2023年、岩手県産の小麦から基準値を超えるカビ毒が検出された問題について、この小麦を原料に商品を製造していた二戸市の老舗せんべい店では、風評被害によって受注が激減する厳しい状況が続いている。
「ナンブコムギ」から基準値超えるカビ毒
問題は2023年11月に公表された。
JA全農いわてが販売していた県産の「ナンブコムギ」から、基準値を超えるカビ毒が検出されたのだ。

JAでは、農薬の散布が一部で適切な時期ではなかったことや、荷受量が集中し、小麦の乾燥に時間がかかったことなどが原因としている。

重い健康被害は確認されていないものの、この小麦を含んだ食品は各地の給食で提供され全国的な問題となった。
風評被害により売り上げが半減
岩手・二戸市にある創業97年の老舗煎餅店「志賀煎餅」。

原料はナンブコムギにこだわり、噛めば噛むほど甘みが広がる南部せんべいの製造・販売を続けてきた。
小麦から基準値を超えるカビ毒が検出された問題の発覚から2カ月を過ぎた今も厳しい現実に直面していると5代目としてこの会社を営む足立裕社長(64)は話す。

志賀煎餅・足立裕社長:
創業以来初めての大事件と受け止めている。

志賀煎餅でもこの小麦を使ったせんべいを47都道府県の学校給食用に出荷し、2024年1月までに約6トンに上る商品が返品され、2000万円分以上の売り上げを失った。
志賀煎餅・足立裕社長:
JAの発表が遅々として進んでいなかった。(取引先に)報告書を書くにしても、何をするにしても大変。
給食用のせんべいが売り上げの半分ほどを占めていた志賀煎餅は、風評被害による深刻な影響を受けている。

給食用せんべいの製造量をまとめた表によると、受注の減少に伴い2023年12月は811kgと、2022年12月(1740kg)から半減している。
1月も1565kgと、2023年1月(3228kg)の半分以下にとどまった。
製造量に比例して、売り上げも半減している。

また、これまで製品を供給していた山口県・新潟県・宮城県・関東の一部では取引が再開していない。
志賀煎餅・足立るみ子専務:
県外の人が普段から南部せんべいを食べないので、「子どもたちに何かあったらどうする」という声はあった。
誤った認識のもとで投げかけられる言葉
志賀煎餅が製品を出荷した段階ではカビ毒は発覚していない。

いつも通り丁寧にせんべいを作っていただけの志賀煎餅だが、「“カビ毒せんべい 志賀煎餅”と、ネットのまとめサイトとかウェブサイトに残る形で載った」など風評被害にも見舞われた。

県外の自治体が学校給食に問題のナンブコムギが使われていたことを公表したウェブサイトでは、志賀煎餅の社名や商品名が記載されている一方、問題の経緯については詳しい説明がなされておらず、結果的に風評被害につながった可能性も考えられる。
問い合わせに対応する足立社長の妻で専務のるみ子さんは、誤った認識のもとで投げかけられる言葉に、胸を痛めていた。

志賀煎餅・足立るみ子専務:
「どうしてカビが生えたせんべいを売ったんだ」という声もあった。そういうことを言われると、ちょっと切なかった。
おいしいせんべいを作り続ける志賀煎餅
こうしたカビ毒問題を巡る被害への補償について、JA全農いわてでは、岩手めんこいテレビの取材に対し「現在、各事業者から聞き取りをして損失額の確定を進めていて、今後支払いに向けた作業を行っていく」とコメントしている。

志賀煎餅では、店頭を含む県内での販売量は2023年から変わっていないと言うが、売上の柱を一刻も早く回復させるため、足立社長は1月から県外の学校給食会に説明に出向くなど、信頼回復に奔走している。
志賀煎餅・足立裕社長:
かやきせんべいを焼くときは、おいしくなれ、おいしくなれみたいな感じで。

また、従来以上に検査が徹底された安全な小麦だけを使い、せんべいの製造も本格的に再開した。
先の見えない厳しい状況は続いているが、「志賀煎餅の南部せんべいが大好きです」といった消費者からの温かな声が、夫婦を支えている。

志賀煎餅・足立るみ子専務:
「誹謗中傷があると思うけど、絶対に負けないで」と、「またこの商品を見かけたら絶対に手に取ります」と。それを頂いたときに、やっていてよかったって。
志賀煎餅・足立裕社長:
「食べたいからやめないで」という言葉が励みになっている。これからも真面目においしいせんべいを作っていきたい。
自分たちに非はないのに、急に降りかかってきたカビ毒問題、夫婦はそれを乗り越え、再び多くの人にせんべいを届けたい、と日々歩んでいる。
(岩手めんこいテレビ)