続く奮闘

しかし、大会開催にむけては不安も残る。

大会に必要な計画額は約130億円とされているが、物価や人件費高騰でどれくらい上がるのか。

また、2023年10月の調査では14.8%だった大会の認知度が、代理店を使わない広報で、どれくらいの成果が出ているのか。

応援アンバサダーの3人(左から元陸上競技選手の朝原宣治さん、川俣郁美さん、俳優の長濱ねるさん)
応援アンバサダーの3人(左から元陸上競技選手の朝原宣治さん、川俣郁美さん、俳優の長濱ねるさん)

2025年11月15日~26日の大会本番にむけ東京都の職員たちの奮闘が続く。

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大塚隆広
大塚隆広

フジテレビ報道局社会部
1995年フジテレビ入社。カメラマン、社会部記者として都庁を2年、国土交通省を計8年間担当。ベルリン支局長、国際取材部デスクなどを歴任。
ドキュメントシリーズ『環境クライシス』を企画・プロデュースも継続。第1弾の2017年「環境クライシス〜沈みゆく大陸の環境難民〜」は同年のCOP23(ドイツ・ボン)で上映。2022年には「第64次 南極地域観測隊」に同行し南極大陸に132日間滞在し取材を行う。