大学と不動産会社がタッグを組み、若者のアイデアを取り入れた住宅リノベーションが長崎市で行われた。学生が描いた「理想の部屋」が完成するまでを追った。
キッチン付き7畳の部屋をリフォーム
8月、長崎市の不動産会社である会議が行われた。
この記事の画像(17枚)テーブルには図面やパース。「20代が住みたくなる部屋」をテーマに「キッチン付きの7畳の部屋」を学生たちの提案をもとに、リノベーションが進められるのだ。
活水女子大学生活デザイン学科の「インテリアコーディート」の授業の一環で、大学と産学官連携を締結したABC不動産の協力で進められた。
学生は自分たちの設計が形になるまでを体感し、不動産会社は若い世代の理想とする部屋を知ることができる。
学生は「木を多く使ってぬくもりのある部屋の空間を作りたい」「狭いながらも収納を多くして機能的にできれば」と、それぞれの理想の部屋を設計した。
「秘密基地」の空間がある部屋
授業では、学生たちが賃貸マンションの一室のリノベーション案を考え、24の案が提案された。
常識にとらわれない、若者らしい自由な部屋の使い方、一方で細かいところまでこだわったデザイン性の高い案が揃った。
マンションのオーナーも参加して、1時間かけてようやく1つのデザインが選ばれた。実際に手掛けるのは、岩尾来夢さん(21)のリノベーション案だ。
クローゼットをなくし、曲線の壁で仕切られた秘密基地のような部屋を作るという、大胆な間取りの変更と、照明など細かい配置までの気遣いが高く評価された。
9月からリノベーション工事が始まり、岩尾さんも現場に立ち会った。設計や照明・壁紙の選定は終わっているが、現場では日々細かい確認が行われた。理想の部屋が着々と形になっていく様子に、岩尾さんは興奮気味だ。
岩尾さんにとってこだわりの空間は、幼少期の経験からヒントを得たものだった。
岩尾来夢さん:
もともと幼少期に好きなことに熱中しているときに、母から「片付けなさい」とか「ご飯だよ」と言われて夢中の瞬間を途切れることがあり、それが嫌だった。好きに夢中になれる空間が作れてよかった。
現場では岩尾さんも特別に作業の一部を担当させてもらった。壁紙をきれいに貼るために釘の穴や石こうボードの隙間をパテで埋めていく作業だ。没頭すること約2時間。「作るところにもより興味を持った」と、授業での学びやパソコン上で作りだされたグラフィック画面とはまた違う感覚があった。
「ワクワクな瞬間をみつけられる部屋」が完成
10月下旬に部屋が完成した。
ワンルームを壁で仕切ったことによる圧迫感を軽減するために、部屋は開放感のある白に統一。フローリングも少しでも広く見えるよう板の貼り方を縦にした。
トイレの壁紙を爽やかな薄い緑色にしてアクセント。
玄関にはアーチ形にくりぬいた棚やかわいい照明で、家に帰った時に思わず「嬉しくなる」気持ちを演出した。
飾り扉の奥が、こだわりの「秘密基地」だ。落ち着ける空間に仕上がった。「自分だけの居場所という空間で大満足。圧迫感なく柔らかい曲線が入ったことで、かわいらしい落ち着きのある印象になった」と笑顔だ。
部屋が散らかっている時はモノを隠せる、人が来た時に「ここなんでしょう」とワクワク感を共有できる、そんな空間になった。
友人たちも見学に訪れ、部屋の開放感やデザインを絶賛。秘密基地の空間を見て「この空間を貸してほしい!」と話していた。
岩尾さんは「自分の好きなことがある人や夢中になれる瞬間がある人に住んでもらったり、夢中になれることがみつかっていなくても、この部屋で自分の思いのままに過ごしてワクワクな瞬間を見つけてほしい」と話す。
不動産会社も大学との連携により、部屋の借り手となる学生のリアルな声を知ることができた。担当者は「インスピレーションはたくさんもらった」と話し、今後のリノベーションに活かせると手ごたえを感じている。
企業と大学が手を結び、取り組んだ「理想の部屋づくり」。大学にとっては学生たちの学びの場として、不動産会社にとっては借り手にもなる学生たちとつながる場、そして何より学生たちが「将来の夢」に近づく場となった。
(テレビ長崎)