最近、街なかや公共施設で「子宮頸がんワクチン」とかかれたポスターを目にすることはないだろうか。子宮頸がんはワクチンで予防ができるとされ、小学6年生から高校1年生までの女性は無料で受けられる。そんなワクチンの名前をどうして今、目にすることが多いのか、子宮頸がんワクチンを取り巻く鹿児島県内の現状を取材した。

スケジュールに危機…相談会開催の理由

8月4日、鹿児島市で子宮頸がんワクチンの相談会が開かれた。現在、小学校6年生から高校1年生までの女性なら、無料で定期接種できる子宮頸がんワクチン。この相談会ではそのワクチンについて、気になることや知りたいことを、医師や薬剤師に個別に尋ねることができる。

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家族で相談に来た父親は「(娘が)3年後には定期接種を迎えるので、それに向けて副反応(について)とか色々知っておいた方がいいのかなと思った」と、参加した理由について話す。

鹿児島市医師会が、この時期に相談会を開いたのには、理由があった。

鹿児島市医師会・福元和彦理事は「ワクチン接種は合計3回というスケジュールを逆算すると、1回目を9月30日までに接種しないと3回目が公費負担にならない」と、相談会を開いた理由を語る。

子宮頸がん・子宮頸がんワクチンとは

「子宮頸がん」は初期症状がほとんどなく、発がん性のある「ヒトパピローマウイルス(HPV)」というウイルスが原因となって発症するがんだ。

ウイルス自体は女性の約7割が感染するとされているものの、一部の人はウイルスが排除できず、感染して数年から10年ほどで子宮頸がんにかかってしまう。
厚生労働省によると、日本では年間約1万1000人、実に76人に1人が子宮頸がんを発症。そのうち約3000人が亡くなっている。

子宮頸がんになる人を年代別にみると、20代から30代にかけてがピークで、初めて出産する平均年齢の30歳より前に、年間約1000人の女性が子宮を失い、妊娠できなくなっている。

そんな子宮頸がんを防ぐため、ヒトパピローマウイルスの感染を予防するワクチンが「子宮頸がんワクチン」だ。

国は2013年4月から定期接種を始めているが、全身の痛みや倦怠感など、ワクチンによる副反応が疑われる患者が相次ぎ、2022年までの9年間、積極的にワクチンを勧めることを中断していた。

その期間に定期接種を受けられるはずだった、1997年度から2007年度生まれの女性を対象に、国は今、無料でワクチン接種が受けられる制度を設けている。

制度自体は2025年3月までだが、ワクチンは半年間で計3回接種する必要があるため、公費で接種を受けるには9月末までに最初の接種を終える必要があり、今、さまざまな場所で子宮頸がんワクチンの名前を目にする背景には、そんな事情がある。

副反応への不安…ワクチンとの因果関係は?

一方で、子宮頸がんワクチンについて、説明会に参加した高校生は「(SNSなどで)映像を見たら副反応についていっぱい載ってるから、それが怖くて相談に来た」と話す。

彼女たちが通う鹿児島市の県立錦江湾高校では授業の一環で子宮頸がんに関するアンケートを実施した。その中でワクチンを接種しない理由として「副反応が怖いから」と答える意見が多かったということだ。

婦人科がんが専門の鹿児島大学医学部・小林裕明教授は、「ワクチンの副反応と思われていた全身の痛みやけいれんなどの症状と、ワクチンとの因果関係が証明された事例はない」と話す。

鹿児島大学 医学部 産科婦人科・小林裕明教授:
注射した場所は免疫を覚え込ませるために腫れて熱が出る。1年以内に痛みが全身に広がったり、色んな症状が出たりするのは、人間の体は脳がしっかり支配しているから色んなストレスで色んな所に症状が出る。たまたま(HPVワクチンを接種する年代の)思春期の女の子に起きやすい多様な症状が紛れ込んでいる。

小林教授によると、ワクチン接種により、注射を打った場所以外が痛くなるなど、副反応が出るのは10万人中1人程度なのに対し、子宮頸がんになる割合は、10万人中1320人とされる(厚生労働省の資料に基づく)。

罹患率全国7位…深刻な現状に

こうしたことから小林教授はリスクとメリットを比較するとメリットが大きい、としたうえで、鹿児島の子宮頸がんの罹患率は全国7位と深刻な現状だと訴える。

小林裕明教授は「もともと子宮頸がんはワクチンがある前から九州は多い。多分、南方の人に子宮頸がんになりやすいHPVウイルスが多いのか」と語る。

実際にWHO(世界保健機関)によると、特に接種率が高いとされる北欧では、子宮頸がんにかかる人は減少しているといい、ワクチンの効果も示されている。

鹿児島大学 医学部 産科婦人科・小林裕明教授:
スウェーデンは子宮頸がんワクチンを打って、実際に浸潤がん(子宮頸がん)が減った国の一つ。日本だけがHPVワクチンを毛嫌いする、ワクチン忌避が続くと、日本だけがアジアの中で増えていく。日本だけが間違いなく世界の子宮頸がん大国になる。

鹿児島県保健福祉部によると、2023年度の県内のワクチン定期接種率は26.4%。全国平均の42.4%と比べると低い。

「年1回は定期検診の受診を」

一方で、ワクチン接種に不安を抱く人へも診療体制が整っていると小林教授は話す。

鹿児島大学 医学部 産科婦人科・小林裕明教授:
当初は窓口が内科一つだったが、「あなたはどことどこ(というように)」複数の科で治していこうと、そして病気やワクチンに対しての質問は婦人科で聞くという仕組みを作っている。ワクチンを打つ打たないは本人が考えること。ただ、情報を正確に集めてほしい。“10代の性交渉デビュー前にワクチンを、20歳からは検診を”これが大事なキーワード。

がんの中でも予防ができる「子宮頸がん」。自分の大切な体を守るためにも、この機会にワクチン接種について考え、年1回の定期検診を受けることが大切と言えそうだ。

(鹿児島テレビ)

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