家庭や職場で怒りを抑えることは重要だが、いざ怒ると抑えがきかなくなる人もいるのではないだろうか?

そんな人に朗報とも言える研究結果が4月10日に公開された。発表したのは、名古屋大学大学院の川合伸幸教授らの研究グループ。実証によって、怒りを「書いて捨てる」と気持ちが鎮まることを発見した。「怒りを感じた状況をなるべく客観的に紙に書いて、その紙を捨てるか、シュレッダーで裁断すると怒りが消失した」としている。

2つの実験で検証

研究グループは、まず大学生などの参加者が書いた意見に対して、知能や合理性、論理性が低く、「大学生が書いた文章とは思えない。頑張って勉強してほしい」などとコメントした評価を返却して、わざと怒らせた。

そして、参加者が感じた「むかつく」「腹が立った」といった気持ちに加え、「なぜ、その感情を感じたのか」「なにがあなたにそう感じさせたのか」の2つに沿って、気持ちを書いてもらったという。

その上で、実験1では、「怒りが生じた状況を書いた紙を丸めてゴミ箱に捨てるグループ」と「紙を裏返して目の前に置いたままのグループ」で、それぞれ“怒り”の感情を数値化して測ったところ、「ゴミ箱に捨てたグループ」は「紙を置いたままのグループ」よりも“怒り”の数値が下がった。

また実験2では、「怒りが生じた状況を書いた紙をシュレッダーに入れるグループ」と「紙を透明の箱に入れておくだけのグループ」で、それぞれ“怒り”の感情を数値化して測り、「シュレッダーに入れたグループ」の方が怒りの数値が下がった。

研究グループは「この手法を応用することで、職場や家庭で簡単に怒りを抑制できるようになることが期待されます」としている。

「紙をシュレッダーに入れるグループ」(左)と「紙を透明の箱に入れておくだけのグループ」(提供:名古屋大学大学院 川合伸幸教授)
「紙をシュレッダーに入れるグループ」(左)と「紙を透明の箱に入れておくだけのグループ」(提供:名古屋大学大学院 川合伸幸教授)
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たしかに手軽な方法で、これで収まるのであれば試してみたい。では、怒りを「書いて捨てる」と気持ちが鎮まるのはなぜなのか?また「Wordに怒りを書いて、そのファイルをゴミ箱に入れる」でも怒りは鎮まるのか?

名古屋大学大学院の川合伸幸教授に聞いた。

気持ちを重ねたものを捨てることで怒りが消失

――「怒りを感じた状況を紙に書いて、その紙を捨てる」という行為に着目した理由は?

私たちは、対象に意味を重ねて見る「プロジェクション(投射)」という心の働きがあると考えています。

遺品や親族の墓石が、他と違うように感じるのと同じで、単に意味を重ねて見るだけでなく、意味を重ねたモノが操作されることで、逆に心の働きに変化が生じる逆投射ということが生じると考えて、今回の実験をしました。


――今回の実験の対象は?

実験1は大学生50人(このうち女性16人)、実験2は大学生と20代の46人(このうち女性23人)です。


――怒りを「書いて捨てる」と気持ちが鎮まる理由は?

気持ちは操作しにくいですが、紙は操作できます。「プロジェクション(投射)」という心の働きがあり、気持ちを紙に重ねることで、紙が気持ちを写したものになります。その紙を捨てることで気持ちに変化が生じ、怒りが消えてしまいます。

ゴミ箱に捨てる(提供:名古屋大学大学院 川合伸幸教授)
ゴミ箱に捨てる(提供:名古屋大学大学院 川合伸幸教授)

――「捨てる」という行為は、怒りを鎮めることにどのような効果をもたらしている?

行為(動作)そのものが大事ではなく、「捨てた」ということの意味が大事です。シュレッダーに入れるだけで怒りが鎮まりますので、気持ちを重ねたものが廃棄されたことによって、怒りが消失します。

電子ファイルでも応用可能?

――「捨てる」と「シュレッダーで裁断」を比較すると、怒りの鎮まり方に違いはある?

同じです。


――今回の研究結果を踏まえ、仕事などで怒りを感じたときはどうすればいいの?

メモに書いて捨てるということをすれば、たとえば、商談中でも怒りを鎮めることができます。


――例えば「Wordに怒りを書いて、そのファイルをゴミ箱に入れる」。これでも怒りはおさまる?

実験はまだしていませんが、おそらく、そうなると思います。

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怒りを「書いて捨てる」と気持ちが鎮まる理由は、「プロジェクション(投射)」という心の働きが関係していた。気持ちを紙に重ねることで、紙が気持ちを写したものになり、その紙を捨てることで気持ちに変化が生じ、怒りが消えるということだった。

職場や家庭で怒りを覚えたら、「その気持ちを紙に書いて捨てる」を試してみてもよいだろう。

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。