ロシアの反プーチン派の急先鋒、反体制指導者のナワリヌイ氏が収監中に突然、死亡したと発表された。これは本当に病気などによる突然死なのか、それとも暗殺なのか、今後の影響など、ロシア問題の専門家、筑波大学名誉教授の中村逸郎さんに詳しく聞く。
■ナワリヌイ氏の活動を容認していた理由は「反プーチン勢力のあぶり出し」

ナワリヌイ氏の広報担当者からは、「殺された」という声もあがっているが、ナワリヌイ氏が亡くなった理由をどうみているのか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:私は暗殺の可能性が非常に高いと思っています。すでに6カ月前から、ナワリヌイさん支持者から、暗殺されるんじゃないかという危惧の声がずっと広がっていました。実はナワリヌイさんが亡くなったことで、真相解明を求める嘆願書が、連邦政府にどんどん秒単位で送り込まれているそうです。ナワリヌイさんが収容されていたシベリア極北の刑務所に、実は私、行ったことがあります。1月半ばだったのですけれども、マイナス45度。もう寒くて、寒くて、呼吸ができない。あまりの寒さで樹木が生えないような所に刑務所があります。例え病気になったとしても、医療機関がない。そんな所にナワリヌイさんは、送り込まれていたということです。
非常に厳しい環境で、活動もかなり制限されていた状況の中で、暗殺されたということであれば、理由は何だろうか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:プーチン政権からすれば約10年間、ナワリヌイさんの動きを半ば容認してきたわけです。ナワリヌイさんの動きを容認することによって、反政府・反プーチンの人々をあぶり出していくということを、この10年間、プーチン政権はやってきました。ここにきてプーチン政権は、ナワリヌイさんを利用する目的を達成したと思って、暗殺した可能性が高いです。
■ナワリヌイ氏の集会 参加者の身元や職場がAIで分かり上司が追及する流れに

プーチン氏が暗殺したという事だろうか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:そうですね。少なくともプーチン政権、そしてプーチン個人も、最終的な暗殺を決断した可能性が高いと、私は思っています。
反プーチン派をあぶり出すというのは、どのように行われたのだろうか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:例えば、これまで何度もナワリヌイさんが呼びかけた集会が行われてきました。そこに市民たちが集まって、プーチン政権、特に治安部隊は参加者の顔をずっと写真に撮ってきました。その写真を通して、誰が参加してきたのか、解明するというAIをロシアは持っていますので、身元がわかる。ID番号や住所、職場がわかる。そして職場に通報して、あなたの従業員の、この人が参加しているということで、上司たちが追及していくという流れがでてきていました。
■ナワリヌイ氏の遺体は所在不明…葬儀が反プーチン集会になることを危惧か

反体制指導者のナワリヌイ氏(47)は、野党指導者で、プーチン批判の急先鋒といわれており、市民からは支持されていたのだろうか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:若い人たちを中心に、実は支持者が結構いたんじゃないかと思っています。といいますのは、これまでジャーナリストや野党指導者たちが不審死を遂げてきましたが、ナワリヌイさんは汚職をテーマに掲げ、反プーチン活動を広げてきました。一般市民にとっては、自分がこんなに貧しいのに、プーチン政権の政治家たち・仲間たちが、こんなお金儲けをしているのかと、それを暴いてきたのがナワリヌイさんでした。ネットで公開してきたことで支持が広まってきました。
そんなナワリヌイ氏は、2020年には、毒殺未遂事件に遭い、ドイツで治療を受けた。そして2021年ロシアに帰国した直後、拘束され、「過激派組織創設」などの罪で禁固19年となった。ロシア連邦刑務所によると、2月16日に刑務所内で散歩した後、意識を失い死亡。死因は、突然死症候群。母親が遺体を引き取りに行ったが、遺体の所在が不明だと発表している。
これはプーチン政権が死因を隠しているということだろうか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:プーチン政権からすれば死因を隠すだけではなく、遺体を遺族に引き渡さないというところが非常に重要なことです。なぜかというと、遺体を引き渡すと、大規模な葬儀が首都モスクワで行われるかもしれない。そこが反プーチン集会になってしまうということを、プーチン政権は気にしています。
■ナワリヌイ氏の死がロシア大統領選挙に与える影響

3月17日にロシア大統領選挙が行われる。候補者は、再選を目指すプーチン大統領の他に、プーチン政権に従順な候補者ら3人、合わせて4人が候補だ。反プーチン派の候補者は出馬が認められなかった。
中村さんによると、ナワリヌイ氏は17日、午後0時に投票所で、自分に投票するよう支援者に呼びかけていたということだ。これはどういう狙いがあったのだろうか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:投票所はロシア全土に開設されますので、そこに反プーチンの人たちが集まってきて、赤い薔薇、またはカーネーション持って集まる。そして投票所で投票用紙にナワリヌイさんの名を書こうということです。そうすると当然、選挙管理委員会の人と一般市民との間で混乱が生じ、それをロシア全土で引き起こして行くということです。
プーチン大統領からすると疎ましい存在だったわけだが、ナワリヌイ氏が亡くなり、このことが世界にはどんな影響があるのだろうか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:ナワリヌイさんが亡くなった直後、奥さんがミュンヘンの国際会議に出席して、プーチン政権に非常に厳しい非難の声をあげました。そしてナワリヌイさんの死は、単にナワリヌイさん個人ではなく、プーチン政権の犠牲になっているウクライナに対して、非常に大きなメッセージを与えたと。欧米諸国はウクライナへの軍事支援が非常にここに来て滞ってきている。そこにやはりウクライナを支援しないといけないと言う声が、だんだん盛り返してくるという流れになってきています。
日本も含め、どのような反応をしていくのだろうか?
関西テレビ 神崎報道デスク:アメリカ大統領がプーチン氏を批判しましたが、実は日本政府として、官房長官が『政府として重大な関心を持ち注視している』と、表立った非難を避けました。当然、日本としては領土問題もありますし、表立った非難をせずに、今の状況を静観している状態です。
■プーチン氏の後継者は、長女のマリヤ氏か?
3月に行われる大統領選で再選される可能性が高いというプーチン大統領だが、まだ、やり残したことがあるということだ。
それは、プーチン大統領の「長女・マリヤ氏を自分の後継者に」ということだそうだ。何が狙いなのだろうか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:プーチン大統領が今年72歳。ロシア人の男性の平均寿命が68歳と言われていますので、そろそろポストプーチン、自分の後継者を考えなくてはいけないということです。プーチン大統領にとっては、身の安全、財産を守ってくる人を後継者にすえなくてはいけない。誰が信用できるのかということで、突然ですけども1月に、長女・マリヤさんのインタビューが公開されました。意外なのですが、ロシア国内でマリヤさんは聡明な人ではないかという声が上がっていて、高い評価が広まっています。プーチン大統領はマリヤさんに引き継ぎたいと考えているのだと思います。
考え方もプーチン大統領を受け継いでいくという形になるのだろうか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:このままプーチン大統領の政策を引き継ぐのは、非常にリスクが高いです。あえてマリヤさんはプーチンと真逆なこと、ロシアで一番大切なことは人の命だと言っています。ですからこれはお父さん・プーチンを直接批判はしていませんが、プーチン政権の後、まさに父親がやってきた真逆のことを打ち出すことによって、新鮮さまたは新しい体制を築いていくというアピールをしているのだと思います。
2000年に大統領に就任したプーチン大統領だが、3月の選挙に当選すれば、任期は2030年まで、さらに続投すれば、2036年までということになる。
ナワリヌイ氏の死に疑いが強く持たれている状態というのは、かえって政権批判を強めることにはならないのだろうか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:本当に誤算だと思います。プーチン大統領はこの10年間、ナワリヌイさんを利用してきた、そしてその結果大きなリスクを今、負っているということです。一気にナワリヌイさんの死をもって、反プーチン勢力が勢いづくという状況になってきています。
■プーチン政権に不信感を持つ人たち クーデターを仕掛ける可能性も

視聴者から質問。
‐Q:反プーチン派は、ロシアでは生きていけないのですか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:もちろんこれまで声を上げること自体も、非常に危惧する市民が多かったのですが、ここにきて、もう今のロシアに黙っていることはできないと、ナワリヌイさんの死を悼むということで、全国の主要都市にいろんな人が集まって、哀悼の意を表しています。これまで黙っていた、沈黙していた市民たちが動き出しています。
‐Q:ロシアでクーデターは起きる?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:もちろん市民たちが立ち上がって、反プーチン政権を声高に訴える、それだけではなくて、プーチン政権の内部で、今のプーチン大統領に対して不満を持っている、経済担当の閣僚や官僚たちが一定数いますから、市民運動とプーチン政権の内部のプーチン大統領に不信感を持っている人たちがうまくつながれば、プーチン政権に対してクーデターを仕掛ける可能性が出てきます。
反プーチンという考え方をナワリヌイ氏が広めてきたが、亡くなったことによって、そのステージが上がってきている、温度感がさらに高まってきているという状況なのだろうか?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:そうですね。それに呼応する形でプーチン政権の内部の政治家たちにつながってくる可能性があります。
‐Q:ロシア国民は政府を信じている?それとも、怖くて言い出せない?
筑波大学名誉教授 中村逸郎さん:これまでは、怖くてなかなか口にできなかった。ただ水面下で、実はプーチン大統領の支持率点はどんどん下がってきていて、独立系の世論調査ですが、プーチン大統領を支持する人は27%しかいない。来月の大統領選挙が公正な選挙で行われると思っている人が6割しかしない。40%の人は不正選挙が行われていると、世論調査に対して声をきちんと出し始めています。
ナワリヌイ氏の死は国内外に大きな影響を与えそうだ。
(関西テレビ「newsランナー」2024年2年19日放送)