空気が乾燥する冬の時期に多い火災。消防は再発防止のため出火原因を調べるが、火災調査のスペシャリストが、そのノウハウを教えてくれた。一般家庭でも起こりがちな、コンセントのほこりが原因となる火災の実証実験をして解説だ。

原因不明の火事をなくすために

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消防庁のまとめによると、静岡県内で2023年1月から9月の間に発生した火災は711件。このうち原因不明や調査中の火災は72件で、約1割を占める。
火災を未然に防ぎ予防していくために、日々 原因の調査に奔走する消防士がいる。消防士歴13年 静岡市消防局予防課火災調査係の近江達彦消防司令(38)だ。

近江さんは「調査をする上で原因を決めて入ってしまうと、その原因がなかった場合どうしようということになってしまうので、視野を広く持って、いろいろな原因と考えられるものを落とさないようにすることが大事」と、調査の心構えを話す。

橋げた補修作業中に火災 11人死傷
橋げた補修作業中に火災 11人死傷

近江さんは静岡市内の消防署を経て消防庁の消防研究センターに出向。主任調査官として2年間 火災調査に関する知識と技術を学び、2024年3月現在は静岡市消防局の火災調査係として勤務している。
2019年11月 静岡市駿河区の東名高速で橋げたの補修作業中に発生し11人が死傷した火災。近江さんは実況見分や鑑識作業を担当した。

大規模火災で出動 火災調査車両

こうした大規模な火災の現場に出動する時に使用するのが、専用の火災調査車両だ。車内には現場の状況を整理し原因につながる手がかりを探るための機材が積まれている。

火災現場
火災現場

木造の建物が焼けると木くずが重なったり、壁のモルタルが崩れたりして、堆積物がかなり多い。そのため火災調査車両には発掘に使う資機材を搭載している。

火災専用車両の装備品
火災専用車両の装備品

持ち運び型のマイクロスコープや樹脂を溶かして分解するためのヒートガン、それに超音波カッターなどだ。

建物がすべて燃えて焼け跡の形がわからないような時にはその場で図面を作る。関係者から話を聞いて、もともと部屋がどんな状態だったのか、何が置いてあったのか再現する。タバコなど火元になりそうなものは赤で、電化製品は青で色づけし、少しずつ火元の状況を明らかにしていく。近江さんたちはこの図面で火災前の部屋の状況を頭に入れ、焼け跡の現場に入る。

コンセントのほこりで出火

電気ストーブのコンセント火災を再現
電気ストーブのコンセント火災を再現

一方で、現場の調査だけでは原因が特定できないこともある。近江さんは 日々 火事を想定した検証実験を行い、原因調査の精度を高めている。
実際に検証実験をもとに原因調査を再現してもらった。場所は、静岡市消防局が県内で唯一 設けている火災調査室だ。現場から持ち帰った手がかりを元に、火災の原因を調査する施設だ。

検証実験では延長コードと電気ストーブが用意された。コンセントとプラグの間には大量のほこりがたまっている。

コンセントから出火して10分後
コンセントから出火して10分後

火が出てから約10分で燃え広がり、ストーブの脚が溶けて倒れた。
ほこりが湿気を帯びてプラグの刃の間で火花放電を繰り返しやがて出火する、いわゆるトラッキング現象。このトラッキング現象による火災を想定し、焼け跡から電気的な異常があったことを証明するための証拠を探す。

なぜわかる?火災の原因

火災調査室でX線透過装置に
火災調査室でX線透過装置に

燃え残った電気ストーブをX線透過装置に入れて、目に見えない内部の異常を探ると、先端が丸くなっているものが確認できた。

焼けたストーブのX線画像 コードの先端が球状
焼けたストーブのX線画像 コードの先端が球状

近江さんは、「丸くなっているものは電気が原因で溶けたと考えられる。一瞬にして高温になって溶けるので球状になる」と教えてくれた。

原因究明のためストーブを解体
原因究明のためストーブを解体

他にも電気的な異常をうかがわせるものがないか探す。異常があったと思われる場所を傷つけないように、周辺の炭化物の解体に取りかかる。ヒートガンを使って周りの樹脂を溶かしながら、電気配線がどのように配置されていたのかを明らかにしていく。

コードの切断面にも原因の痕跡
コードの切断面にも原因の痕跡

そして延長コードの切れている部分で、先端が丸く光沢のある球状の痕跡を見つけた。近江さんは「これは電気的にスパークした痕跡。その周りについていた樹脂にも(球状の)粒々が小さくある」と言う。

0.5ミリの粒も見逃さない
0.5ミリの粒も見逃さない

測ってみると粒々の直径は約0.5ミリで、肉眼でかすかに見えるほどの大きさだ。近江さんは「これ1個探すのに現場でみんなで血眼になって探すこともあります」と現場の苦労を話す。

コンセントの差し刃
コンセントの差し刃

さらに、延長コードのタップからは、差し刃が折れた状態で発見された。こちらも顕微鏡で拡大してみると、曲線を描いて折れているのが確認できる。
近江さんは「溶けだしたような跡があるので、そこに熱がかかって折れたと考えられる」と分析する。電気的な異常が発生したことを裏付ける確かな証拠を見つけ出すことができた。

「火災で悲しむ人を減らしたい」

火災調査係の上司と
火災調査係の上司と

ともに火災調査係として活動する上司は、「火災調査に関して静岡市消防になくてはならない存在。プロフェッショナルな域に達していて、必ず何かの原因を見つけ出してくれる心強い部下」と、近江さんに大きな信頼を寄せている。

近江さんが大切にしているのは「火災で悲しむ人を減らしたい」という思いだ。

静岡市消防局・近江達彦消防司令:
火災が発生した理由を、火元の方は気になると思う。なぜ火災が起きたのか、これからどうすればいいのかと。そういう心情も考えて、原因の究明がなるべくできるように尽力している。次の火災が防げるような広報などもしていけたらと思う

静岡市消防局に火災の原因を特定するための知識を持った火災調査係は、近江さんも含めた3人。年間 約80件の調査依頼がある。
「やり直しがきかない作業であると同時に、現場に残された残留物には必ず出火の原因につながる要素があり、可能性を1つ1つ当たっていくことが大切」
近江さんはこうした思いを胸に、火災の原因調査にあたる。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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