やはり米大統領選挙は「経済こそが大事なんだ、バカモン!」だったようだ。
トランプ前大統領が歴史的なカムバックを果たした今回の大統領選挙、大方の予想に反して前大統領が圧勝した原因については「移民流入への反発」「女性候補への抵抗」「治安の悪化」などと分析されているが、主たる原因は毎回同様の問題だったようだ。
米大統領選挙では経済問題訴えるのが“鉄則”
CBSニュースが出口調査で投票の動機を聞いた結果、有権者の3分の2が「経済状態の悪化」を挙げた。また45%の人が4年前にバイデン大統領が就任した当時と比べて暮らしむきが悪くなっていると答え、その80%がドナルド・トランプに投票したと明らかにした。
この記事の画像(5枚)「何が起きたのか?経済こそが大事だったんだ、バカモン」(CNN6日)
「やはり、経済こそが大事だったんだ、バカモン」(デイリービースト6日)
「“経済こそが大事なんだ、バカモン!”トランプを選挙で勝利させた訴え」(スカイニュース6日)
選挙結果を受けて、多くのマスコミが揃ってこういう見出しの記事を掲載した。
「経済が大事なんだ、バカモン!(It's the economy, stupid!)」というのは、米国の大統領選挙の訴えの鉄則とも言われる言い回しだ。1992年に現職のジョージ・H・W・ブッシュ大統領に対して民主党のビル・クリントン知事(アーカンソー州)が挑戦した時に、選挙参謀のジェームズ・カービル氏が選挙事務所にこう書いた貼り紙を掲げたとされる。
当時ブッシュ大統領は、冷戦を終結させたり湾岸戦争を勝利に導く功績を上げる一方で、経済政策の取り組みを誤って景気後退を招いていた。そこでカービル氏は、選挙運動を経済問題に絞ってブッシュ大統領を批判する作戦を展開して、クリントン知事の当選を果たした。
以来、大統領選挙では経済問題を訴えることが鉄則のようになったもので、今回の選挙でもトランプ陣営はこの言い回しを忘れなかった。
「(バイデン・ハリス政権が始まった)4年前と比べて生活は良くなったかい?」
トランプ前大統領が集会で聴衆にこう訊くと「ノー」という大合唱が返ってくる。
「そうだろう。ハリスはこの4年間何もしないで食品は値上がりするわ、ガソリン代は上がるわ、住宅ローンも払えないようなことになった。私が大統領になったら、全部安くする」
トランプ集会はこのやり取りで盛り上がった。
ハリス陣営は経済問題に対応できず
実はこの4年間、マクロ経済は決して悪化していたわけではなかった。インフレ率は下がり、株価は高騰し、失業率は改善されていた。ハリス選対も「経済は決して悪くはない」と訴えたが、現実にスーパーで鶏卵1ダースが3ドル82セント(約573円)マクドナルドのビッグマックが5ドル29セント(約850円)レギュラーガソリン1ガロン(3.785リットル)が3ドル10セント(約465円)という物価は、米国の基準から見て決して「安くなった」とは言えない。
「有権者は小切手帳と相談しながら投票する」とよく言われるように、米国の有権者の多くは、経済と言っても身近な問題でバイデン・ハリス政権の政策に対する評価を下していたようだ。
そこでハリス政権は、住宅を初めて取得する人に2万5000ドル(約375万円)の頭金を補助するという公約を提示した。若い世代へのアピールもあったようだが、これには既に住宅を購入した人たちから「私の税金を新規購入者に使うのは不公平だ」と反発が出て、この公約は立ち消えになってしまった。
結局ハリス陣営は、トランプ前大統領を「独裁者」「現代のヒトラー」「民主主義の崩壊者」と攻撃することで選挙を戦わざるを得なかったが、その結果が今回の大差の敗北につながったとも言えそうだ。
「民主党エリートたちは完全に国民から遊離」
ハワイ選出の下院議員で民主党から大統領選挙にも出馬し、その後離党したトゥルシー・ギャバードさんは6日、FOXニュースに出演してこう言った。
「民主党のエリートたちは、いま偉大な景気回復にあるのに、なぜ国民が理解せず感謝しないだろうと思っています。完全に国民から遊離しているのです。この4年間の国民の苦労を理解していないのです。彼らは象牙の塔にこもってケーキを食べて国民を見下し『何で騒いでいるのかわからない』と言っているのです。一方、トランプ(前)大統領は現場に出て国民の声に耳を傾け『必ず改善する』と約束しました。国民は彼の言葉を信じたのです」
「経済こそが大事なのだ、バカモン!」を忘れたことが、ハリス副大統領の最大の敗因だったようだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】