アメリカのトランプ前大統領が暗殺未遂事件で示した“不屈のポーズ”は、大統領選を勝利に導く決め手になりそうだ。
「再選を決定づけるイメージ」との評価も
ドナルド・トランプ前大統領が13日、ペンシルべニア州バトラー市での遊説中に狙撃されながら一命を取り留めて1時間も経たない内に、前大統領の長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏がX(旧ツイッター)に「彼(前大統領)は、アメリカを救うための戦いを絶対に止めない」というメッセージを投稿した。
He'll never stop fighting to Save America 🇺🇸 pic.twitter.com/qT4Vd0sVTm
— Donald Trump Jr. (@DonaldJTrumpJr) July 13, 2024
投稿には、星条旗を背景に血だらけの顔の前大統領が複数のシークレットサービスに抱えられながらも拳を握った右手を挙げて「Fight!(戦え!)」と叫んでいる写真が添えられ、「戦いを絶対に止めない」というメッセージを文言以上に訴えるものがあった。
この写真は、トランプ前大統領の副大統領候補に名前が上がっていたマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出)や、大統領選に名乗りをあげた実業家のビベック・ラマスワミ氏ら政財界の要人がSNSに使って前大統領の回復を念じた。
さらに、キリスト教団体「ライジング・クリスチャンズ・ユニオン」のシャキール・ジャハンギル会長は、この写真に十字架を重ね「トランプは勝った…我々はアメリカを再びキリスト教の国にする」と書いた。

「撃たれて血まみれのトランプが拳を振り上げる写真は、すでに彼の再選を決定づけるイメージとなっている」
ニュースサイト「ビジネス・インサイダー」は14日、この写真についてこう評価した。
一方、バイデン大統領の民主党は、とりあえず選挙戦のテレビやラジオのコマーシャルを全てキャンセルすることにした。テロに負けなかったトランプ前大統領を「刑事被告人」とか「独裁者」などと攻撃すると「憎しみを煽っている」と非難されるのを避けたのだろうが、それなら今後の大統領選をどう戦っていくのか、民主党側はなす術を知らない状況に追い詰められたようにも見える。
暗殺未遂事件での対応で評価得たレーガン大統領
そこで思い出すのが、同じ共和党のロナルド・レーガン大統領がやはり暗殺未遂事件に見舞われながらも、その対応で指導者のあるべき姿を体現したと賞賛され、レーガン時代とも呼ばれる安定政権を迎えたことだ。

1981年3月30日、大統領就任から40日しか経っていないレーガン大統領は、ワシントンのホテルで講演して出てきたところを銃撃され重傷を負った。その時、私はワシントン駐在で事件を身近で取材したが、「大統領は死亡した」「いや無事らしい」と情報が錯綜する中、大統領が胸から弾丸を取り出す手術を行う医師に「君が共和党員なら嬉しいのだがね」と冗談を言ったことが伝えられると、ホワイトハウスを支配していた重苦しい空気がいっきに晴れたことを忘れない。
また病院に駆けつけたナンシー夫人に「ハニー、僕は弾をduck(ひょいと体をかわしてよける)するのを忘れていたよ」と言ったと伝えられた。これはボクシングのヘビー級チャンピオンのジャック・デンプシーが敗れた時に妻に対して「ハニー、俺はduckするのを忘れていたよ」と言った有名なコメントをなぞったもので「大統領はジョークを連発している。もう大丈夫だ」という声が記者団の間で沸き起こったものだった。

レーガン大統領は前年、ジミー・カーター大統領に大差で勝利したものの、ワシントンの政界通の間では「ハリウッドの俳優に何ができる」と冷ややかに迎えられ、前途多難を思わせていた。しかし、この暗殺未遂事件を通じて「危機に際してもユーモアを忘れない指導者」と評価され、3週間後に退院して予算案提案のために連邦議会を訪れた際は全議員が3分間起立して拍手するスタンディング・オベーションで迎えた。
この後もレーガン人気は衰えることなく、1984年の再選選挙では民主党のウォルター・モンデール候補に対して50州中49州を獲得するという地滑り的勝利を収めた。

今回、トランプ前大統領は“不屈のポーズ”で指導者としての資質を打ち出したわけで、それが大統領選に反映されると、バイデン大統領と民主党陣営は相当な苦戦を強いられると考えざるを得ない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】