ロシアのウクライナへの軍事侵攻が始まって、2月24日で2年。新潟県小千谷市で避難生活を続ける夫婦は、自立をさらに進める一方で、終わりの見えない侵攻が早く終わることを願い続けていた。

軍事侵攻から2年… 避難続ける夫婦

2月10日…ウクライナから小千谷市に避難している、イリナ・シェフチェンコさん(39)と、夫でガーナ国籍のムタル・サリフさん(37)。

ムタルサリフさん・イリナシェフチェンコさん
ムタルサリフさん・イリナシェフチェンコさん
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小千谷駅前の商店街も2人にはすっかり見慣れた景色となった。しかし、終わりの見えない軍事侵攻が2人に暗い影を落としている。

イリナさんは「2年経っても戦争はまだ続いている。ウクライナの大半の人、特に国外に避難した人たちは、もどかしい思いでいる。戦争が早く終わることを待ち望んでいるし、ウクライナの人がこれ以上、命を落とすことがないように祈っている」と話した。

また、サリフさんも「私たちは支持が拡大し続け、ウクライナが自由を獲得し、これまでに国外に出た人々がウクライナに戻る機会を得られることを願っている」と軍事侵攻の早期終息を願った。

自立への歩みを進めてきた2人

2人が成田空港に降り立ったのは2022年5月。ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナから、「おぢや避難民支援の会」のサポートを受け、小千谷市に避難してきた。

サリフさん(当時):
ウクライナから来ました。生まれはガーナ。医者です

イリナさん(当時):
小千谷と寿司が好きです。よろしくお願いします

2022年(提供:小千谷市)
2022年(提供:小千谷市)

2人は小千谷市が用意した公営住宅で新たな生活をスタート。平仮名やカタカナから日本語を学び始めただけでなく、自立に向けた歩みを進めてきた。

サリフさんは「夫婦2人の生活費や、ガーナの家族への仕送りが必要」と2022年秋には、小千谷市の養鯉場で週5日、アルバイトに汗を流し、養鯉場の仕事がなくなった冬には、除雪のアルバイトも経験した。

養鯉場でアルバイト
養鯉場でアルバイト

そして2023年5月。市内の工作機械部品のメーカーで、正社員として採用された。

メーカー社員として仕事に励むサリフさん

それから10カ月…サリフさんは仕事の幅を広げ、会社の戦力に。1000分の1ミリ単位で部品のバランスを調整する「芯出し」の作業にも慣れてきた様子だ。

サリフさんが働くエヌ・エス・エスの関口弘一工場長は「一番私がびっくりしているのは、うちは色んな教育訓練をやるが、サリフはもう日本語で平仮名と漢字を使って報告書を書いてくる。それが感動というか、驚きというか」とサリフさんの働きぶりに驚嘆していた。

サリフさんが書いた報告書
サリフさんが書いた報告書

ウクライナで研修医として働き出した矢先に、軍事侵攻が始まったサリフさん。医師として働く夢は諦めていないが、当面は日本での自立に向け、メーカー社員として技術の向上に励んでいる。

「仕事は大好き。楽しい。以前は指導される内容がよくわからなかったが、今は理解できる。そして最初から最後まで一人でこなすことができる。このレベルまで伸びることができて、とてもうれしく思っている」

現在の在留資格は、日本で1年間働ける「特定活動」で、これを更新している状態だが、今後、制度が改正されれば、長期の就労ビザの取得を希望している。

イリナさんは子どもたちに母国の現状伝える

一方、イリナさんにも大きな変化が…夕方、自宅アパートを出ると、車の運転席に乗り込み、エンジンをかけた。

2023年9月、イリナさんは技能試験などの審査を受け、ウクライナの運転免許証を日本の免許に切り替えていたのだ。

「(夜、暗くて道がわからず)時速40キロくらいで走ったことがある。注意深く道を見ながら。バックミラーを見ると、後ろにたくさんの車がいて、ゆっくり走っていた」と笑いながら話す。

支援の会のメンバーから借りている車で仕事を終えたサリフさんを毎日、迎えに行っている。

一方、変わらず続けていることもあった。それは小千谷市内の小・中学校でウクライナの現状について動画などを見せながら伝える活動だ。

4年生児童:
(一番)被害を受けたのはどこですか

イリナさん:
それはマリウポリ。町は(制圧され)ロシア軍にコントロールされているが、それはもう町ではない。完全に破壊された

深刻な被害を伝えたイリナさんが児童たちに見せたのは、軍事侵攻で親を失った3歳~18歳までの子ども52人を支援する寄宿舎「ザティショクこども村」の様子。

ウクライナの「ザティショクこども村」
ウクライナの「ザティショクこども村」

食事中はにぎやかそうに見えるが、夜になるとベッドの中からは泣き声が聞こえると言う。

「失ったものを取り戻すのは…」

そんなウクライナの現状に少しでも思いを寄せてほしい…イリナさんは「イベントを開いてコースターなどを売る。そのお金でウクライナを支援したい。できる範囲でウクライナの子どもたちを助けたい」と支援者とともに「チームイリナ」を立ち上げて、チャリティバザーなどを開催。

イリナさんが作ったコースター
イリナさんが作ったコースター

支援金を集め、2月までで合計82万円を送っている。

母国への支援を継続する一方で、イリナさんは長く続く軍事侵攻がたとえ終わっても、その先が見通せないことも感じていた。

「(軍事侵攻が終われば)世界の多くの人にとって、大きな喜びとなるだろう。でも戦争が終わっても、ウクライナが失ったものはとても大きくて、それを取り戻していくのは非常に難しいと思う」

軍事侵攻から2年…心の中に大きな葛藤を抱えている2人。それでも、多くの人と関わりながら手を取りあって歩いて行く。

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
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