経済学のビジネス活用を推進する「エコノミクスデザイン」とFNNプライムオンラインが共同で開催したオンラインイベント『内心をこっそり教えてください -被災と補償- 』(2020年8月6日)

イベント告知ページやTwitterを通じて事前アンケートを実施、その結果をもとに慶應義塾大学経済学部の坂井豊貴教授が分析を行いました。

今回のテーマは「被災と補償」。

新型コロナウイルスに続き、豪雨災害が発生し、その度に「補償」のあり方についても話題となっています。人々は政府の補償に対して、内心ではどのように感じているのでしょう。

書籍『多数決を疑う』(岩波新書)の著者でもある坂井教授は、どちらか二択といった多数決型ではなく「程度」を聞くことで、心のグラデーションが見えてくると言います。

どのようにデータを扱えば「内心」に迫れるのでしょう? 坂井教授によるオンライン講義のリポートをお届けします。

坂井豊貴教授

(本稿はダイジェスト版となります、講義全編は記事最下部のYouTubeからご視聴可能です)
(アンケートはイベント告知ページやTwitter投稿にGoogleFormのリンクを掲載して実施。日本全国10代以上の男女75名が回答) 

「被災と補償」について内心を知りたい

本日のテーマは「被災と補償」です。2019年頃から、日本はさまざまな災厄に襲われているという感覚があります。

例えば、2019年10月には台風19号があり、河川が氾濫しました。そして、2020年に入ると、コロナ禍があります。そして、7月には九州や中部地方で豪雨がありました。

このようなとき「政府補償」が問われます。そもそも、政府補償をすべきなのか、誰にするのか、いくらなのかなど、人々がどのように思っているのか、内心を明らかにするというのが、今回の目的です。

(クリックで画像拡大)

おことわり

•  サンプルはインターネットで取得しています。ランダムではありません。
 Twitter経由で回答してくださった方が多いです。あくまで参考値です。
•  示唆はあると思っています。
 本格的な調査を設計したり、論点を発見したりするには有益です。
•  簡単な統計分析の入門の手伝いになったら、うれしいです。

【質問1】「Go To Travelキャンペーン」をどう評価している?

では1つ目の質問です。「Go To Travelキャンペーン」について回答してもらいました。

問1:
「Go To Travelキャンペーン」について、下記の諸案に対し、あなたの評価を教えてください。

案:
A:東京を除く地域で。この夏から。
B:地域の制限なしで。この夏から。
C:地域制限なし。コロナ禍が落ち着いてから。
D:そもそもやらない。

回答選択肢(6段階):
とても強く支持する、けっこう支持する、やや支持する、あまり支持しない、ほとんど支持しない、まったく支持しない

【質問1】棒グラフを見てみよう

結果を見てみましょう。棒グラフにしてみたのですが、これだけ見ても、はっきりした事は分かりません。

(クリックで画像拡大)

【質問1】数字で見てみよう

棒グラフでは分かりにくいので、数字で見てみると次の表のようになります。しかし数字を並べただけでは比較が難しく、まだよく分かりません。

(クリックで画像拡大)

【質問1】累積値を求めてみよう

そこで、累積値を求めてみたいと思います。累積値を求めるには、一番上の「とても強く支持する」の数字から、下の数字を次々に足していきます。

(クリックで画像拡大)

残りの3つに対しても同様に行います。

(クリックで画像拡大)

累積値を比較してみましょう。

AとBを比べると、すべての項目においてAがBに勝っています。また、CはABDに勝ちます。DはBに勝ちます。AとDは、勝ったり負けたりする状態です。

この分析を「一次確率支配による優劣」と言います。分布同士の大小関係を比較するときには、一次確率支配が便利です。

この状態になると、ある程度は見えてくるものの、ぱっと見はわかりにくいです。

【質問1】優劣がわかりやすい図に表す

そこで、図にしてみました。

(クリックで画像拡大)

Cは確実に一番支持を得ています。そして、AとDは一次確率支配だと、勝敗は付けられません。ただ、AもDも、Bよりは支持を得ています。一番支持を得ていないのは、Bということがわかります。

【質問2】コロナ第二波の特別給付金は年収に対していくらが妥当?

質問2に移りましょう。

質問2:
新型コロナウイルスの第二波が本格的におとずれ、前回と同じ内容の緊急事態宣言が発令されたとします。下記それぞれの年収の人について、政府からの特別定額給付金はいくらが妥当だと考えますか。

年収:
200万円、300万円、400万円、500万円、600万円、700万円、800万円、900万円、1000万円

回答選択肢(6段階):
0円、5万円、10万円、15万円、20万円、30万円

この年収の人には、いくらが妥当だと思うかというものを回答してもらいました。

【質問2】棒グラフを見てみよう

棒グラフを見てみましょう。

(クリックで画像拡大)

30万円の特別定額給付金が妥当だと考えるのは、年収200万円の場合が一番多いです。そして、年収が上がるにつれて、30万円が妥当だという割合は少なくなっています。多くの人が年収が上がるにつれて「30万円も払わなくていいのではないか」と考えたからです。

質問2の意図ですが、何に注目したかったかというと「収入によって給付金の額を変えるべきか、変えないべきか」ということです。

社会保障を考えるうえで「普遍主義」という言葉があります。無条件に同じく給付するというものです。対立的なものが「選別主義」です。英語でターゲッティズムと言います。ターゲットに絞って給付するというもので、ここでは「年収に応じて給付金額を変える」というのが選別主義に当たります。

日本の社会福祉は、ほぼすべてにおいて「選別主義」です。例えば、生活保護であれば、一定の貧しさの条件を満たして、かつ所持品も少なくなった場合に支給されます。大変厳しい条件を満たさなければもらえません。他にも、子育てをしているならば、子供の人数に応じて手当が出るということもあります。このように日本は選別主義的な再分配が中心の国なのです。

ところが最近は「普遍主義」の発想も受け入れられてきている感じがあります。おそらくきっかけの一つになったのは、ベーシックインカムの議論の盛り上がりだと思います。

それを反映してなのかはわからないのですが、今回、調査に協力してくれた75人のうち27人が「普遍主義」的な回答をしています。

私は意外な感じがしました。「普遍主義」の発想というのは、まだそんなに日本で普及していないと思っていたからです。サンプルが偏っているとはいえ、世の中の意識が変わりつつあるのかなと思いました。

【質問2】トータルの金額を考えてみる

「普遍主義」への批判として「ばらまきではないか」、条件を決めずに全員にお金を配る「究極のばらまきだ」という批判がよくあります。しかし「普遍主義」と「選別主義」とでは、どちらが総合的に高い金額の給付を要求するのでしょうか。

「普遍主義」の人たちは「全員に給付しよう」と言いますが、もしかすると、その金額は少額かもしれません。「選別主義」の人たちは、「貧しい人にはたくさんお金を給付しろ」と言うかもしれませんが、総額は多いかもしれません。実際、どうなのでしょうか。

粗々な計算ではあるのですが、年収の人口割合に金額を掛けて、一人あたりの給付金額を計算してみました。それぞれの主張は、平均的に次のようになります。

•  普遍主義の人は、全員一律に16.7万円の給付
•  選別主義の人は、平均すると20.7万円の給付

普遍主義の人たちは「全員に給付せよ」と言うけれど、あまり高い金額を給付せよとは言っていません。一方で選別主義の人たちは「貧しい人たちにはたくさん給付せよ」と言うので、トータルの政府の負担額は大きくなります。

私にとっては意外な結果でした。普遍主義のほうが政府の総支出額が多いのではないかと勝手に予想していたのですが、違いました。内心を聞いてみると、予想と全然違う結果が出るので、おもしろいなあと思います。

【質問2】へのコメント

さらに、質問2へのコメントを多くいただいたというのも意外でした。また、今回の「普遍主義」「選別主義」の意図をくみ取ったうえでのコメントもいただいていて、驚きました。一部をご紹介させていただきます。いろいろな思いが表れていると思いました。

<コメント>
1.    給付金の額が少額過ぎる。もう少し高い選択肢も必要。前提として給与が減額もしくは貰えなくなっていることという事項も必要
2.    基本的に政府に助けを求めにせよ財政的に厳しいのは明らか。負担も合わせて議論を
3.    質問2について、年収200の人に加えて、家計支持者かつ扶養者である場合、年収500の人まで一律30支給はどうか
4.    収入保証の件は扶養家族がいるかどうかによって大きく違ってくるのでは
5.    質問2では、年収だけではなく収入減少額にも応じて設定を行いたい
6.    政府の財源からいくら出せるのか、出せないのか。前提条件を知るべきでは
7.    政府には何もして欲しくない
8.    定額給付ではなく三密が不可避な業務の事業者への支援
9.    質問2がとても難しい。失業への補償ではない特別定額給付金は、年収に関わらず同額が望ましいのでは

【質問3】あの水害で修繕費が300万円のとき、政府からの支援金はいくらが妥当?

質問3を見てみましょう。

質問3:
ある人が、水害による床上浸水により、300万円の修繕費が必要になりました。このとき政府はいくらの支援金を渡すのが妥当と考えますか。それぞれの水害の原因に対してお答えください。

原因:
台風による河川の氾濫(イメージ:令和元年台風19号)
集中豪雨(イメージ:令和2年7月豪雨)
地震に伴う津波(イメージ:東日本大震災)

支援金:
0円、50万円、100万円、150万円、200万円、250万円、300万円、350万円

知りたかったのは、水害のそれぞれの原因に対して、たくさん支援金を渡すべきだ、あるいは、少ししか支援金を渡すべきでないなど、人々がどのように考えているのかということです。おそらくそこには、自己責任論のようなものが反映されているのだと思います。

【質問3】表を見てみよう

回答をまとめた表がこちらです。

(クリックで画像拡大)

今回、被害額よりも大きい金額である350万円という選択肢も作りました。悲しんだ分の埋め合わせのような意味合いです。

表を見てみると、回答者の10%程の人たちが、350万円を選択しているのが興味深かったです。一方で0円と答えた方もそれなりにいらっしゃいます。0円に近いほど「政府は何もすべきでない」あるいは、水害は「自己責任だ」という考えなのかなあと思います。

さて、質問3で知りたかったのは、原因によって人々の考えは変わるかということです。一次確率支配では優劣は付けられませんでした。そして、あまり差もありません。ノンパラメトリック検定をしても、有意差が出ませんでした。

ということで、結論は、被害の原因は補償額への考えにマターするとは言えないということになります。

私にとっては意外でした。なんとなくですが、地震に伴う津波というのが全体的に金額が高く出るのではないかなと思っていました。地震に伴う津波は不可避だという気がしたからです。

ところが、みなさんに回答を聞いてみると、そうではありませんでした。この3つの原因に関して、有意な差は見られませんでした。

(クリックで画像拡大)

【質問2】と【質問3】をからめて関係を見てみよう

続いて【質問2】と【質問3】をからめて見てみましょう。給付額についての「普遍主義」「選別主義」と「水害の原因」を問うということは、関係があるのでしょうか。

私が予想していたのは、このようなことです。「普遍主義」と「選別主義」とで、水害の原因を問うかどうか違いが出るのではないかと思ったのですが、結論を言うと違いは出ませんでした。

普遍主義者は、27人のうち20人が「台風、豪雨、津波」の原因を問わず、同じ給付額にせよと主張しました。そして、選別主義者も、ほぼ同じ割り合いで、48人のうち35人が「台風、豪雨、津波」の原因を問わず、同じ給付額にせよと主張しました。

ということで、給付額において、普遍主義者か選別主義者かどうかは、水害の原因を問うこととは関係がないと結論づけられます。

(クリックで画像拡大)

私としては、なんとなく、これも意外な気がしました。普遍主義者のほうが原因を問わない人のほうが多いと予想していたからです。

以上が、回答をおおまかにまとめたものになります。

まとめ

それでは今回の結果をまとめてみましょう。

<まとめ>
1.  「Go Toキャンペーン」は、評価する人もいるが、全体的にはかなり評判が良くない
→コロナ禍が落ち着いた後でやるべきだという選択肢が他の選択肢を圧していました。
2.  特別定額給付金は、普遍主義が36%、選別主義が64%
•  粗々の計算だが、選別主義のほうが総支出額は高くなりそう
•  「普遍主義のほうがバラマキ」ではない
3.  水害の原因と補償額への選好は関係が見つからない

(クリックで画像拡大)

以上になります。ありがとうございました。