「守り伝えたい」「でも人がいない」。高齢化や人口減少で担い手不足に悩む地域の伝統行事。悩みをサポートする福岡県の「助っ人」たちの活動に密着した。
地域伝統行事お助け隊の登場
福岡・久留米市田主丸に鎮座する柳瀬玉垂命神社。前身の創建は鎌倉時代ともいわれるほど古い歴史ある神社だ。「ぐるぐる回ってください。腰をちょっとひっぱりながら」と指導する声が飛ぶ。2024年10月中旬、地域の伝統行事が開催されるため併設された公民館では、これまで着たことのない伝統的な衣装に着替えた「地域伝統行事お助け隊」のメンバー3人が、この地域に古くから伝わる伝統行事「柳瀬おくんち獅子舞」に参加するため、獅子舞の動きや祭の流れなど説明を受けていた。
この記事の画像(9枚)初めて身に着けた伝統衣装に「すごく新鮮というか、20数年生きてきて初めての体験なので」と戸惑いながらも笑顔で話す宮原大輝さん(24)。参加者の中で最も若く、少し離れた春日市から参加している。幼い頃は近くの祭りに参加することに喜びを感じていたが、コロナ禍で地域の行事が中止になるなど地元の祭りも減少したため、今回、お助け隊に興味を持ったという。
福岡県が2023年8月から始めた地域伝統行事お助け隊は、担い手不足などの課題を抱えている県内市町村の伝統行事にボランティアを派遣する取り組み。15歳以上から登録できるボランティアには現在(2024年9月末)、281人が登録している。派遣先は、国や自治体が無形民俗文化財としている伝統行事などで、各自治体が今後も継続することが必要だと認める地域の祭りなどが対象となっている。
人口減少で伝統行事の存続危機
お助け隊は、これまでに田川市などで11件の伝統行事を手伝ってきた実績がある。今回、派遣された久留米市田主丸の八幡地域の伝統行事「柳瀬おくんち獅子舞」もかつては50人以上いた舞手が現在は20人ほどに減少。ここ最近はコロナ禍で中止が続いたこともあり一層、人手不足に悩まされている。
柳瀬おくんち獅子舞 保存会の永松利一会長は、「どうしても人手が足らないということで、お助け隊の方にお願いしたんですよね」と“助っ人”たちに大きな期待を寄せていた。
いよいよ祭り本番。神社でお祓いの後、雄と雌の獅子を担ぎ出発した男たち。獅子頭を打ち鳴らしながら町内にある40軒以上の家を1軒ずつ回っていく。
柳瀬おくんち獅子舞は、江戸時代末期に始まったとされる祭りで久留米市の無形民俗文化財に指定されている。家内安全や無病息災を願い玄関先で、掛け声とともに獅子の打ち込みをするほか結婚や出産などの祝い事があった家では舞を披露する。
雌雄一対の獅子頭は木製で漆塗り。胴はシュロ皮で編んだ蓑で作られ、広げると全長約4メートル、幅2.5メートルの大きさ。総重量は20キロ近くとなる。獅子舞は、1人が頭を、もう1人が胴と尻尾を操る。尻尾が振られ、あたかも生きているような舞い方をするのが特徴だ。
「お助け隊」の獅子が練り歩く
宮原さんも獅子頭を打ち鳴らしながら町内を練り歩く。総重量約20キロにも及ぶ獅子がずっしりと重くのしかかる。普段、使わない筋肉を使うせいか、宮原さんは序盤で腕が疲れてきたという。しかし、行く先々で地域の人たちの喜ぶ顔を目にすると疲れも吹き飛んだと宮原さんは笑う。見守った地域の人は「昔は賑やかにやっていたんですけど、だんだん人も少なくなって若い人がいなくなるから…今年はよかった」と助っ人たちを労った。
訪問先での舞を終え、神社に戻った助っ人たち。夕日が沈み、夜が訪れる頃、「坪舞」と呼ばれる舞を神社に奉納して祭りはフィナーレを迎える。境内で最後の打ち込みが行われ今年の「柳瀬おくんち獅子舞」が無事、終了した。
お助け隊として参加した宮原さんは「貴重な経験ができました」と充実の表情だった。保存会の永松会長も「助かりました、来年もまた来てもらいたいです」と祭りの存続に大きな期待を寄せていた。
人口減少や高齢化が進む日本。地域の伝統行事継承は一層難しくなるのは明らかだ。今後もお助け隊の活動が、地域を支える、まさに“一助”となる。
(テレビ西日本)