子宮頸がんの原因であるHPVウイルスの感染を予防するワクチンについて知り、考えてもらおうと、大学生が同世代の若者たちに出張授業を行っている。国も若い世代の女性が無料でワクチンを接種できる「キャッチアップ」を実施中だ。
若い世代に多い「子宮頸がん」
「子宮頸がんは撲滅できるがんです」と話すのは、長崎大学医学部6年の世羅涼さん。5月18日、長崎市の専門学校で1年生48人を前に出張授業を開いた。

世羅さんはHPVワクチンについて発信している学生団体「若者にHPVワクチンについて広く発信する会 Vcan」のメンバーだ。この日は子宮頸がんについて「普通のがんは高齢になっていくにつれて増えていくイメージがあると思うが、子宮頸がんだけは私たちの世代に多い」と説明した。

国内では年間、約1万1000人が子宮頸がんと診断されている。その多くは20代から40代だ。
原因はHPV=ヒトパピローマウイルス。主に性交渉で感染し、キスや、オーラルセックスでも感染するリスクがある。80%以上の人が一生に一度は感染すると推定されている。

HPVは女性だけでなく男性も感染する。中咽頭や膣、外陰、肛門のがんや、性器にできるイボ「尖圭コンジローマ」を引き起こす。感染を防ぐのが「HPVワクチン」だ。若いうちに接種するとより高い効果が期待できるといわれている。
無料接種の「キャッチアップ」
日本では2013年に定期接種に認定された。対象は女性で、小学6年生から高校1年生は無料で接種できる。しかし、接種後に関節痛や重い頭痛など体調不良を訴える人が出たため、一時積極的な推奨は控え、接種率は1%以下に落ち込んだ。

副反応について検証が行われたが、ワクチン接種との因果関係は証明されなかった。そこで国は2021年、8年ぶりに接種の呼びかけを再開した。しかしこの間に接種をしなかった人もいたため国が始めたのが、無料接種ができる「キャッチアップ」だ。1997年4月2日から2008年4月1日生まれの人が対象となっている。
出張授業を聞いた女子学生:親と話して打ったが、1回目で接種後に倒れたから2回目、3回目はちょっと怖いなと思っているが、がんにならない可能性があるなら打った方がいいかなと思う。1回目の接種後はふら~となって、周りが真っ暗になって倒れた。
近々1回目接種予定の女子学生:近々、打とうと思っているので、タイミングよく勉強する機会ができてよかった。友達が倒れたと言っていたからちょっと心配だったが、将来的にがんにならない可能性があるなら打った方がいいのかなと思った。
男性接種の公費負担を要望
HPVワクチンは男性も接種できるが、約5万円の自己負担が必要だ。「Vcan」は2024年1月、長崎市に男性の接種について「公費負担」を要望した。「HPVワクチンはそもそも女性の子宮頸がんを予防するものだが、男性も自分の健康状態や女性のパートナーを守る点でものすごく重要なものだと思う」と訴えた。

2022年時点で、日本の接種率は、女性は7.1%にとどまり、男性はほとんど受けていないのが現状だ。一方、オーストラリアやカナダ、イギリスなどでは男性の接種率は70%を超えている。オーストラリアでは2035年までに新規の子宮頸がんの撲滅が予想されている。
出張授業を聞いた男子学生:男性もがんにかかる確率が0%ではないので、しっかりワクチンを打って対策しようかなと思う。かかってからは遅いので、お金を払ってでも接種をするべきなのかと感じた。
Vcan 世羅涼さん:今回は「ワクチンを接種してね」とかではなくて、「こういうHPVワクチンとか子宮頸がんについての情報がありますよ」という正しい知識を皆さんに提供した上で、自分で接種するかしないかを選んでもらう場にしている。人が打ってるから打つというのもいいが、ちゃんと自分で考えて自分の将来のことを考えて行動してくれたらいいなって思っている。

キャッチアップは2025年3月までとなっている。HPVワクチンは期間をあけて3回接種する必要があるため、9月までに1回目を打たないと無料で3回受けることができない(※ワクチンの種類によるが、1回目接種の1~2カ月後に2回目の接種。その4カ月後に3回目の接種を行うことになっている。3回接種完了までに6カ月を要する)。Vcanは「検討している人は家族や医療機関と早めに相談してほしい」と話している。
(テレビ長崎)