世界的観光地・京都の交通がいま危機に瀕している。市バスの運転手不足により、初めて「非常事態宣言」を出した。
いったい何があったのか。取材すると背景にある、京都市特有の事情が見えてきた。
■「市バス運転手不足 非常事態宣言」が発表された バス運転手が50人足りない!
この記事の画像(9枚)京都市交通局が突然発表した、前代未聞の事態。
「市バス運転手不足 非常事態宣言」
京都市交通局によると、市バスの継続的なダイヤの運行には、880人の運転手が必要だということだが、9月1日の時点で、50人不足しているというのだ。
今後も早期退職などが予定されていて、さらなる人員不足が懸念されたため、市は7月に追加採用の募集をした。
しかし70人の募集に対して応募者は47人。
現在は休日出勤するなどして運行を続けているが、人不足が改善しなければ、現在のダイヤの維持は困難で、減便などを検討せざるを得ないという。
このような状況に市民は…。
京都市民:増やしてほしいぐらいだけど、運転手いないと増やせないでしょうしね。困りますね。
京都市民:バスがないと生活が成り立たないのがこの地域。その辺を京都市が改善してほしい。
■バス会社が直面する課題「運転手の高齢化」「人手不足」 バス業界関係者は「自治体の方が、民間より給料がいい」
なぜこのような状況に陥っているのか。
先週末行われた、民間バス事業者むけの就職イベントを取材すると、その原因の一端が見えてきた。
京阪バス担当者:慢性的な人不足、当社に限らずですが、高年齢化になっている。バスドライバーの働き方改革の中で輪をかけて、人が不足しているというところで、何回か減便などしている。
京阪バス担当者:年齢層高め。若手の方で『なり手不足』というのもある。
民間バス事業者が口をそろえて訴えたのは、「運転手の高齢化」と「人手不足」。
それを物語るデータがある。バスを運転するのに必要な大型二種免許の保有者数は、毎年、およそ2万人ずつ減少。免許保有者の年齢構成も、60歳台以上がおよそ60%となっていて、深刻な状況だ。
■「民間より自治体運営バスの方が高給与」と関係者
その一方でバス業界に詳しい関係者からは、こんな声も聞かれた。
バス業界関係者:自治体が運航するバスの方が、民間より給料がいい。民間は人の取り合いで負けてしまう。
給与面でアドバンテージがある自治体のバスは、ドライバー集めに有利だというのだ。
確かに、京都市が公開している資料によると、京都市バスの運転手の平均月収がおよそ50万円なのに対し、民間では40万ほどと10万円の開きがある。
■京都市バス人手不足 理由は特有の「道細く難しい運転」「観光客の増加」
ではいったいなぜ、京都市バスは人手不足になったのか。
関西テレビは現役の市バス運転手を独自に取材。すると京都市ならではの複雑な背景が見えてきた。
京都市バスの運転手:勤務に給料が見合ってないとみんな言っています。
京都市バスの運転手:離職率があまりにも高すぎる。道も細くて、路上駐車も多くて、外国人観光客も多い。
京都市は昔からの細い道や交差点が多いため、ダイヤ通りにバスを運行させるのは、非常に高い運転技術が求められるという。
さらに観光客向けの特急バスが増便。
一方で、京都は市民の移動手段としてバスの占める割合が大きいため、減便することも出来ず、結果として運転手の負担が大きくなっている背景があるようだ。
■人不足も「減便難しい」
この状況を京都市はどう捉えているのだろうか…。
京都市交通局運輸課 小寺一郎課長:年々(人手不足が)厳しくなっているなという認識はありましたし、今回急激に人不足が市バスにも影響が出てきているなと感じています。危機的な状況というのを、ご理解いただきたく必要がある。ダイヤを簡単に減らすとなりますと、市民の生活にも非常に大きな影響が出るし、観光のお客さまの利用も多いため、なかなか簡単に減便ということは難しい。
しかし、公共交通の経営に詳しい専門家は、ドライバー不足がこのまま続くと、私たちの生活に直結する影響が出ると話す。
立命館大学経営学部 近藤宏一教授:今ででさえ混雑ひどいのに、積み残しが毎日出るとか、そういうような事態が起こってくるのが、そう遠くない将来、十分あり得る状況。
(業界全体でいうと)労働条件の悪いところから嫌われる。始発から終バスまであり、シフト制で勤務が不規則。早朝深夜にわたる勤務もある。お客さんの対応も大変。ある地方のバス会社は、『うちはバスマニアしか来てくれません』と言っています。
京都市は緊急措置として、10月上旬から大型二種免許を所有していない人を約70人、大型2種免許所有者を5人程度募るということだ。
■全国で進むバス運転手不足 専門家は「国の税金の投入も必要」
京都市バスは「非常事態宣言」を出したが、バス運転手の不足は京都だけでなく、全国で起きていて、路線の減便が相次いでいる。
全国のバス運転手不足について、日本バス協会によると、今年度は2万1000人が不足していて、2030年には3万6000人不足すると試算されている。
路線バスを維持するにはどうしたらいいのか、交通システムに詳しい立命館大学の近藤教授によると、「給与や労働時間の改善だけでなく、キャッシュレス化や自動翻訳機の導入など、業務負担の軽減も必要。さらに、運賃で採算をとるのではなく、国が税金を投入も必要なのではないか」と指摘する。
そこに暮らす人たちにとって重要な交通インフラをどう維持するのか、対策が求められている。
(関西テレビ「newsランナー」2024年9月30日放送)