イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘は半年が経過し、パレスチナ自治区ガザでは3万3000人以上が亡くなった。イスラエルから戦闘休止と人質解放などに向けた合意案が7日に示され、ハマスの回答を待っている段階だ。

こうした中、ハマス政治部門幹部オサマ・ハムダン氏は、レバノンの首都・ベイルートで、FNNのインタビューに応じた。オサマ氏は、レバノンにあるハマスの事務所で世界に向けて会見も行うなど、政治部門幹部でもありスポークスマンの役割も担っている。インタビューの全文を公開する。

「イスラエルの合意案は受け入れられない。今週中にハマスの案を回答する」

現地の報道によると、イスラエルが示した合意案の内容は6週間の休戦を行い、その間にハマスが人質40人を解放するのと引き換えに、イスラエルが拘束しているパレスチナ人最大900人を釈放するというもの。しかし、オサマ氏はこの案を拒否したと明らかにした。

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(Q.7日にカイロで休戦に向けた交渉が行われ、イスラエル側からの提案にハマスが回答するのを待っているという状況だが、どのような回答をするのか)
ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
実のところ、イスラエル側が提示した提案は、パレスチナに求められるものにはまだ達していない。ガザ地区からのイスラエル軍の撤退も停戦も盛り込まれていない。避難民を故郷ではなく、イスラエル軍が選んだ地域に帰還させることを条件としている。
私たちはイスラエルの提案を研究し、私たちが何を望み、何を受け入れることができるかを正確に明記した回答を提供するつもりだ。イスラエルの案はパレスチナとしては拒否するため、この提案に対処することはできないと、仲介役に伝えた。

(Q.ハマスとしての案を提示するのか)
ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
3カ月にわたる交渉の後、イスラエル政府のトップは合意に達する気がないのは明らかだ。われわれは、すでに1月中旬に合意案を示し、3月中旬には2回目の合意案を示している。イスラエルはこれらの提案に応じず、まったく別のメッセージを送ってきていて、合意に達する気がないことを確認している。

(Q.ハマスとして、いつまでに案を回答する)
ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
われわれは、8日にイスラエルの合意案を受け取ったが、数日間検討する必要がある。特に、ガザ地区で戦っているハマスなどと協議しているため、おそらく今週末までには我々の回答が準備され、仲介役に届けられるだろう。

「ガザ地区での作戦停止」「市民の帰還」「捕虜交換」3つがなければ合意しない

オサマ氏は、近く回答する合意案にハマス側が「何を望む」のかを、正確に明記すると断言した。仮にハマスが回答すれば、この案をイスラエルが受け入れることができるのかが焦点となるが、双方の隔たりは大きいままだ。

(Q.ガザ地区では今も多くの市民が亡くなっているが、ハマスにとって戦闘休止に合意するために必要な条件は何か)
ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
私たちにとって、いかなる合意においても認められなければならない3つの条件がある。 第一は、イスラエル軍の軍事作戦の完全停止であり、これには作戦の停止、上空からの飛行の停止、イスラエル軍のガザ地区からの撤退が含まれる。第二に避難民の帰還、支援と復興。そして第三は捕虜の交換である。これら3つは互いに完全にリンクしていると私たちは考えており、これら3つが全体として盛り込まれなければ、合意に達することはできない。

(Q.交渉の最中、イスラエル軍が7日、ガザ地区南部ハンユニスから地上部隊を撤収したが、このことにどう考えているのか)
ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
この撤退は、停戦とは何の関係もない。イスラエル軍による戦術的撤退であり、イスラエル軍が撤退した後に再び攻撃することを意味する。私たちは停戦を伴う最終的な撤退を望んでいる。イスラエル軍が望む通りに事態が推移し、どのような形であれ攻撃されることを受け入れることはできない。

南部ラファへ侵攻すればできる限り自衛する。そして「ハマスが勝利し、占領は終わる」

現在、ガザ地区南部ラファには多くの市民が避難していて約150万人が生活している。しかし、イスラエルのネタニヤフ首相はハマスの部隊がいるとして、ラファへ地上侵攻する意思を再三示していて、世界各国からは多くの犠牲が出ることへの懸念の声があがっている。

(Q.イスラエルのネタニヤフ首相は8日、改めてラファに侵攻する考え、そして日にちは決まっているとの声明を出したが、どう受け止めているか)
ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
彼はガザ地区への侵攻の意図を隠さなかったし、殺戮の意図も隠さなかった。国防相はガザ地区の市民に食料と水を与えず、インフラを破壊すると言うなど、民間人を標的にする意図を隠すことをしていない。

(Q.ハマスはイスラエルとの戦闘に勝てるか)
ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
われわれはラファへの侵攻を防ぐために外交ルートを通じて努力しているが、仮にラファへの侵攻が行われれば、パレスチナ人ができる限り自衛するのは当然のことだ。私はパレスチナの人々がイスラエルに勝利し、占領が終わると信じている。そしてハマスがこの勝利を導く存在になることを願っているし、私たちはそうなるよう努力している。

「我々が関知していない市民が連れ去られ人質に」「人質に関する情報は、今はない」

今回の戦闘開始のきっかけは2023年10月7日のハマスによるイスラエル急襲である。イスラエル側で市民も含む約1200人が死亡、200人以上がガザ地区に連れ去られ人質となったが、オサマ氏は意図的に人質を取ったわけではないと否定した。

(Q.2023年10月7日、ハマスがイスラエルを襲撃した際にイスラエル軍の兵士だけではなく、市民も殺害し、また人質に取るような作戦を行う必要があったのか)
ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
私たちは、イスラエル軍の陣地に対して大規模な軍事作戦を実施し、ガザを包囲していたイスラエル軍の師団が崩壊し、多くの人々が入植地に向かうようになり、その結果、私たちが関知していなかった民間人が連れ去られることになった。私たちはこの問題に取り組み始め、これらの民間人を回収し、何人かは家族のもとに戻された。
しかし、イスラエル軍の作戦が開始されたため、残りを戻すことはできず、一部はガザ地区内に閉じ込められたままになっている。ハマスが主導してきた抵抗活動の歴史では、常にイスラエル軍や兵士、イスラエルの軍事・治安組織との対決を重視している。

(Q.ガザ地区にいる100人以上人質はどのように生活しているのか?安全は確保できているのか)
ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
まず、ガザ地区での戦争の現実を知っていると思うが、この点に関する情報はない。また民族全体が絶滅の対象となった場合、捕虜の数を尋ねても意味がないので、それについては尋ねていない。しかし、一般的な枠組みとしては、可能な限り人質の面倒を見ている。
一方で、イスラエルに拘束されているパレスチナの囚人たちは、対照的な対応を受けている。刑務所に勤務していたイスラエルの医師は最近、内務相と法務相に書簡を送り、パレスチナの囚人の多くは、プラスチック製の拘束具のせいで手足が切断され、拷問で死亡した囚人も多数いると述べている。これは、パレスチナ人が刑務所で苦しんでいることに、良心が耐えられなかったイスラエル人医師の証言だ。

(Q.イスラエルが、シリアにあるイラン大使館の建物を空爆したとみられている。イランがイスラエルに報復を宣言しているが、どのように考えているのか)
ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
イラン側は公式に、外交官の免責や外交施設の免責を扱う法律や、ウィーン条約に違反するこの犯罪に報復すると発表した。イラン側の経験では、侵略に報復すると言えば、本当に報復する。重要な問題は、なぜ世界は少なくともこの犯罪を非難するために動かなかったのかということだ。これはシリアへの攻撃であり、イランへの攻撃である。安保理はこの犯罪を非難する声明を出すことができなかった。世界は何を待っているのだろうか? この状況は、国際システムが国際的な安全保障と安定を達成する上で、もはや有効でないことを明確に示していると思う。それどころか、アメリカの政権は世界を混乱に導いている。この状況は、アメリカの政権とイスラエルにとって、確実に悪い結果をもたらすだろう。

「パレスチナ問題を対処しなければ、世界が大きな戦争に巻き込まれる」

(Q.最後に世界が即時停戦を願っているが、イスラエルや世界に伝えたいことは)
ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
願うことは良いことだが、行動が必要だと私は世界に伝えている。イスラエルは国際法を尊重しない国家だ。イスラエルは安全保障理事会でも国連総会でも、国連決議を何一つ履行していない。イスラエルがパレスチナ占領地から撤退することを定めた明確な国際決議がある。世界はパレスチナ人に対する侵略を止めるだけでなく、パレスチナへの占領を終わらせ、パレスチナ人に自決権を与え、パレスチナが完全な主権国家を樹立し、どのように統治するかを決めるために、動かなければならない。

ハマス政治部門幹部 オサマ・ハムダン氏:
また私たちパレスチナ人は、誰に対しても侵略を始めておらず、1948年に英国がイスラエルを援助し、私たちの土地を占領したことから侵略が始まったということである。パレスチナ問題やその他の問題への対処において、国際システムが失敗を繰り返していることは、世界が大きな戦争に巻き込まれ、広い範囲に火と破壊が広がることを警告しているのです。このことを理解しなければならない。最後の問題は、主要な世界大戦の原因が、実際には問題に対処する国際システムの失敗であったことを、誰もが覚えているということだ。
イスラエルによる占領を終わらせることは、パレスチナ人にとっての成功であるだけでなく、世界を守り、安全と安定を守る国際システムを肯定することである。

今回のインタビューで印象的だったのは、ハマスは交渉に前向きだが、ガザ地区からの撤退など、ハマス側が求めている条件が盛り込まれなければ合意できないと強調していたことだ。ハマスせん滅を目指しているイスラエルとは真逆の主張であり、戦闘休止への道筋は見えず、ガザ地区にいる市民の犠牲が、さらに増えることが懸念される。
【取材・執筆:FNNイスタンブール支局長 加藤崇】

加藤崇
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