週明けに、自民党と公明党の税制調査会は、総会を開いて正式な議論をスタートし、「103万円の壁」引き上げをめぐる本格的な検討に入った。

富裕層への減税を制限する案や、地方税である住民税を分離する案などを含めて検討が行われる見通しだ。
富裕層への減税制限を広げる
給与所得者の場合、年収が、必要経費にあたる給与所得控除(55万円)と基礎控除(48万円)の合計103万円を超えると、所得税がかかり始める。

国民民主党は、この「103万円の壁」を、178万円に引き上げるよう求めていて、基礎控除分で引き上げを行うと、現在の48万円は123万円になる。
一方で、所得税の税率は課税所得が大きいほど高くなる累進税率であることから、基礎控除を引き上げた場合、高所得者ほど減税の恩恵が大きくなるとの指摘が出ていた。
こうしたなか、一定以上の所得がある富裕層について、基礎控除の適用制限を広げる案も含めて、検討される見通しだ。
実は、現在も、基礎控除は、合計所得金額が2400万円を超えると、48万円から32万円へと控除額が縮小し、2450万円を超えると16万円、2500万を超えるとゼロになるしくみとなっていて、高額所得者への適用が制限されている。
この先の議論では、基礎控除が減り始める所得水準を2400万円超から引き下げて、富裕層への減税枠の適用範囲を狭める案などの検討が想定されるが、詳細な制度設計が必要になることから、年末までのとりまとめに向けた時間的制約を指摘する声もある。
所得税と住民税 2つの財布
一方で、自治体トップなどから相次いでいるのが地方の税収減への懸念の声だ。

25日の全国知事会では、地方税収が減少する場合、国が全額を穴埋めするよう政府に求めることを決めた。一時的な財政措置で穴埋めするのではなく、恒久的な財源を確保することも要求する。
基礎控除は、国に納める所得税だけでなく、地方に納める住民税にもあるが、所得税では48万円なのに対し、住民税では43万円だ。
国民民主党の主張に沿って、所得税の基礎控除を48万円から123万円へと75万円分引き上げるのに伴い、住民税の基礎控除も43万円から、所得税と同様に75万円分引き上げた場合、ふたつの税をあわせて7兆から8兆円税収が減る見通しとなる。
このうち、住民税の減収分が4兆円を占めるうえに、所得税収の3分の1が地方交付税として地方に再配分されるしくみになっていることから、地方の減収はあわせて5兆円規模になる。
税金のかかり方もふたつの税で大きく異なる。

所得税では、税金がかかり始める給与年収の壁は「103万円」だが、住民税では、多くの自治体で「100万円」だ。
税率も、所得税が5~45%なのに対し、住民税は一律10%だ。
「住民税分離」案とは
こうしたなか、検討対象になるのが「住民税」を「所得税」とは分離して議論する案だ。
所得税の壁を引き上げたとしても、住民税では引き上げないようにするか、引き上げ幅を少なくすれば、地方の財源が減るのは抑えられる。
一方で、住民税で非課税枠を据え置けば、手取り額の増加は所得税分だけに限られることになる。
第一生命経済研究所が行った、年収400万円世帯のケースでの試算では、所得税と住民税両方の壁が引き上げられた場合、手取りは11.3万円増えるのに対し、住民税を除外すると3.8万円にとどまり、3分の1ほどになってしまう。
税制改正大綱のとりまとめを目指している12月中旬まで3週間ほどだ。
自民・公明両党は、国民民主党との協議を踏まえ、一致点を見いだしたい考えだが、どう折り合いをつけるのか、難しい調整が続くことになる。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)