バイデン氏が指名受諾演説「ともに団結を」
11月のアメリカ大統領選で政権奪還を目指す野党・民主党の全国党大会が終了した。
3度目の挑戦にして大統領候補の指名を獲得し、30年越しの悲願をひとまず達成した77歳のバイデン氏。地元デラウェア州ウィルミントンからオンラインで行った指名受諾演説では、「党派で対立する時ではない。ともに団結すべき時が来た」と結束を呼びかけた。
また、「トランプ大統領は闇でアメリカを覆い尽くした。あまりにひどい恐怖や分断を招いた」と対決姿勢を鮮明にし、最優先課題として新型コロナウイルス、人種差別、悪化した経済の立て直しに取り組む考えを示した。外交面では、「同盟国と協力する大統領になる」とも強調、トランプ大統領との違いを強調した。はれて“相棒”となった副大統領候補、カマラ・ハリス氏にも言及し、「私は一人ではない。彼女はアメリカを体現している」と多様性をアピールすることも忘れなかった。
この記事の画像(5枚)通常、“最大の見せ場”となる指名受諾の党大会後には、「党大会効果」で、支持率が急浮上する。史上初のオンライン開催となった今回、党大会の初日の視聴率は前回に比べ大幅に下落した。4日間の大会の総合的な評価は今後の世論調査で明らかにされるが、大統領選の大きな節目となる今回の演説は、有権者にどのように受け止められたのか。
FOXニュースもバイデン氏演説を評価
トランプ大統領への批判を強めるCNNは「バイデン氏がこれまでに行った中で最高のスピーチとなった。拍手喝采を得るためのものではなく、大統領による演説そのものだった」と絶賛。三大ネットワークのNBCは「この演説で、トランプ大統領がなぜバイデン氏を恐れるのかがわかったはずだ」と指摘した。
トランプ大統領に好意的な姿勢を示すことが多いFOXニュースも「非常に効果的な演説だった」と評価した。この評価は他のメディアで、「あのFOXニュースですらバイデン氏の演説を絶賛した」と伝えられた。
一方、自らの半生を織り交ぜながら、舌鋒鋭くトランプ大統領を批判したハリス氏の指名受諾演説も「希望と共感を与えた」と好評価を得ている。米調査会社によると、ハリス氏が演説した党大会3日目をテレビで視聴した人の数は推計2280万人で、初日と2日目を上回ったという。
“静かな熱狂”が新潮流に?「打倒トランプ」への課題
当初、民主党全国大会は「熱狂なきバーチャル党大会」と揶揄された。実際、デラウェア州の演説会場周辺では、民主党支持者が結集することはなく、肌で熱気を感じることはできなかった。代わりに見られたのは、声高にバイデン・ハリス両氏を非難するトランプ支持者の集団だけだった。
しかし、この“熱気のなさ”について、民主党支持者は「今は集まらないことこそが民主党らしさだ。科学を信じ、マスクを着用し、他人との距離を維持する。それが熱気のなさだというのなら間違っている」と語る。“静かな熱狂”こそが、民主党らしさだというのだ
また、バーチャル党大会はオンラインを駆使することで、より内容や発言時間を管理しやすくなり、徹底して大統領候補を売り出すことが可能になった、との見方も出ている。今後、これが新たなスタンダードになるとの指摘もある。
ただ、政権奪還に向けては、課題も多い。
これまでバイデン氏は、敵失を待つ「ステルス戦略」で支持を伸ばしてきた。国民の間で広く親しまれる「ジョーおじさん」を嫌う人は少ない。反面、カリスマ性が感じられないことから熱烈な支持者は多くない。「反トランプだから」といった消去法的な理由での支持が多いのが実情だ。
党内も一枚岩ではない。中道派・バイデン氏と中道左派・ハリス氏の組み合わせに、急進左派の間では不満がくすぶる。
頼れる“相棒”ハリス氏、いまだ絶大な人気を誇るオバマ前大統領、ミシェル夫人・・・77歳の最長老格の周りには、強力な味方も多い。しかし、課題の解消には、バイデン氏自身がリーダーとしての存在感をさらに高めることが不可欠だ。“静かな熱狂”を“勝利の歓喜”につなげることができるのか。まずはトランプ大統領との「一騎打ち」の場となる10月の討論会で、その真価が問われることになる。
【執筆:FNNワシントン支局 瀬島隆太郎】