人生の転機は誰にでも訪れる。どんな名選手にも。

読売ジャイアンツ・坂本勇人内野手。右打者として史上最年少(31歳11カ月)で2000安打を達成するなど、言わずと知れた日本プロ野球界を代表する名選手だ。

そんな坂本にも、プロ野球人生18年目に曲がり角が訪れようとしている。

長年球界屈指の名手として守り続けて来たショートから、プロ野球人生初のサードへ。

5度のゴールデングラブ賞に輝いて来たポジションから慣れない守備位置へ転向する。

並外れた巧打者にして、類まれな守備力の持ち主。しかし輝かしい栄光も振り返れば決して平坦な歩みではない。

野球人生の分岐点を迎えた35歳の坂本勇人の今を、その足跡とともに追う。

2024年 新たなスタート

2024年1月、練習初めは沖縄から。巨人の若手選手4人と他球団の若手選手3人、合計7人を交えた合同自主トレは、参加したいという声があれば球団に関わらず受け入れている。

楽しくやろうと、ウォーミングアップ中にこんな場面も。

メディシンボールを使ったトレーニング
メディシンボールを使ったトレーニング
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重さ3kgのメディシンボールを投げ、滞空時間を計るトレーニング

(オコエ投げて)「2秒47」

(平良投げて)「2秒51」

坂本「何でみんな、そんなに上がるん?」

(坂本投げて)「2秒35(笑)」

若手選手たちを委縮させないように、伸び伸びとトレーニングができるように努めて笑顔を見せる坂本。まさに思い通りの雰囲気でスタートだった。

若手とともに汗を流す
若手とともに汗を流す

プロ18年目。ここまでやってこられたのは自分の才能を過信しなかったから。

それは今でも変わらない。

ライトポールからレフトポールまでの間、約141mを16本、この日も若手に負けまいとキツイ走り込みをやり切った。

プロ18年目 坂本勇人(35)
プロ18年目 坂本勇人(35)

ディレクター:
天気が良くていいですね?

坂本:
最高!マジで。

ディレクター:
メニューはどうやって決めていますか?

坂本:
いつもみんなで考えてやっている。

中学時代からショート一筋だった坂本は、今年からサードに転向する。本来であれば、その事で精一杯のはず。

後輩に守備の指導
後輩に守備の指導

室内での守備練習が始まると、積極的に後輩に声をかけアドバイスを送る坂本。

「待ってる時間が短すぎやって」

我が身を差し置き、誰にでも分け隔てなく。身振り手振りを交え、実演をして後輩にアドバイス。

坂本が声をかけたのは、プロ2年目の楽天・平良竜哉(25)。

「手でタイミングを取っているから、手で合わせているのを、それを足で。常に同じ間合いで、土だろうがこの“うーん”っていう間。言葉じゃ言い表しづらいけど。ゴロ捕りでやるから。右足死ぬけど、マジで」

なぜ坂本は自分の時間を割いてまで他球団の後輩にアドバイスを送るのか?

今年から全く未知のポジション・サードに転向する、自身の人生でも一番大事な時なのに。

その秘密はこれまでの道のりにあった。

宮本慎也さんに弟子入り

高校野球の名門、青森の光星学院(現・八戸光星学院)時代から、打てるショートとして評価をされていた坂本は2006年高校生ドラフト1巡目で巨人に入団。

2年目からレギュラーの座をつかみ、3年目には打率.306をマーク。翌年にはホームラン31本と、バッティングに関してはトントン拍子で活躍していった。

ところが、守備には課題が残り、4年連続でセ・リーグのショート最多エラーを記録。

プロの壁にぶつかった。

一念発起して、2012年に当時まだ現役だったヤクルトの名ショート、ゴールデンクラブ賞を10度も受賞した宮本慎也さん(当時41歳)に自ら弟子入りした。

宮本慎也さん(左)に弟子入り
宮本慎也さん(左)に弟子入り

軽快にノックを捌く坂本に対して宮本さんは。

宮本:
坂本、教えがいがあるわ。

坂本:
はい。

宮本:
ここの間(捕球するときに右足を踏み込んでからの間)も大事やし、早めに間を取って、ここでも(左足をついて捕球体勢に入ってからも間を)取れるくらい。

宮本から教わったのは、捕球体勢に入ってから捕球するまでの”間”だった。

宮本さんから守備の多くを吸収した
宮本さんから守備の多くを吸収した

球団の枠を超えての熱い指導に、宮本さんは。

「来た時からは良くなっていると思うんだ、毎日見ていて変化はあるから」

その指導を受けた甲斐もあって、坂本はゴールデングラブ賞を5回も受賞。球界を代表する名手へと成長した。

そして今、球団の垣根を越えて宮本さんに教わった事を自らも若手にしている。

全ては日本のプロ野球界の発展の為に。

25歳で任されたキャプテンの大役

2014年の優勝旅行で、25歳の坂本に転機が訪れた。

原辰徳監督(当時)が、関係者が一堂に会するパーティーの場で発表した。

原:
来季からのキャプテン、坂本勇人。

坂本:
精一杯頑張ります。宜しくお願いします。

巨人での「戦後最年少」キャプテンに
巨人での「戦後最年少」キャプテンに

2015年。若くして、第19代のキャプテンに就任。当時、巨人はリーグ3連覇中、黄金期を受け継ぐ重圧があった。

本当は嫌だった。

なぜなら、言葉で人を引っ張るタイプではないから。常勝・巨人軍を率いるプレッシャーは並大抵のものではなかった。

そんな坂本の背中を押してくれたのは、第18代のキャプテンであり、1年目のシーズンオフから自主トレを共にしてきた阿部慎之助(現監督)だった。

ディレクター:
どんなキャプテンになって欲しいと思いますか?

阿部:
そのままで良いと思う。チームがこう(悪く)なった時に、自分が思っていることをみんなに伝えられるかっていうことだけだから。そんなに難しく考えず。

ディレクター:
それを聞いていかがですか?

坂本:
自分らしく、とりあえずやってみて、(チームの状態が)悪くなった時に感じたことを、ほとんどの人が年上の方ばかりなので、言いづらいでしょうけど、そこはなんとか、そういう立場になりましたし、勇気を持って言えるようになりたいと思っています。

しかし、キャプテン就任1年目で巨人は4連覇を逃す。

そして毎年恒例だった合同自主トレでは、坂本に全てを委ね、阿部慎之助が離れていった。

坂本主体での自主トレへ
坂本主体での自主トレへ

この年から坂本自ら後輩を率いての自主トレが始まった。教えなければいけない立場へ。

自覚が芽生えた新キャプテンは託された後輩に自分をぶつけていった。

先輩から教わったことを後輩へ
先輩から教わったことを後輩へ

「ずっと阿部さんにお世話になっているわけにはいかないなっていうふうに僕も思っていましたし。本当に今回は良いタイミングだったと思いますし、もっともっと自覚を持って、僕らが阿部さんに教わったことをこれから若い選手にいっぱい教えていけるように。今はそういう気持ちでやっています」

人は教わり、教えることで成長することに繋がる。

2020年、右打者最年少での2000安打達成。2023年、ショートとして2000試合出場など、苦しみ中での成長したことで、坂本は球界のスターへと駆け上がっていった。

野球人生の大きな分岐点

衰えから逃げ切れる選手はどこにもいない。

35歳、プロ18年目の坂本もまた…。

ディレクター:
年齢を重ねて、体の変化というか感じるものは?

坂本:
ありますね。うん。それは間違いなくありますね。最近でいうとそうだな…サッカーをしていたら足が思うように動かなくて、つまずいてちょっと足が痛いみたいな(笑)あれ?みたいな。昔は絶対なかったな、みたいな。

本人は冗談めかしているが、昔と違うのは事実。ここ2シーズンでケガによる戦線離脱は4回を数えた。

2022年3月:左わき腹の筋損傷
          4月:右ひざ靭帯損傷
    7月:腰痛(仙腸関節炎)
2023年6月:右太もも裏の肉離れ

去年の9月、坂本はある現実と向き合うことになる。

中学時代からの慣れ親しんだ守備の定位置ショートを離れてサードへ。

ショートからサードへコンバート
ショートからサードへコンバート

前後左右に動き回るショートに比べてサードの守備範囲は狭く、体への負担を考えてのコンバートだった。かつて守備を教えてくれた球界屈指の名手、宮本慎也さんも晩年同じくサードへ転向していた。

しかし、配置換えは簡単でないことも事実。もとの職域の経験や癖が邪魔になるからだ。

今年1月の自主トレ中では、キャッチボールの途中で練習相手をファーストに移動させ、自身はサードへと移動し、投げる距離の感覚をつかむようにキャッチボールを再開させた。

どんな世界にも世代交代はつきもの。その仕事に適応できなければ居場所を失うだけ。

サードからの距離・感覚に慣れる
サードからの距離・感覚に慣れる

ディレクター:
ショートとサード全然違いますか?

坂本:
(サードは)動きが少ない。

ディレクター:
打球の処理はどっちが難しいですか?

坂本:
サードの方がむずい。まあでも、バウンドの数がサードの方が少ないから楽は楽。合わすのがないから。パンって捕るだけだから。ショートは合わせて捕らないといけないから。守っている時のドキドキ感というか、すごく新鮮で、もっと練習しないとやばいなって思いながら去年も守っていたんで、全然その距離も違いますし、角度も違うし、全く違う風景で野球をやっていたんで、そこの不安はありますね。まだ経験していない打球もいっぱいあるので。

居場所を掴むため、こんな試みも。

グローブにもこだわりが
グローブにもこだわりが

坂本:
去年ショートで使っていたグローブでサードを守って、ちょっと大きい方がいいなっていうのを、野球していて初めて思ったんで、大きいグラブも試しているんですけど。ちょっとだけ大きいんですよね。

ディレクター:
どの辺が、どれくらい大きくなっている?

坂本:
やっぱこの(捕球部分)長さですね。そんな何cmとかじゃないんで、何mmとかでも全然違うんで。

去年との違いはわずか5mm。

坂本:
これぐらいのサイズ感で守りたいですけど、どうですかね。今年試合でこれ使っているのか分かんないですけど、去年のやつを使うかもしれないですね。もしかしたら。

ディレクター:
感触的には?

坂本:
まだまだ。

たった5mmの試行錯誤を行っている。それが坂本勇人の覚悟。失った若さと引き換えに手に入れられる物もある。

新たな挑戦は、これからが正念場を迎える。

ディレクター:
ちょっと言葉は悪いですけど、未練や葛藤みたいなものは?

坂本:
ないですね。ショートの守備が全くダメになって、サードにいったという訳では自分の中ではなかったですけど、なんか想像していたので。自分で凄くイメージできていたことだったので、ちょっと思ったより早かったなっていうだけで、サードでゴールデングラブを取りたいってまた思えましたし、何か新しい野球人生がまた始まるのかなっていうのは、そういう感じのワクワク感はすごく強いですね。

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2月17日(土)24時35分から
2月18日(日)23時15分から
フジテレビ系列で放送

17日(土)は、読売ジャイアンツ・坂本勇人と元女子ソフトボール日本代表監督・宇津木妙子さんのスペシャル対談を特集。沖縄自主トレの合間で、母と息子ほどの年齢差の2人がどんな話をするのか?お楽しみに!