速報になぜかホッとした
安倍首相の通院以来、僕は放送で「このままでは石破氏が次期首相になる。安倍氏は石破氏にはしたくないので菅官房長官を総裁選に出す。ただし本人は嫌がっている」と言い続けていたのだがその予測は半分当たり半分外れた。
8/28(金)の14時過ぎ、「グッディ」という情報番組に出ていたら「ピコーンピコーン」というニュース速報の音がした。「来たか」と思って画面を見ると「安倍首相退陣の意向」という速報スーパーが出た。なぜかホッとした。前日まで病状報道が続き、正直気が滅入っていた。退陣と聞いて「ああこれでもう安倍さんは苦しまないな」と思ったのだ。
3時間後の会見の最後に安倍氏は「国民の皆様、8年近くにわたり本当にありがとうございました」と言ってペコリと頭を下げた。「安倍さんキレイに辞めたな」と思った。

退陣表明からわずか3日後に勝敗は決した
その翌日行われた共同通信の世論調査で内閣支持率が20Pも跳ね上がった。退陣表明した首相の支持率がこれほど上昇したのは初めてだ。この数字が出たのが8/30(日)の夜。その数時間前に「菅官房長官が総裁選に出馬の意向」という速報が出た。
この「菅出馬」と「支持率20Pアップ」で安倍退陣後の政局はほぼ大勢を決した。翌8/31(月)の夜に細田、麻生両派が相次いで菅支持を表明。麻生派の河野太郎防衛相は出馬を取りやめ、竹下派も菅支持に動き、結局首相の退陣表明から3日後に事実上すべてが終わった。

安倍氏は辞めるに当たって菅氏を後継指名し、麻生氏の了解も得たのだろうか。たぶん違うだろう。菅氏は再び病に倒れた安倍氏の後は自分でやるしかないと決め、安倍、麻生両氏の了解を取らずに出馬を決めたのではないか。
唯一、二階幹事長にだけは相談し、二階氏は支持を約束した。ただ菅氏も二階氏も安倍氏と麻生氏が支持してくれることは確信していた。
安倍、麻生、菅の不思議な友情
2012年に安倍氏が総裁に2度目の挑戦をした時、麻生氏は昭恵夫人とともに安倍氏の健康を心配して出馬に反対したが、菅氏は「勝てるから出ろ」と安倍氏にハッパをかけた。結果的に菅氏は安倍氏に2度目の首相をやらせ、「政権を投げ出した」と批判されていた安倍氏の名誉を回復させたが、一方で今回、「俺が安倍をもう一回首相にしなければ病の再発もなかった」と悔やんだはずだ。
だから菅氏は安倍退陣を聞いた時に、跡を継ごうと決断したのだろう。

安倍氏を弟のように思っている麻生氏は、2012年には「まだ早い、あわてるな」と安倍氏を止め、今回は「治療しながら続けられるんじゃないか」と翻意を促したという。麻生さんはああ見えて優しい人なのだ。
日曜に菅氏が決断し、支持率が20P上がったところで勝負は決まった。菅氏の決断を安倍、麻生両氏が受け入れ、自民は「菅後継」を歓迎した。野党はせっかく合流したのに、「嫌な人が首相になる」と警戒心を持ったはずだ。
安倍、麻生、菅。この3人の不思議な友情により、危機の権力委譲はすみやかに行われたのだ。
【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】