新年度、企業に「賃上げ」の動きが広がっている。円安などを背景に大企業が業績を伸ばす一方、中小企業までその動きが広がるかどうか、注目されている。物価の上昇が続く宮城県内にもその恩恵は届くのか。

大企業中心に高まる「賃上げ」の機運

1万2千円の賃上げを実施するアイリスオーヤマ
1万2千円の賃上げを実施するアイリスオーヤマ
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年齢や勤続年数に応じて給与が増える「定期昇給」と基本給の水準を上げるベースアップ、いわゆる「ベア」。昨今、政府の後押しもありながら、大企業を中心に賃上げの機運が高まっている。宮城県内の企業でも、生活用品大手のアイリスオーヤマがおよそ4400人の社員を対象にベースアップを含めて月額およそ5%、1万2千円の賃上げを実施。
東北電力も16年ぶりに、平均で月額およそ1万700円のベースアップに応じた。

中小企業でも賃上げ実施…実態は

48%が賃上げを実施も、業績の改善はみられていない企業が多い
48%が賃上げを実施も、業績の改善はみられていない企業が多い

一方で、国内の全企業のうち7割を占める中小企業への波及は不透明なままだ。
2023年秋、仙台市などの調査では、市内で賃上げを「実施する」とした企業は48%。そのうち、「業績の改善がみられないが賃上げを実施」という人材流出を防ぐことを目的にした「防衛的賃上げ」は全体で一番多い33%を占めた。多くの企業が高騰する光熱費や材料費に利益を圧迫される中で、苦しい経営判断を迫られている実情が明らかとなった。

技能に応じた昇給…中小企業の給与事情

プラスエンジニアリング(宮城県村田町)
プラスエンジニアリング(宮城県村田町)

そんな中、宮城県内の中小企業は、取引先である大企業との価格交渉に活路を見出そうとしている。約90人の従業員が働く村田町の「プラスエンジニアリング」。
精密備品などを生産しているこの企業の強みはオーダーメードのモノづくりだ。
取引先から依頼を受け、年間約1万から2万種類の製品を製造しているが、一つの注文あたりの平均ロット数は8個という、多品種少量の戦略で業績を伸ばしている。

繊細な加工に定評があるプラスエンジニアリング
繊細な加工に定評があるプラスエンジニアリング

高い技術力を誇り、取引先は国内外の大企業を含む400社以上にのぼる。
ここ30年ほどベースアップを実施してこなかったが、国家技能検定を取得するたび、月給に1万円から2万円を加算する制度を設け、技術者のモチベーション維持に努めてきた。

「努力した結果、給料が上がるのはうれしい」と話す坂本さん
「努力した結果、給料が上がるのはうれしい」と話す坂本さん

生産部門で働く入社4年目の坂本さんは、去年から今年にかけて2つの資格を取得し、月給は3万円ほど増えたという。
坂本さんは、「基本給のベースアップがうれしいのはもちろんだが、資格の技能給のほうが上がる幅も大きく、頑張った結果として給料が上がるのがうれしい」と語る。

活路は「価格交渉」中小企業に迫られる経営判断

若手の育成に成功する一方、会社側は、長期的な人材確保のためには「ベースアップは必要」と考えている。
2023年10月から取引価格を8%値上げし、今年度から来年度にかけて10%ほどのベースアップを検討している。値上げ分をベアの原資とする思惑もあったが、現実は厳しく、ほとんどが光熱費と材料費に消えていくのが現状だ。
賃上げに回すためには、将来投資の部分から削らざるをえないという
取引先と交渉を続けるか、将来に向けた投資を控えるか…難しい経営判断を強いられている。

「中小企業の犠牲のもとに大企業の収益が…」

地域経済の専門家 田口庸友さん(七十七リサーチ&コンサルティング)
地域経済の専門家 田口庸友さん(七十七リサーチ&コンサルティング)

「賃上げ」を取り巻く多くの中小企業の現状について、地域経済の専門家で七十七リサーチ&コンサルティングの田口庸友さんは、
「人材確保に向けて取り組んでいかないといけないが、無い袖は振れないということで、賃上げの原資を確保できなければ経営を続けていけない」と訴える。
その上で、「中小企業の価格を据え置いた収益の犠牲のもとに大企業の収益が生み出されている面もある。これを適正に分配し直す取り組みは必要」とし、
地方の中小企業がベースアップを実現するためには、「付加価値を高めた商品の開発・供給」をもとにした「適正な価格転嫁」がカギになると指摘した

連合が今年3月22日に発表した、今年の春闘の賃上げ率は従業員1000人以上の大企業が5.28パーセントに対し、中小企業は0.78ポイント下回る。
物価高騰に見合った賃上げを実現するために、社会全体で考えていく必要がある。
(仙台放送)
 

仙台放送
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