沖縄戦をテーマにした絵本「おきなわ島のこえ」は、沖縄戦の図を製作した丸木位里(まるき いり)・俊(とし)夫妻が戦争の実相を子どもたちに伝えようと出版した。

このような絵本などを通して、戦争や平和について考えるシンポジウムが2024年6月、糸満市で開かれた。

絵本が伝える”戦争”と”平和”

沖縄戦が終結して2024年で79年、体験者から直接話を聞ける機会は少なくなり、戦場の記憶は遠ざかりつつある。

戦争で奪われた命や残された人々の悲しみを後世に伝え、平和を紡いでいこうと多くの本が出版されてきた。

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2024年6月1日、糸満市にある平和祈念資料館で開かれたシンポジウムは、絵本が伝える戦争と平和をテーマに作家や編集者などが意見を交わした。

ちひろ美術館 館長・作家 松本猛さん:
東京の空襲の後に親を失った子どもたちなどがたくさんいたんですね。これはちひろにとって、当時のベトナムの子どもと自分が見た子どもたちが重なっていたと思います

松本猛さんの母で絵本作家のいわさきちひろは、子どもや平和をテーマにした作品で知られている。

戦争は人を殺すだけではない あらゆるものを失わせていく

「戦火のなかの子どもたち」は、東京大空襲を経験したちひろさんが、自らの体験とベトナム戦争の爆撃を重ね製作した絵本である。

ちひろ美術館 館長・作家 松本猛さん:
これは、お母さんと一緒に燃えていった小さな坊や。今おそらくウクライナでも、それからガザでも同じことが起こっているんだと思います

戦火のなかの子どもたちより
「しんでいったその子たちのひとみがささやく。あたしたちの一生はずーっとせんそうのなかだけだった。」

幸せであるべき子どもたちの命を奪う戦争。

そして、メディアで報じられない多くの犠牲者がいることを、本を通して伝えたかったのだと松本さんは話す。

ちひろ美術館 館長・作家 松本猛さん:
親を失った子どもといった人たちは、ものすごく大きな心に傷を持って、生きていかなくちゃいけない。その人たちも実は犠牲者。戦争っていうのは人を殺すだけではなくて、親とか周りの人たちとか友達とか、あらゆるものを失わせていくものなのだということを、この本は語らなくちゃいけない

必ずしも子どものための絵本ではない

「原爆の図 丸木美術館」の学芸員で作家の岡村幸宣(ゆきのり)さんは、丸木夫妻の絵本では戦争被害だけでなく捕虜となったアメリカ兵を虐殺するなど、戦場では加害者にもなり得る事を描いていると解説する。

原爆の図 丸木美術館 学芸員 岡村幸宣さん:
隠されていた、当時知らされることのなかった情報を伝える目的で発行されたという意味では、必ずしも子どものための絵本ではないですね。むしろ安く軽く、そして全世代にわかりやすい。普及伝達の手段として本というメディアを選んだと

丸木夫妻は原爆の図や沖縄戦の図を制作するとともに、戦争で傷つけられた人たちの悲しみを絵本でも伝えてきた。岡村さんが紹介した夫婦の作品「おきなわ島のこえ」は1984年に出版された絵本である。

原爆の図 丸木美術館 学芸員 岡村幸宣さん:
子どもたちに向けた最後の言葉が「ワラビンチャーひんぎれよー 命どぅ宝。(こどもたちよ にげなさい。いのちこそ たから)」という言葉なんですね。なぜ再び戦争を起こしてはならないのか。もし起きてしまったときには、どう行動すべきかということを考えたときに、非常に重要かつ明快な言葉として心に突き刺さってくるなと思っています

作家の丸木俊さんは国家が語る歴史ではなく、一人ひとりが目にした戦場を記録し、民話のような形で戦争を伝えていると岡村さんは解説する。

過去に残されたものをしっかりと受け止めること

作家たちの創作活動は受け継がれ、戦争の愚かさや平和の尊さを訴えるため、今も多くの本が出版され続けている。

しかし、その表現は一方的なものであってはならないと指摘する。

原爆の図 丸木美術館 学芸員 岡村幸宣さん:
ただし、そのあとから来て参入する人にも責任はあります。それは、過去に残されたものをしっかり受け止めること。新しい人でなければ見えない視点が加わっていって、初めて過去の物語が今に蘇るのだというふうに思っています

本を通して知る戦争。多くの人の命を奪い、未来を奪う戦争の悲惨さを伝えたいと生み出された数々の作品は、平和のバトンとして戦争を知らない世代に託されている。

沖縄テレビ
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