この季節は山や河川にレジャーに出かけることも多い。また、「フジロック・フェスティバル」は終了したが、いわゆる“夏フェス”は、まだまだ各地で開催される。会場が自然に囲まれたロケーションもあるだろう。

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そうした場所の草むらに、「殺人ダニ」とも呼ばれるダニが潜んでいることがある。
それが「マダニ」だ。

日本全国、草むらがあるところなら、どこでも生息

「殺人ダニ」と呼ばれる所以は、「マダニ」に噛まれたことで感染症になり、死亡してしまう例が、ここ数年相次いでいるから。
今年もすでに北九州市で、80代女性がマダニが媒介する感染症で死亡している。

「ダニ」と聞くと、家の中の畳やカーペットに住む小さな生物を連想しがちだが、「マダニ」はそれとはまったく別の種類の生き物。

家ダニより、ずっと体が大きく、通常時でも3mm~4mm程度、小型のテントウムシぐらいの大きさになる。
生息地は、北海道から南西諸島まで、日本全国にわたる。
主に、山中の茂み、裏山や畑、河川近辺に生息するが、郊外の住宅地や都市部の草かげにも潜んでいる。

つまり、草むらがあるところなら、どこにでも生息しているのが「殺人ダニ」=マダニである。

「マダニ」の活動は、気温が高いと活発化することから、能登地方や豪雨被災地での「マダニ」発生も危惧される。

宿主から1週間以上かけて、たっぷり吸血

「マダニ」の最大の特徴は、とりついた相手(宿主)から吸血すること。

「マダニ」は、草むらの葉陰で、じっと動物や人を待ち伏せしている。
そして、体温、振動、二酸化炭素、匂いなどで宿主を感知する。
宿主(人間やイヌ・ネコ等)が直接植物に触れたときに、うまく乗り移って寄生する。

このとき、「マダニ」はノミのようにジャンプしたりはしない。
そのため、気が付かないうちに衣類や肌に付着していることがある。

宿主の体表に乗り移れた「マダニ」は、まずその動物の皮膚が薄くて吸血しやすい部分を探す。わきの下、足首、膝の裏、髪の毛の中などが“吸血ポイント”になる。

ポイントを選んだら、「マダニ」は鋭い歯で咬みつく。
さらに、ノコギリのような歯を皮膚の奥に差し込み、セメント物質を分泌して固着する。
そのため、取りついたマダニは、ちょっとやそっとでは取れない。

そうして、宿主から1週間以上の時間をかけてゆっくりと、そしてたっぷりと血を吸い上げていく。

吸血・脱皮を繰り返し、ついには宿主の体で交尾も!

日が経つにつれ、「マダニ」はどんどん大きくなっていき、ついには吸った血で風船のようにパンパンに膨れ上がる。

何と、体重は100倍以上に、全長は1cmを超えるぐらいにまで大きくなる。1週間以上に渡る吸血を済ませたあとは、一度宿主の体から外れ、脱皮の時間を設ける。

その後、再び宿主を見つけて吸血し、それが終わればまた脱皮。
このサイクルを3回繰り返し、3度目の吸血の際には、宿主の体の上で交尾まで行う。

無理に引きはがすと感染症のリスク増

ちょっとゾっとしてしまう生態だが、「マダニ」の唾液には麻酔物質が含まれており、吸血されていても、気付かないことがほとんど。
血を吸ってどんどん大きくなっていく過程で、寄生されていることに気付くことが多い。

ただし、「マダニ」を無理にひきはがすことは止めてほしい。

無理に引き抜こうとすると、「マダニ」の頭部や差し込まれている突起物が体内に残ってしまう。
「マダニ」の体が一部でも残ると、後に炎症や感染症をきたすことがある。実は、これが怖い。

また、「マダニ」を強く掴むことで、「マダニ」の体液が逆流、自分のからだに「注射」することになりかねない。こちらも、感染症のリスクが高まってしまう。

では、「マダニ」の寄生に気づいたら、どうすればいいのだろうか。

「マダニ」専用のピンセットも売られているが、一番確実なのは病院にいくことだ。
最寄りの皮膚科を受診し、除去してもらうのが一番安全で安心。ただし、メスを入れて切開することもある。

致死率高い感染症の媒介も

最も怖いのは、「マダニ」に寄生・吸血されることで感染症になること。
「日本紅斑熱」「ライム病」「重症熱性血小板減少症候:SFTS」などの感染症を媒介されることがある。

中でも、「重症熱性血小板減少症候:SFTS」は、6%から30%と致死率が高い疾患だ。感染者も増加傾向にあり、近年 死亡例が相次いでいる。

「SFTS」は2011年に中国で発見され、日本でも2013年に初めて患者が報告された。
国立感染症研究所によると、2013年の患者数は48人だったが、2019年には100人を超えている。そして2023年には過去最多の133人となった。

感染すると6日~2週間の潜伏期を経て、嘔吐、下痢、頭痛などを引き起こし、倦怠感、リンパ節のはれ、出血症状などの症状が現れる。
意識障害が起きて重症化することがあり、最悪の場合、死に至る。

ただ、初期症状は風邪に似ているため、患者本人が「SFTS」だと気づかないことが多いこともリスクになっている。

感染の報告は「マダニ」の活動が活発な、3月から11月ごろまでに集中する。

「SFTS」に抜本的な治療法はない。有効な薬剤やワクチンは無く、対症療法的な治療を施すしかないのが現状だ。

感染したペットに噛まれて感染も!

通常はウイルスを保有している「マダニ」に咬まれて感染するが、感染患者の血液・体液との接触感染、「ヒト‐ヒト感染」も報告されている。

さらに2016年、50代の女性が、「SFTS」に感染した野良猫にかまれたことで「SFTS」を発症し、数日後に死亡するという例が報道された。

自分自身はマダニに噛まれていなくても、「SFTS」を発症している動物の体液に触れることで、人にも感染することが確認されたことになる。
厚労省でも、ペットが体調を崩したら動物病院を受診するように注意喚起している。

温暖化などの気候変動、自然環境の変化によって、「マダニ」の生息域が広がりつつあり、世界各国で警戒が呼びかけられている。
20cm以上の草があれば、「マダニ」がいる可能性は十分にある。

これから秋にかけて、草むら等に近づく際には、肌の露出を避け、長袖・長ズボンを着用し、帽子や手袋なども利用することが大切。
また、帰宅時には衣類をチェックし、家の中に「マダニ」を持ち込まないことも重要。
人間だけでなく、ペットのイヌやネコにも寄生するので、同様の注意が必要になる。

小林剛浩
小林剛浩

慶應義塾大学経済学部卒業後、フジテレビジョン入社
情報番組、報道番組制作等を経て、FNNプライムオンラインを担当