赤ちゃんの産声がアートに?
赤ちゃんが生まれた時にあげる泣き声を、生け花のような映像で表現する一風変わったアートプロジェクトが立ち上がっている。
まずは、その映像を見ていただこう。
赤ちゃんの産声に合わせて色とりどりの絵の具が弾ける様子が生命の躍動感を感じさせる。
音の振動を絵の具などに伝え、これに反応して動く様子をカメラで撮影すると、このように生け花のようなアートとなる。
「ubugoe by sound of ikebana」と呼ばれるもので、京都大学の大学院で「アートイノベーション産学共同講座」の特定教授でアーティストの土佐尚子さんが、足立病院(京都市)の協力のもと、制作したものだ。
そもそもこれまで土佐教授が創り出してきたのが「サウンドオブ生け花」。
これは、鮮やかな色彩の絵の具・オイルなどの粘性液体に音の振動を与えることによって、各種の色が融合しつつ飛び上がる様を、2000フレーム/秒の高速度カメラで撮影したビデオアートだ。
そして今回、産声の振動を表現した映像と赤ちゃんの映像とを組み合わせたものが、「ubugoe by sound of ikebana」。このプロジェクトは、このような趣旨で行われている。
・コロナ禍で暗いニュースの多い世の中、医療業界に明るいニュースを届ける。
・コロナ禍で不安を抱える親御様へ新しい出産の記念の形を提案する。
・アート&テクノロジー学の社会への適用:つまりアートイノベーションの社会実装をする。
現在、足立病院では、30人の産声を収集しており、足立病院の理事長・畑山博さんはこのプロジェクトについてこのように話している。
「この話をいただいた時は、面白いなと思いました。実際、制作した映像を見ると、迫力があってすごい」
「へその緒を残すことはあるけど、これは、みんなに見せられる。赤ちゃんが成長し、人生につまずいた時などにこれを見ることでエネルギーを取り戻せるのでは」
また、今回協力した親の反応についても理事長に聞くと…
「皆さん、見るとびっくりします。」「感動しています」ということだ。
とても興味深い試みだが、そんな「ubugoe by sound of ikebana」はなぜ生まれたのか? どのようにして制作しているのか? 京都大学の教授でアーティストの土佐尚子さんに詳しく話を聞いてみた。
音の振動で飛び上がる絵の具の様子を撮影
――なぜ赤ちゃんの声でやろうと思った?
きっかけは、フジテレビの「ホンマでっか!?TV」でブラックマヨネーズの吉田さんが「これは、赤ちゃんの声でやったらいいんじゃない?」と言われ、半信半疑で、小児科の友人の赤ちゃんの声でやってみました。
すると結構ウケて、産婦人科の理事長とお会いし、理事長が生まれて最初の産声でやった方がよいと助言され、単に赤ちゃんの声でやるだけでなく、生まれで初めての「産声」で行うことにより実施する価値を見出したので、産声で実施することでGoになりました。
――どういう仕組みで、音が生け花のように見える?
スピーカーのコーンの上にゴムを貼り、スピーカーの振動により発生した音の振動で絵の具が飛び上がり、その様子を、1/2000秒のハイスピードカメラで録画し音が生け花のように見えるように、撮影できることを発見しました。

なぜそのような手法で作られた絵の具の形が生け花に似ているかは理論的に説明できているわけではありません。
ただ、天候などが流体現象であったり、私達の命が心臓の振動で保たれているように、自然界の現象の基本的な部分は流体現象と振動現象から成り立っているといえます。生け花はその自然現象の本質を形にしたものといえるのではないでしょうか。
――絵の具の色は赤ちゃんによって変えている?
基本的には祝福のおめでたい色を選んでいます。また、女子の場合、男子の場合で分けています。

躍動する生命が宿った
――赤ちゃんの声でやってみた感想は?
サウンドオブ生け花に躍動する生命が宿った感じです! やって良かったと思いました。
――どんな特徴が見られた?
女の子の赤ちゃんは、「オギャー」とはっきり泣くのでその声の特徴のせいか、ロケット型の放物線を描く造形が多いです。
男の子の方が産声が個性的で、ちょっとしか泣かない子が居たり、予測不可能な造形が多いです。
――赤ちゃんの声と他の音との違いは?
今までは、主にコンピュータで作られたサイン波を用いて行ってきたのである程度の予測がつきましたが、基本的に赤ちゃんの声は千差万別で、予想ができない面白さがあります。
無重力化でチャレンジも
――今後の展開は?
今年の秋から、足立病院にて一般の希望者に「ubugoe by sound of ikebana」を提供できるようにします。基本事業(アップ了解を得られた方のインスタグラムの動画アップ、一番よい産声by Sound of Ikebanaの写真の提供+赤ちゃんの写真)は、有料で15000円で9月から開始します。
なお、9月の1カ月間の費用は、医療従事者への支援として、「コロナ患者への対応で大変なご苦労されてる京都市の保健所への支援」します。
また、10月から凸版印刷株式会社が「ubugoe by sound of ikebana」を用いて自社の印刷技術により各種の商品を開発し市場の開拓を開始します。
さらに、こんなことも考えています。
キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」の最後のシーンは、赤ちゃんと宇宙が映って
いましたが、これは今後人類が、宇宙に飛び立つことを象徴的に示しています。私たちの次のプロジェクトは、パラボリックフライトにより作り出させる無重力下での同じ仕組みによる造形である「産声 by Sound of Ikebana」作りに挑戦します。
※パラボリックフライト…小型航空機による放物線飛行により数十秒の微小重力状態を数回作り出すフライト実験
様々な展開を予定している「ubugoe by sound of ikebana」。このようなアートで、コロナ禍で生まれてくる赤ちゃん、そしてその家族に笑顔と元気を与えてほしい。
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