新生活が始まるタイミングに、おろそかにしがちなのが朝食だ。

日本の朝食習慣をサポートするカルビー株式会社が3月、日本人の朝食習慣について実態を捉えるため、全国を対象に「朝食に関する意識調査」を行い、その結果を発表。

この調査から、朝食をかんで食べることは脳の目覚めをよくする傾向があり、朝食を毎日食べる人のほうが、食べない人よりも朝の起床時の体調に問題がないということが判明。

また、朝食をかんで食べる人のほうが、かまない人に比べて起床後の脳の働きを早める傾向があることわかった。

また朝食習慣は、幼少期から習慣を維持してきた人であっても、一人暮らしが始まるタイミングで崩れることが多く、長期間に渡り朝食欠食に陥りやすい傾向にあることも。

なぜ、朝食を食べ、そして、よくかむことが大切なのか。

今回の調査結果にコメントを寄せた自然科学研究機構 特任准教授の坂本貴和子先生と、「よくかむ」ことを意識した食品を多く生み出しているカルビー株式会社マーケティング本部・柳井秀政さんが、きちんと朝食をとることの大切さと、かむことが脳の活性化をうながすメカニズムについて対談した。

朝食はしっかり食べてよくかもう

(左から)自然科学研究機構 特任准教授の坂本貴和子先生、カルビー株式会社マーケティング本部・柳井秀政さん
(左から)自然科学研究機構 特任准教授の坂本貴和子先生、カルビー株式会社マーケティング本部・柳井秀政さん
この記事の画像(10枚)

「朝食に関する意識調査」はカルビーが18歳~69歳の男女1880人を対象に、インターネット調査を行ったもの。

毎日朝食を食べている人の約半数(57.4%)が「朝の起床時の体調に問題がない」と回答。

さらに朝食を「よくかむ」と回答した人の約8割(81.1%)が「起床後1時間以内で脳が起きている」と答えている。

この調査から、柳井さんは「“咀嚼(そしゃく)”が脳を目覚めさせる可能性があるようです。1日のパフォーマンスを高めようと思えば、朝食で“よくかむ”ことが重要なのでしょうか」と朝食を食べ、かむことの大切さについて坂本先生へ疑問を投げかけた。

坂本先生はこの調査結果を受けて、こう見解を述べる。

「朝、決まった時間に起き、きちんと朝食を食べる習慣のある人が“高いパフォーマンス”を発揮できるというのは、肌感覚としてよくわかります。

今回の調査結果は、あくまでアンケートを答えてくれた人の主観に基づくものです。

私たちが普段行う実験は、客観的な指標に基づき効果を確認する必要がありますが、今回の調査で興味深いのは、たくさんの咀嚼を必要とする“歯ごたえのある食事”を摂られる人が『ハイパフォーマンスを発揮する』と答えたことです。

実は、咀嚼によって脳の活性化が起きる可能性を示した結果が、我々の研究グループが行った実験からも出ています」

「かむ」ことが脳を目覚めさせる!?

自然科学研究機構 共創戦略統括本部 特任准教授 坂本貴和子先生
自然科学研究機構 共創戦略統括本部 特任准教授 坂本貴和子先生

“歯ごたえ”の面では、ポテトチップスのパリッとした食感や、フルーツが入ったグラノーラのザクザクとした食感など、食感にこだわった商品を生み出してきたカルビー。

そこで、柳井さんが“よくかむ”ことの効果について聞くと、坂本先生は「かむ」という動作が脳の目覚めの要因になっている可能性について触れた。

「たとえば車や自転車などを運転している時に、横から人や動物が飛び出してきたとします。この場合、みなさんできるだけ早くブレーキをかけますよね。

これまでとは違った事象が起きてから、何らかの反応をするまでの時間を『反応時間』と言いますが、第一に、咀嚼にはこの反応時間を速める効果があります。

私たちは実験の中で、何らかのこれまでとは違った刺激を受けた際の脳活動(脳波)と、それに伴う反応にかかる時間が、かむことによってどう変化するか調べました」(坂本先生)

脳波でみられる反応の一つに「P300」というものがある。

例えば、ヘッドホンから小さな音で静かな音楽が流れている時、突然電話の呼び出し音が鳴ると「お!」っと思うことは、誰しも経験があるだろう。

このように、これまでとは違った刺激を受け取ったときの脳波を測定した時に現れる、刺激から約300ミリ秒(0.3秒)後に大きな下向き(陽性)の波が「P300」である。

坂本先生によると、咀嚼によってP300の出方は速くなるという。つまり、咀嚼によって脳の反応も速くなるのだ。

「咀嚼の際は、かむことによる音の刺激、味の刺激、匂いの刺激、目からの食品を見る刺激、唾液の流出、口の中の食べ物の刺激、顎の運動による刺激など、さまざまな刺激が複雑に重なり合って脳に入ります。

咀嚼のように五感をフルで刺激する運動は、他の運動に比べて脳を効率的に活性化させるのかもしれません」(坂本先生)

「かむ」ことで“起脳スイッチ”がオンに

カルビー株式会社マーケティング本部 柳井秀政さん
カルビー株式会社マーケティング本部 柳井秀政さん

次に柳井さんは、かむこととパフォーマンス向上の関連性について坂本先生に質問。

今回の調査では、朝食をよくかむ人の3人に1人(37.3%)は「仕事の目標を達成している」という回答もあり、パフォーマンス向上を実感している人もいる。

「P300の動向は、モチベーションの客観的な評価指標になります。たとえば仕事に飽きたり、疲れて眠くなったりするなど、いわゆるモチベーションが下がった状態になるとP300のピークの出現は遅れて、また波も小さくなります。

我々の実験では、合間に5分間の咀嚼を行うことでP300の出方(潜時)が早くなることがわかりました。さらに刺激に対する反応時間も調べたところ、咀嚼をすることで反応が速くなることがわかっています。

面白いことに、別の実験の結果では、パフォーマンスの精度を維持する効果があることがわかっています。

脳を覚醒させるメカニズムを『起脳スイッチ』と呼ぶなら、アンケートで『仕事の目標を達成している』と答えた、朝食をよくかんでとる人たちは、咀嚼によって効率的に起脳スイッチをオンにする生活習慣を獲得しているのかもしれません」(坂本先生)

では、どうしたら生活の中によくかむ時間を取り入れることができるのか。

坂本先生はこんなアドバイスをくれた。

「まずは朝食を含め、食事の時に『かみごたえのある食品』を選ぶことが大切です。

すぐに飲み込めるものではなく、しばらく『かみ続けることができるもの』を選ぶとよいでしょう。ただ、無理に硬いものをかめばいいというものではありません。

覚醒を促す上で大切なのは、【1】ある程度持続してかむことができること【2】無意識でかみ続けることができること、の2つです。

かみ方は、年齢や顎の状態、口の中の状態など、人それぞれ違います。痛い思いをしてでも無理矢理硬いものをたくさんかもうとすることが正解ではありません。

口の状態や成長などに合わせ、意識せずともよくかむことができる食品を選び、一日の中に取り入れてみてください。

ただ、朝食でよくかんだからといって、終日その効果が持続するわけではありません。3食それぞれで『食感や歯ごたえのある食品』を意識して選んでみてはいかがでしょうか」

「『かむ』といっても、無意識的に行うことが重要なのですね」とうなずく柳井さん。

坂本先生は「大抵の食品は、無意識に『かむ』運動を続けることができます。

一方で、たとえば口に食べ物を入れずにただ顎を動かすだけの運動やジュースや水などかんだとしても、咀嚼は意識的になります。

この場合、これまで述べてきたような咀嚼の効果が表れないことが実験からわかっています」と続けた。

かむことは「起脳スイッチ」をオンにする最小限の運動

柳井さんは、食事の彩りにも着目。

「1日の間になるべく多くの彩り豊かな食材を食べることも意味はあるのでしょうか」と質問すると、坂本先生は「あると思います」とし、五感を刺激することが大事だと話す。

「私たちが計測したP300は、脳がそれまでの刺激とは違った『お!』という刺激を認知・判断・処理する過程で現れるものです。

さまざまな食材が入った食事をすれば、食感だけでなく味覚や視覚、聴覚などからも『お!』という刺激を受け取りやすくなるでしょう。

見た目も食感も変化の乏しいものより、五感が刺激される方がモチベーションも上がりますよね」(坂本先生)

また、咀嚼は最小限の動作で五感をフル活動させる、とても優れた運動であると続ける。

「私たちの体が受け取る感覚刺激は、脳幹網様体賦活系という、脳の覚醒を維持する脳内機序を賦活化します。

咀嚼は、座りながらでも、もっと言えば朝出かける準備をしながらでもできる運動であり、非常に多くの感覚を刺激します。

だからこそ咀嚼は、脳を活性化する運動として日常の中に取り入れやすいです。私は、我々が日々当たり前のように行っている咀嚼とは、人間が進化の過程で手に入れた奇跡の産物なのではないかとすら考えていますよ。

咀嚼は、最小限の労力で多岐にわたる複雑な刺激を脳に与えられます。

覚醒にかかわる脳幹網様体賦活系をわかりやすく『起脳スイッチ』と呼ぶのであれば、咀嚼は最も効率的に『起脳スイッチ』をオンにすることができる運動かもしれません。これほど効率的な行為はないのではないでしょうか」(坂本先生)

この対談を受け、柳井さんは最後に展望を述べた。

「私たちカルビーも、おいしく、楽しくといった価値をお客さまにお届けしようと日夜奮闘しています。

朝から咀嚼ができる商品を作っていくことの重要性を、学ばせていただいたので、商品開発に生かしていきます」