「クマがフェンスを乗り越えている」。5月28日午前5時半ごろ、広島・廿日市市の県立廿日市高校の周辺でクマが目撃され、生徒や地域住民に衝撃が走った。相次ぐ目撃情報。なぜ、クマは「市街地」に現れたのか?
市街地でクマ目撃情報が「7件」
5月28日の早朝、防犯カメラに映る体長約1メートルのクマ。映像をとらえたのは、クマが目撃された高校から近い廿日市市の寺だ。クマは境内を通り、塀を乗り越えて姿を消した。

映像を見て驚いたという正覚院の菅梅弘順住職は「本当に怖かったですよね。朝5時台に参拝に来る人もいるので、ニアミスだったかなと」と話す。

普段はせいぜい野良ネコやタヌキが映る程度で、クマが防犯カメラに映ったのは初めてだという。寺から60メートルほど離れた墓地には、クマの足跡とみられるものが複数残っていた。

「クマの爪は鋭いですからね。誰もケガをしないことを祈ります」
この日、廿日市市の市街地でクマの目撃情報が相次いで7件寄せられた。
“クマよけ鈴”ほぼ完売で追加発注
そして翌日も…。29日午後7時前、最初の目撃地から北の方角にある西広島バイパス側道の平良第一トンネル付近で「クマがウロウロしている」と通報があった。クマはその後、藪の中へ逃げていったということだ。28日に目撃されたクマと同じクマが周辺に留まっているとみられ、警察などは警戒を強めている。

クマが目撃された平良第一トンネルは廿日市市立佐方小学校から約400メートルしか離れていない場所。佐方小学校は30日と31日の2日間、臨時休校となった。

地元の人は「突然、遭遇したら怖い。クマが山に戻ってくれたらいいと思うんですけどね」と不安を感じている。クマの出没以降、市内のホームセンターでは“クマよけの鈴”がほぼ売り切れに…。

追加で発注した100個が31日朝に入荷。ジュンテンドー廿日市店・品川明義店長は「安心した日常生活を送っていただくために、売り切れることなくお客の要望に応えていきたい」と話す。
都市部に出没しやすくなった要因
クマは、どうして人の多い市街地に現れたのだろうか。クマの生態に詳しい広島修道大学の奥田圭教授は、管理されていない河川が“クマの通り道”になっていると指摘する。

「2023年、山でクマの餌が少なくて都市部に下りてきてしまうクマがいました。都市部周辺で定着した可能性が考えられます。大きな要因としては河川敷などが管理されていない。草が生えてしまっている。河川をつたって下りてきてしまうケースがおおいにある。河川が動物が山から都市部へアクセスする経路になってしまっていると考えられます」
奥田教授は「動物の経路になるところをなくすこと」が一番にできる対策だという。
一方、クマが目撃された平良第一トンネルのすぐそばでは山を切り開く造成工事が行われている。近隣住民からは造成工事とクマの出没に関連があるのではないかという声もある。

「開発工事が始まってからイノシシやクマが出るんですよ。造成地のあたりにおったのが、うちの方に来たんじゃろうっていう話です。これまでクマなんか来たことないんです」

これに対し、廿日市市・経営企画部の高橋正樹次長は「環境影響評価について事前に調査をしています。クマの餌場である痕跡は確認されなかったということで、造成工事による影響は極めて少ないと予測したうえで事業に入っています」と関連の可能性を否定。奥田教授も専門家の観点から「関連性は薄い。クマの行動範囲は非常に広いので造成エリアだけで生息した可能性は低い」としたうえで、近年の時代背景をクマが現れやすくなった要因にあげた。
「人口減少や高齢化が進んだことによって住宅地でも人のいない所が多い。都市部を人が住んでいる場所として認識しなくなった可能性もある。都市部にクマがアクセスしやすい状況が人間側の都合で整えられてしまっている」
奥田教授は、もしクマに出会っても大声を出さず、クマを刺激しないように後ずさりして対処するよう注意を呼びかけている。
通学路に「クマレンジャー」児童見守る
クマの目撃情報を受けて臨時休校となっていた佐方小学校は6月3日から登校を再開した。保護者と一緒に集団で登校する児童や、保護者に車で送ってもらう児童の姿が見られた。

通学路では地域のボランティアや「クマレンジャー」という緑色の腕章を付けた人たちが、児童の登校を見守った。

「クマを追い払う花火を持ってきて何かあったときには追い払う。4日も5日も見守りに出てほしいと廿日市市から要請があった」

廿日市市では別の地区でもクマの目撃情報が寄せられていて、クマを感知するセンサーカメラや捕獲用のわなを取り付けるほか、パトロールを強化し警戒を続けている。
(テレビ新広島)