高知県の室戸地区に伝わる言い伝え「土佐でこわいは横目かシラか」。この一見、意味が全くわからないことわざを調べていくと、驚きの新事実が判明した。

地元の人もわからない“ことわざ”

海の安全を守る高知海上保安部の広報誌「海の暦」の中には、天気のことわざが書かれている。その中で、室戸地区に伝わる、「土佐でこわいは横目かシラか」というなんのことやら全くわからないことわざがある。

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ことわざの発祥地とされる高知・室戸市。
室戸岬町の港で漁業関係者に「土佐でこわいは横目かシラか」という言葉を知っているか聞いてみた。

ーー「土佐でこわいは横目かシラか」ということわざを知っている?

漁協職員:
ちょっと分からないです。

漁師歴40年のベテラン:
いや、分からへん。恥ずかしい。

地元住民30人に聞いたところ、知っている人はまさかのゼロだった…。

例の“ことわざ”知る者現る

行き詰まっていると、住民から「知っている人がいる」との情報が。

室戸で生まれ育って90年の小松明生さん。
小松さんは若い時から知っているそうで「土佐でこわいは横目かシラか。『横目』言うたら『巡査』のこと」と教えてくれた。

「横目」は横目付とも言い、戦国時代に不正を摘発した武家の職名を指し、今の警察にあたるという。

では、「シラ」とは何を指す言葉なのだろうか。

小松さん:
「シラ」は西からの突風のこと。昔は船も全部ひっくり返るぐらい風が吹いた。白波が立つから「シラ」と言う。

小松さんによると、「シラ」は11月から3月にかけて西から吹く突風のこと。「シラ」が吹くと海は大しけとなり、漁船が転覆する被害も出たという。

小松さんの父親・兄・弟の3人も「シラ」の高波に流されて亡くなっているそうで、子どもながらに「シラ」が怖かったそうだ。

室戸市民にとって恐怖の「シラ」について、ウェザーマップ・鈴木悠気象予報士に聞いた。

ウェザーマップ・鈴木悠気象予報士:
西高東低の冬型の気圧配置になるときは、四国地方は北西からの風が強まりやすい。北西からの風は、とおせんぼするものがない。周防灘から豊後水道を抜けてくる。風が、太平洋に抜けた後は、北西からの風が西寄りに変わっていく。
これが室戸付近に強い西風をもたらして、海上では波が高くなる。これがおそらくシラだと考えられる。

実際に、室戸では2023年11月18日、冬型の気圧配置の影響で西からの風が強まり、最大瞬間風速21.7メートルを観測。暴風警報が発表された。

ウェザーマップ・鈴木悠気象予報士:
最大瞬間風速20メートル以上になると、何かにつかまっていないと立っていられなかったり、波の高さだと3メートル以上になると考えられ、船もかなり危険な状況になる。これからの時期もかなりシラには注意が必要。

当時の子どもたちの恐怖の存在「センチ」

さらに、このことわざには、驚きの続きがあることがわかった。

小松さん:
土佐でこわいは横目かシラか まだまだこわいは津呂のセンチ。

津呂はかつて、遠洋マグロ漁が盛んだった地区。そして、“センチ”とは「便所」のこと。

水洗トイレのない時代に使われた汲み取り式の通称「ボットン便所」は、当時の子どもたちには恐怖の存在で、小松さんも底に落ちそうで怖かったと話す。

大人用のボットン便所では、子どもは足を大きく広げるつらい姿勢になるため、板を置いて、足場を確保していた。それでも、万が一落ちると、母屋から離れているため気付かれないという恐怖もあった。

つまり、昔の室戸の人たちは、巡査やシラよりも、ボットン便所が怖かったということわざだった。

また、ことわざに登場する「横目」、つまり、室戸の巡査は怖いのか、地元の長老に聞くと「昔の警察官は怖い印象だったが、今は違う。例えるなら友人のような存在だ」と話していた。

(高知さんさんテレビ)

高知さんさんテレビ
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