史上最多56人の立候補者がひしめき、まれにみる熱い戦いとなった東京都知事選挙は、現職の小池百合子氏が3期目の当選を決めた。Mr.サンデーは、17日間の激闘の舞台裏に密着。まさに三者三様の、今どきの選挙戦略が浮かび上がった。
行政視察でも政策アピール、SNSも活用
小池百合子氏にとって今回の選挙戦はかつてない逆風だったに違いない。街頭演説中に「やめろ」とコールが起きたり、妨害予告が入るなど、小池氏本人も「こんな選挙やったことがない」と述べるほど、守りを余儀なくされた戦いとなった。
この記事の画像(16枚)選挙期間中、11回の街頭演説の一方、行政視察は19件に及んだ。演説よりも公務を優先させるという異例ともいえる選挙戦を見せた小池氏だが、実はその視察先は公約に関係する場所が多く、街頭に立たずして政策をアピールしていた。
さらに力を入れていたのが、SNSのショート動画だ。
「子宮筋腫だと言われて、女性多いです。結局、『取りましょう(子宮全摘出)』ていう話になって。喪失感という言葉がぴったりなんだろうと思います」(小池氏のショート動画より)
小池氏の公式Xに投稿された動画は、6日までに1743万回表示となるなど話題になった。この撮影風景を取材していたMr.サンデーに、小池氏は胸の内を明かしていた。
「こうやって動画の中でお話しするのは初めてかもしれませんね。でもやっぱりあの時の私の思いは、今のチルドレンファースト、それからベビーファースト、そこにつながっています」
選挙戦終盤には5日間連続で街頭演説
一方、こうした街頭に出ない小池氏の姿勢に噛みついたのは、立憲民主党の安住淳国対委員長。「選挙始まって、東京都が(公務の)日程なんか作るわけないんですよ。公務と称してニュースに取り上げて」などと批判していた。
その批判の裏で、Mr.サンデーのカメラは、小池氏のある変化を捉えていた。これまで小池氏不在の選挙カーが都内を回っていたのだが、突然、本人自ら選挙カーに乗り込んだ。
「私、小池百合子、チルドレンファーストの政策をこれからも続けてまいります」
「機を見るに敏」な小池氏。選挙戦終盤には、平日を含め5日間連続で街頭演説に立った。
そして選挙戦最終日の6日。東京都心では雷を伴う激しい雨が降り、池袋駅で街頭演説を行っていた小池氏は、「この雨の対策をしっかりと私、守ります。様々な激甚災害、これに備えて、しっかりと都政をお預かりしていく」と、豪雨のため訴えを切り上げ都庁に戻り、災害に備えるという締めくくりとなった。
6日夜には選挙戦についてこう振り返っていた。
「なんですかね。新しい次元の選挙に入ったような気もします。SNSがより普通になってきて、地上戦と空中戦ってよく言いますけれども。これもハイブリッド、二刀流の時代なのかなというふうに思います」
“リアル”にこだわった蓮舫氏
そんな小池氏と対照的な動きを見せたのが蓮舫氏だ。
カメラがとらえたのは、笑顔で街を走りまくる姿。とにかく、走る、走る、走る。時には、階段を1段飛ばしで上がり、カメラが追いつかないことも…。
こうして向かったのは演説会場。その戦い方はまさに王道だった。
「会いに来ました!こんなにも多くの人が会いに来てくれた、まずお礼を申し上げたいと思います!ありがとうございます!」
演説会場では6時間半前から準備を開始。ステージには大型スピーカーまで設置され、ライブさながらの舞台が組まれていた。
選挙期間中、28回行われた大がかりな街頭演説。「本当に時間がもったいなかった。(小池氏は)この8年間、何をしてたんですか」。蓮舫氏は、最初から最後まで小池都政に対する批判を繰り広げた。
さらに、商店街を練り歩き、1軒1軒店を回る、昔ながらの“どぶ板選挙”。「うれしいです!がんばります!」と市民と握手を交わし、メンチカツをもらって「あったかいあったかい。やったー!」と喜ぶ場面もあった。かと思えば、選挙戦終盤には自ら駅前に立ってビラ配り。都民と直にふれ合う選挙戦を展開した。
SNSでは、自宅からライブ配信を行い、プライベートな一面も公開し“リアル”にこだわった。
自身の選挙戦について蓮舫氏は、「(SNSで)会いに行ける蓮舫みたいなのをみんな書いてくれてて。SNSは手段ですから、実際に会うことの方が大事なんでね」と語っていた。
演説会場には立憲民主党や日本共産党の国会議員が応援にかけつけ、裏金問題を引き合いに自民党批判を展開。この戦略について、立憲民主党の手塚仁雄衆院議員は「自民党の裏金問題とか今の政治不信とか、そういうことを応援弁士が言及し、候補者(蓮舫氏)はできるだけ東京の未来、政策を語るという、少し役割分担」と説明した。
選挙戦最終日、蓮舫氏はこう訴えた。
「子どもが安心して大人になれる街になる。若者が豊かになる。現役世代の安心になる。シニアの安心につながる。循環する東京都を、蓮舫はみなさんと一緒につくっていきたいと考えています!」
演説は「撮影・拡散OK」SNSをフル活用
一方、6月28日の朝早く、演説会場に徒歩でふらっと現れたのは、前安芸高田市長の石丸伸二氏。集まった聴衆のなかで「きょう8時になんかあるって聞いたんですけど。始まんないっすね。いつまで待たせるんだ!」などと話していると、次第に周囲の人が気づき始め、「もうほんとね。朝のこの忙しい時間に(選挙カーが)5分遅れてくるとはどういうことだ。候補者の顔が見てみたい!」と言って笑いを誘っていた。
立候補前の知名度は高くはなかった石丸氏だったが、日を追うごとに聴衆が膨れ上がっていた。ひとたび街を歩けば、小池氏、蓮舫氏を凌駕するほどの熱狂ぶりを見せていた。
その選挙戦はといえば、朝早くから行われた街頭演説は17日間で229回。その特徴は、1カ所15分ほどで切り上げるコンパクトさと、告知していない場所でも演説を繰り広げる“ゲリラ戦術”だ。
記者から「蓮舫さんとかは1日2カ所とかそこで1時間とかやられてるんですけど…」と問われた際には、「だから『政治つまんない』って言われるんじゃないですか?頑張れよって。なんぼでも出たらいいんじゃないですか。そんな出し惜しみするものじゃないでしょ。政治家なんて。これまでのやり方を踏襲しようっていう発想が既に時代遅れ。アップデートできてないのは政治とメディアです!」と返していた。
また、どしゃぶりの雨の中、傘を差さずに熱弁をふるうこともあった。そんな姿に聴衆からは、「なんか熱量がやっぱすごかった。本当に真摯に向き合ってくれてるんだなって感じました。18歳なった時には、自分たちも次の世代のために選挙とか行けたらなって思いました」(16歳男性・高校1年生)、「嘘がないっていうのが一番。ずっと言いたかったことを代わりに言ってくれてる。ダメなものはダメとちゃんと言ってくれる人がやっと現れたかな」(50代女性)といった声が聞かれた。
「もう熱狂。熱狂の渦になってきてるんで、これはもう東京動くと思いますよ」と、手応えを感じていた石丸氏だが、その真骨頂はSNSのフル活用。
頻繁に演説を投稿するだけでなく、演説会場では「撮影・拡散OK」の文字が掲げられ、一般の人たちも生配信していた。
あるライブ配信者は「僕が見てきた中で一番ロジカルに話す人だなって。自分の中だけに収めとくのもったいないなと。いろんな人に共有したい」と話した。また、演説を聴きに来たという20代の女性2人組からは、「TikTokとかでも回ってくるので、そういうので見始めました。言ってることが端的で、核心ついてて、若い人にも分かりやすい」という声が聞かれた。
SNS戦略を最大限生かし、急速に支持を広げた石丸氏は、「ネットとリアルを融合させる」のが今回の選挙のポイントだと話す。
「(演説の同時配信も)私の中では、極めて普通です。あれありきだと思ってました。ネットとリアルを融合させる。それが今回の選挙のポイントだというふうに思っています。もうこの力はネットからリアルにしっかりこう伝播してるのは伝わってるなというふうに感じました」
「言葉」にこだわり、生配信の準備も自分で
また、電話で訴えるための原稿の打ち合わせでこんな場面もあった。
石丸氏:
変な日本語になってないですよね。僕めちゃくちゃ言葉こだわりますよ。
スタッフ:
「突然のお電話失礼いたします。東京都知事候補の石丸伸二です。本来は直接お電話したいのですが、テープでのご挨拶となることご容赦ください。安芸高田市の…」
石丸氏:
ごめんなさい、全然ダメです。余計なこと言い過ぎです。謝るぐらいだったら電話するなって思われますよ。違うんですよ。ほんとに伝えたいことを魂込めて言うんだったら、もっと絞らないと。だって相手はその時間、聞いてるんですよ。相手の時間を奪うってことは相手の命を奪ってるんですよ。魂込めましょうよ。
そして始めたのは、生配信。
番組ディレクター:
これは全部ご自身で準備されてる?
石丸氏:
そうですよ。
(配信開始)
石丸:
それでは21時を回りました。改めまして皆さんこんばんは。石丸伸二です。
本日おこしいただいているのがフジテレビジョン、そして、某新聞社です。
番組ディレクター:
よろしくお願いいたします。
このときのリアルタイムの視聴者数は7万人を超えていた。
そんな石丸氏を支えているのが、これまで多くの候補者を当選させてきた“選挙の神様”との異名をとる藤川晋之助氏だ。藤川氏は「ネット選が主人公になってきた」と語る。
「今まで143戦の130勝して13敗でしょ?14敗になるの嫌じゃないですか。やっぱ本人の魅力ですよね。ぶれないということとエッジが効いてて。将棋における藤井、野球における大谷、政治におけるまさに石丸。こういうふうになれる素質があるなと思ったんです。本当にわくわくできる選挙だなと。ネット選っていうものがちょうど10年の歴史を経ていよいよ主人公になってきた」
迎えた選挙戦最終日も、石丸氏は「未来はここから始まるんです!あきらめている場合じゃない」「自信を持って動かしましょう。かっこいい大人の姿を見せつけましょう!ありがとうございました!」と訴えた。
そして、7日。午後8時に投票が締め切られ、現職の小池百合子氏が3回目の当選確実になった。小池氏は午後8時5分頃、記者団の前に姿を見せ、「都民の皆様方の力強いご指示を賜りまして、3期目、この大東京、都政の舵取りをお任せいただきました」と述べた。
小池氏に当選確実が出た瞬間、石丸氏はじっとその画面を見つめていた。その後、会見に臨み、「できることは全部やったと言い切れます。ほんとにありがとうございました」と感謝の言葉を述べた。
(「Mr.サンデー “七夕決戦”2024都知事選SP」7月7日放送より)