“泣く子も黙る”ではなく、“泣く子がさらに泣き叫ぶ”という「モットモ爺(じい)」を知っているだろうか。長崎市手熊(てぐま)地区に古くから伝わる節分行事「モットモ」。新型コロナの影響で中止を経て、今年4年ぶりに帰ってきた。

泣き声が大きいほど”福”を呼ぶ

カッと目を見開き、大声をあげ、子ども達を恐怖に陥れるのは「モットモ爺」だ。

世にも恐ろしい姿で追いかけてくるモットモ爺に、子どもたちは家の中を逃げまどい、町中に響かんばかりの泣き声をあげる。その、子どもの泣き声が大きければ大きいほど福を呼ぶと言われている。

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長崎市西部、手熊地区に古くから伝わる「モットモ」は、国の選択無形民俗文化財にも指定されている節分行事で、どこよりも早く福を呼び込もうと毎年節分の前日の2月2日に行われている。しかし新型コロナの影響で2020年の開催を最後に中止が続き、今年は4年ぶりの開催となった。

言うこと聞かない悪い子には…

「モットモ」は、3人1組で家々を周る。

2019年 モットモ
2019年 モットモ

年男と福娘に扮した男性が豆をまいて福を呼び込み、さらにモットモ爺が「モットモ―ッ!!」と床を激しく踏み鳴らしながら大声を張り上げ、鬼を追い払う。「モットモ」には「福が来るのは当たり前=もっともなことだ」という意味があるという。一年の無病息災と福を呼び込む、ありがたい「モットモ」だが、子どもにとってはただただ恐怖しかない。

鬼退治と言わんばかりにモットモ爺に豆を投げつける子どももいる。そのとき、モットモ爺から必死に逃げる子どもたちが口々に言う言葉がある。

モットモ爺から泣きながら逃げる(2019年)
モットモ爺から泣きながら逃げる(2019年)

子ども:
おりこうにします ごめんなさい~

モットモ爺に必死の抵抗(2019年)
モットモ爺に必死の抵抗(2019年)

普段の生活でも子どもたちが言うことを聞かないとお父さんやお母さんが「モットモ爺が来るぞ」と言うと途端に大人しくなるほど、子ども達にとって「モットモ爺」の威力は絶大だ。

モットモ爺もビックリ!?子どもたちの秘策

しかし、子どもたちも「モットモ爺」の恐怖から逃れようとあの手この手で応戦する。

毛布にくるまって隠れる男の子(2019年)
毛布にくるまって隠れる男の子(2019年)

まずは「隠れる」作戦。

モットモ爺に見つからないよう、テーブルの下やふすまの影などいろんな場所に隠れる。毛布にくるまり姿が見えないようにする子どもも。しかし、そこは地区の伝統行事。自分が子どもの頃には隠れる側だったモットモ爺には子どもの隠れる場所が手に取るようにわかり、どこにいてもすぐに見つけ出されてしまう。

あえなく見つかってしまう
あえなく見つかってしまう

見つかった男の子:
おりこうにします(泣)

こちらでは子どもたち3人が正座でお出迎え。「感謝」と「礼儀正しさ」で訴える作戦だ。

正座でモットモ爺をお出迎えするも…
正座でモットモ爺をお出迎えするも…

正座をしてモットモ爺を迎えた3人:
いい子にしていました。よろしくお願いします!モットモの皆さん、し・・しごとを頑張ってくれてありがとうご…

無情にも連れていかれてしまった
無情にも連れていかれてしまった

用意したセリフを最後まで言い切ることなく、無情にも3人のうち1人がモットモ爺に連れていかれてしまった。

さらに、斬新な作戦を立てた子どももいた。モットモ爺に直筆のメッセージを書き、「いつもは近所の優しいおじさんが怖いことをするはずないよね?」と情に訴える作戦だ。

自分の名前が書かれた紙を渡されたモットモ爺・島内幸崇(ゆきみつ)さん
自分の名前が書かれた紙を渡されたモットモ爺・島内幸崇(ゆきみつ)さん

“手紙作戦”の子ども:
みんなで作りました

渡された紙にはモットモ爺役を務めた人の名前が書かれていた。モットモ爺は手紙をもらったのは初めてでさすがに驚いた様子。恐ろしい顔がほころび「ありがとう。また来年もくるけん」と嬉しそうに言うと、子どもからはすかさず「もう来んでいい」の一言。

担い手不足の課題も 

手熊地区の「モットモ」は少子高齢化による担い手不足も課題で、今年も町外からの助っ人たちが一部の役を担うなど、継承が難しくなっている。

手熊町・川勝貞敏自治会長:
子どもたちにモットモ爺を近づけることで記憶に残っていただいて、先々引き継いでもらえれば活性化できるのではないか

子どもたちの記憶に色濃く残るだろう「モットモ」。まちに福を呼び込む伝統行事は、地域の人たちの手で大切に守られている。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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